ラブレス 
桜木紫乃  新潮文庫

 

 

<暗い話に途中で何度も手が止まる>

この本を読むのは2回目だが、出だしのところはもう忘れていたが読み進むにつれて思い出した。またしても桜木得意の暗い、悲しい話で、途中で何度も読む手が止まる。ハッピーエンドで終わらないのが、この作者の小説で、その中でも一層くらい。さすがに道東のドストエフスキーと称される桜木の作品だ。暗い、暗い、極暗だ。不幸の上に不幸が積み重なる。この小説を2回読むのはつらいですね。

<人の好さに付け込まれる百合江>

百合江は人の好さを絵にかいたような性格だが、それゆえ百合江の人生はその人の良さにつけ込まれていく。特に弟子屈から綾子が消えてしまうところがとても悲しい。夫の高木春一は自分の借金の方に綾子を売り飛ばし、その証拠を隠すために戸籍までも偽造する。日の出観光の石黒の求愛にも応えず、理恵を育てていく。アルコールを手放せない母、ハギが家をでていくシーンがとても悲しい。

 

<アル中は不治の病>

この小説の卯一はアル中だ。アル中は一度なると治らない。どんなに禁酒していても一度酒が入るとまた、スイッチが入ってしまう。卯一は断酒する気もないようだ。だから、正真正銘のアル中だ。アル中は家庭を破壊する。アル中のいる家は、家じゅうが酒臭い。だから、うちも家じゅう酒臭かった。酒の臭いがしみついた家。ある時は、日本酒臭、ある時はトリスのウィスキー臭。自分は日本酒は飲めない。親父のアル中のせいだ。家中に漂う酒の臭い。ただ、ビールだけは例外だ。

 

<うまそうにビールを飲む先生>

小学校5年の暑い夏の昼下がり、近所の先生が遊びにきた。アル中の親父が嬉しそうにその日はビールを出した。北海道なのに、とても暑い日だった。先生は汗を拭きながら出されたビールを実にうまそうに飲んだ。アルコールに嫌悪感を持っていたが、あまりに先生がおいそうにビールを飲むので思わず先生に聞いた。

「それって、おいしいの?」。

「ビールのことかい?拓ちゃんも飲むか?」

「うん」

「少しだけだぞ」と、先生はそう言って、それでもコップ一杯にビールをついで、コップをわたしてくれた。

 

<信じられないくらいおいしいビール>

多分、気温と、それから湿気とその他もろもろが重なって、そのビールは信じられないくらいおいしかった。苦い風味がなんともいえなかった。思わずごくごくと半分以上飲んでしまった。

「飲みすぎだよ。拓ちゃん。大きくなったら酒飲みになるぞ」と先生は慌ててコップを僕の手からひったくった。

 

<酒は決して飲まないと決めた僕だが。。。>

酒は飲まないと決めた僕だが、この苦いビールを飲んでから決心が揺らいでしまった。大きくなったらビールだけは飲もうと。しかし、この苦みのあるうまいビールには生涯で3度しか巡り合うことはなかった。

 

<救いのないママ終わるところが。。。>

最後のシーンで娘が生きていて、演歌歌手、椿綾子として成功し、それを百合江が知っていたこと。宗太郎が百合江の死のベッドで「ユッコちゃん。。。」と呼ぶシーンがないと、本当につらいママで救いのない物語で終わってしまうところだった。

<コロナの中小さな仕事があるだけでも感謝!>

久しぶりに小さな仕事が入ったが、それも終わってしまった。しかし、このコロナの中、小さくても仕事があるだけ有難いと思わないといけないですね。