昔話002 | Cassius Clay(カシアスクレイ)ブログ

昔話002

 幼い頃の話である。

 友人のF君が「銀色のジャンパー」を買ってもらっていた。現在は、ピカピカに光る銀色の服など見かけることは殆どないが、当時としても頻繁に見かけるデザインではなかったように思う。

 宇宙服のように目立つデザインだったことから、仲間内で話題になるまで時間はかからなかった。

 話題の内容も「保温性にとても優れている」という普通のものから、中には「消防隊員の着ている耐熱服と同じ素材である」という無茶苦茶なものもあり、最終的には「実は防弾チョッキである」等と、荒唐無稽なものにまで発展してしまっていた。
 実際のところ、薄手のビニール素材の何の変哲もないジャンパーであったにも関わらずである。

 それだけ、子供達には未来を感じさせる色とデザインに見えたのだろう。また、幼い頃に、ハデな色のものを好むという特徴もあるかもしれない。

 そんなある日、僕はF君にジャンパーの実力を見てみないか? ともちかけた。
 つまり、銀色のジャンパーがどれほどの熱に耐えられるか実際に実験してみたくなったのだ。

 F君も周囲から「耐熱服カッコイイ」等と言われて、すっかりその気になっていたのだろう。その申し出を軽く了承するとライターで火を点けてみようということになってしまった。

 ここで告白をするなら、僕自身は「ひょっとしたら、単なるビニールではないか?」と感じてはいたのだが、やはり周囲の意見を聞いているうちに、その気になってしまったのだろう。恐ろしいものである。

 F君はジャンパーを脱ぐと、友人達の注目の中、家から持ってきたライターで火を点けたのだった。

 当然、普通のビニール素材の服である。それは耐熱の性能を見せることなくあっという間に燃え上がってしまった。

 あたりには科学繊維の焼ける嫌な臭いが立ちこめ、元がなんだったのか判別できない黒い塊が残った。

 その時、誰も何も話さなかったと記憶している。暫くは皆でその残骸を見つめるだけだった。そして、一人また一人と背を向けて逃げるようにその場を後にしたはずである。

 ごめんなさいF君、僕があんなことをいい出さなければ・・・。本当に申し訳ない。