「うわー、凄い凄い!!」
ビスクへ着いたライチは、まずはその立派な城塞に圧倒された。
「わー、大っきー!!」
中央広場で、三体の像を見上げて叫ぶ。
「おー、戦ってるー、がんばれー!!」
闘技場の観客席に紛れ込んで、勇壮な戦いを見物する。
「きれー、すごーい。」
大聖堂の前では、その豪華さに見とれる。
「わー・・・。」
そして、イルミナ城を見上げて、絶句していた。
そうやって、力一杯ビスクをウロチョロウロチョロ・・・。
まあ、それだけはしゃいだ後は。
「あー・・・お腹空いたな・・・。」
当然、こうなるわけで。
ライチはお腹を押さえながら、ビスク港をヨタヨタと歩いていた。
その時。
他人の数万倍は感度が高いという、ライチの鼻センサーが、ある臭いを捉えた。
「こ・・・この臭いは・・・。」
思わず、その発生源を探る。それは程なく、発見出来た。
トントントン・・・グツグツグツ・・・ジャッジャッジャッ・・・。
海が見渡せる高台に、キッチンがあった。そこでは数人の料理人が忙しそうに、食物を切り、煮て、炒めていた。
「うわー・・・美味しそう。」
テキパキと出来上がる料理を見て、ライチは思わず感嘆の声を漏らす。
思わず、ヨダレが一滴。
その時、背後から声をかけられた。
「あらあら、坊やはお腹が空いているのかな?」
「え?」
慌ててヨダレを拭きながら振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
銀髪の上に丈の長いコック帽を被った、ニコニコと笑っているニューターの女性。
ライチが「はい。」と言おうとした直前に。
お腹が、先に答えを言った。
ぐう~っ
「あらあら、本当にお腹が空いているようですわね。」
ライチは首を縦にブンブンと振る。
「ほら坊や、これを食べなさい。熱々で美味しいですわよ。」
そう言いながら、女性は焼いた肉が盛られた皿を差し出した。
「いいんですか? いただきまーす。」
ライチはそれをむんずと掴むと、一瞬で口に放り込み、胃に流し込んだ。
「美味しい!」
「ほら、まだあるわよ、沢山食べなさい。」
女性はそう言いながら、机の上を指差した。そこには、大量の焼き肉が、皿の上に盛られていた。
・・・・・・・・・。
「ごちそうさまでしたー。」
ライチはパンパンになったお腹をさすりながら、満足そうにゲップを一つ。
一方、女性の方は。
笑顔が凍り付いていた。それもその筈、机の上にあった大量の焼き肉は、全て姿を消していたからだ。
「よく食べたわね~。(・・・この、大食いエルモニーが。どうなってるのよ、その胃袋は。)」
心の中で毒づく。
だが、そんな事など一ミリも察知しないで、ライチは笑顔を女性に向ける。
「ありがとうございました。美味しかったです~。」
「そ・・・そう。それは良かったですわね。(良くないわよ。たかだか新人一匹勧誘するのに、ローストスネークミート100皿も使っちゃうなんて、大赤字だわ。ま・・・まあ、いいわ。今はそれより、勧誘勧誘。)」
女性は気を取り直すと、ライチに声をかけた。
「ここはシェル・レランというレストランですわ。私は総料理長のシレーナというの。坊やの名前は何なのですか?」
「僕はライチって言います。」
「そう、ライチ君って言うのね。ライチ君は、この島に来たばっかですよね?」
「え? あ、はい。そうです。どうして分かったんですか?」
「ふふふ・・・ちょっとね。(あんなのにキョロキョロと見回しながら街歩いてれば分かるわよ、鈍いわね。)」
再び心の中で毒づく。それを決して、顔に出さないように。
「実はね、この島では旅人達が路頭に迷わないよう、支援するギルドがいくつもあるの。このレストラン、シェル・レランもその一つなのですよ。」
「へー。もしかしてここに入ったら、この焼き肉食べ放題なの?」
「ふふふ・・・シェル・レランは料理人を養成するギルドですから、自分で美味しい物を作れるようになってもらうのですよ。(何をバカな事を言ってるのよこのガキは。そんな食べられたら破産するわよ、破産。)」
「ホント? 僕も美味しい料理が作れるようになるの?」
「ええ。ライチ君の努力次第ですけど、きっと美味しい料理が作れるようになるわよ。(ふう・・・やっと、まともな言葉を聞けたわね)」
「じゃあ僕入る! 美味しい料理食べる!!」
「そう。修行は厳しいかもしれないけど、一緒に頑張りましょうね。(このガキは脳みそが胃袋で出来ているのかしら。まあいいわ。これでまた一つ私の野望に近づいたって事ね。)」
「はーい!」
ライチは元気良く手を挙げた。
「しゅぎょう! しゅぎょう!!」
そしてそのまま、キッチン内をはしゃぎ回る。
「あらあら、元気ですわね。(うるさいわね、このガキは) それじゃ早速・・・。」
「あー、あれって灯台? 灯台? 凄く大きい~。ね、ちょっと見てくる。シレーナおばさん、またね~!!」
「お・・・おば?」
ライチは元気良く駆けていった。
その後の、シェル・レランでの惨劇を知ることなく・・・。
(第3章 完)