ザザァ・・・ ザザァン・・・
「(何だろ・・・この音・・・波の音・・・?)」
少年は目を覚ました。身体を起こし、キョロキョロと周りを見渡す。
目に飛び込んできたのは。
海と、砂浜と、崖。どれも見覚えのない光景であった。
「(ここは・・・そういえば僕は・・・?)」
少年は混乱する頭を抱えながら、必死で思い出そうとする。
どうして自分が、こんな所にいるのか。
そして・・・思い出した。
「(そうだ! 僕は・・・船から落ちて・・・溺れて・・・。ここに流れ着いたのかな?)」
立ち上がり、自分が倒れていた場所を見る。波打ち際からは大分離れているが・・・。
「(まあいいや。)」
少年はあっさりと、疑問を投げ捨てた。
「(それよりここは・・・どこだろう。)」
もう一度、辺りを見回す。すると、崖の下に焚き火を見つけた。それと・・・その前で佇む人影を。
「(人だ・・・あの人に聞いてみよう。)」
少年は真っ直ぐに、タッタッタッとそこへ駆けていった。
焚き火の前の人は後ろを向いていて、顔が見えない。
「すいませーん。」
その人は少年の声に気づき、振り返った。
「!!」
少年は思わず足を止めた。
その顔に驚いたからだ。
少年の顔や、少年が今まで見てきた様々な人の顔と明らかに違っていたからだ。
深い皺に、毛むくじゃらの表皮。髪の毛は逆立ち、目はぎょろっとしている。
「あ・・・あ・・・。」
少年は恐怖と驚きのあまり立ちすくむ。
その様子を察してか、その人が先に声をかけた。
「ふぉっふぉっふぉっ・・・驚く事はない。我々はモラ族という。普通の人間達とは風貌が違うが、安心せい。とって食ったりはせん。」
モラ族と名乗る人は、少年にも理解出来る言語で語った。
「儂はヤークという者じゃ。旅人よ、お主の名は?」
「ラ・・・ライチって言います。」
「ライチか。まずはようこそ、ダイアロス島へ。お主はこの島を目指して旅をしていたのだろう?」
「あ、はい。そうですけど、何でそれを?」
「この島を目指した冒険者は、皆この砂浜へやってくるのじゃよ。お主のようにな。」
「へー、そうなんですか。」
ライチは深く考えずに、相づちをうつ。
「ふぉっふぉっふぉっ・・・さてとライチよ、お主にはまずこの島で生活する為に必要な知識と技術を身につけて貰う。あそこに扉があるのが分かるか?」
ヤークはすっと、腕を水平に上げた。
その先に、白くて大きな扉があった。
「あの下にドーンという者がおる。そやつにこの島での生活法を学ぶんじゃ。」
「あ・・・あの。一つ聞いて良い?」
「何じゃ?」
「何でそこまでやってくれるの?」
「ふぉっふぉっふぉっ・・・お主達旅人は、この島の希望なのじゃよ。分かるか?」
ライチは腕を組んでウーンと考えてから、首を横に振った。
「ふぉっふぉっふぉっ・・・まあ、そうじゃろう。それはお主自身で見つける事じゃ。さあライチよ、ドーンが待っておるぞ。早く行くがよい。」
「あ、はい。ありがとうございました。」
ライチはペコッと頭を下げると、扉へ向けて駆けていった。
その姿を見送ってから、ヤークは呟いた。
「頼むぞ、ライチ。この島の未来を・・・。」
しかしこの時はまだ、ヤークも分かっていなかった。
ライチというエルモニーが、そんな大業に関わりもしないって事に・・・。
(第1章 完)