「さてとライチよ、ここでの生活はどうかの?」
 イーノスはにこやかな笑顔で問いかける・・・が、そのコメカミには血管が浮き出ている。
 「はーい、とても楽しいです。」
 ちゃぶ台に茶碗を置いて、ライチは手を上げながら元気良く答えた。
 「そうじゃろうな・・・たかだかトレード方法と生産方法と戦闘方法と泳ぎ方と死体回収の方法を覚えるだけなのに、もう一週間も滞在しておるからの・・・。」
 「だって、ごはん美味しいんだもん。ねえ、もう一日ぐらいいてもいい、いい?」
 ライチはニコニコと笑いながら聞く。
 「・・・駄目じゃ。」
 イーノスはニコニコと笑いながら答える。ついに反対側のコメカミにも血管が浮いた。
 「えー。」
 「えーではない、この穀潰しが!!」
 ついにイーノスの、堪忍袋の緒が切れた。
 むんずと、ライチの首の裏を摘み、持ち上げる。
 「にゃ! にゃにゃにゃ!!」
 ライチは叫びながら両手両足を空中でバタバタさせるが、無駄な抵抗。
 「ええい、暴れるな! ほら行くぞ。」
 その格好のまま、二人は部屋を出た。
 ・・・・・・。
 そしてアルター前。
 「さてとライチよ、お主にはここから旅立って貰う・・・って、聞いておるのか!」
 未だに首の裏を摘まれているライチは・・・その宙に浮いた体勢のまま。
 「・・・んん・・・お空飛んでる~・・・zzz。」
 寝ていた。
 「起きんか、この馬鹿者!!」
 「ひゃあっ!!」
 怒鳴り声に驚いて、ライチは目を覚ます。
 「はあ・・・はあ・・・。全く、お主は・・・。」
 「あ、イーノスさん、おはようございます。」
 「おはようではない! さて・・・ライチよ、お主にはここから旅立って貰う。というかさっさと行け!」
 イーノスは乱暴に、ライチの身体をアルターへぶん投げた。
 「にゃにゃにゃ!?」
 その身体は栄光への架け橋となるような、綺麗な放物線を描き、アルターの丸い床へ落ちた。

しりもち
  どさっ!

 「痛たたた・・・。」
 身体を起こし、打ち付けた尻をさすりながら、涙目をイーノスへ向け抗議の意志を示す。
 イーノスはそれを完全無視して、説明を始める。
 「それはアルターという装置じゃ。ダイアロス島の主要四都市へ繋がっている。行きたい都市を心に浮かべれば、そこへ行けるはずじゃ。そして最後に餞別じゃ。本来ならこれから進みたい道を聞いて、それに沿った贈り物を渡すのだが・・・勝手に選ばせて貰ったぞ。」
 そう言いながら、左手に持っていた袋をアルター内へぶん投げた。
 「え・・・えと、ありがとです。それじゃ・・・。」
 ライチはアルターの床にちょこんと座りながら、思考を巡らせた。
 思い出したのは・・・ラーナ・タングンでの出来事。
 ウロウロしているライチに声をかけて、一緒に冒険をしてくれたお姉さん。
 すらっとした背の高い、青い髪のコグニート。腰に二本の剣を、背中に大きな剣を持った、三刀流のサムライ。
 「(名前は・・・リエルさんだったかな。お姉さんは確か・・・。)」
 すっと、ライチが立ち上がる。
 「イーノスさん、僕はビスクって所に行きます。」
 「おお、そうか。ビスクはこの島で一番大きい都市だから、準備には事欠かないじゃろ。」
 「ビスクって所には美味しい食べ物が沢山あるって聞きました。」
 その言葉を聞いて、イーノスはついにうなだれてしまった。
 「・・・もう何でもよい。早く行ってくれ。」
 「はーい、イーノスさん色々とありがとうございましたー。」
 ライチはぺこっと頭を下げると、その身体はスウーッと消えていった。


 「・・・やっと行ったか。ったく、疲れたわい。」
 イーノスは背中をトントンと叩きながら、部屋へ戻っていった。
 「次からは・・・呼び戻す魂を考え直さないとな。」
 そう愚痴りながら。
 (第2章 完)