11年前、ロンドンに移り住んでから日系企業でアシスタントとして働いてきたけれど、
去年の4月から現地の金融機関で働くことになった。
場所はカナリーウォーフ。
ロンドンの東の端の金融センター。

ロンドンの金融業界はナイツブリッジやウェストエンドは富裕層をターゲットにした
ブティックファイナンスやプライベートエクイティが多い。
ロンドンの中心にあるシティは古くからの金融街で大きな金融機関から
小さな会社までがオフィスを構えている。
ノムラを始め、すべての日系金融機関はこのシティにオフィスを構えている。

そしてカナリーウォーフ。
シティーからモノレールで10分ほど離れたその場所は東京丸の内を思わせる
近代的な高層ビルが立ち並び、JPモルガン、シティバンクなど大手金融機関がオフィスを構えている。
去年の春、私はこの地に期待と不安を抱えながらやって来た。

話は1年以上さか上る。
「Can you introduce me a non-Japanese job?」
そう言って、地元の転職紹介会社・Haysに自分の希望を伝え仕事のチャンスを待っていた。
イギリスへ移り住んで10年、「日本企業」に身を置いてみて分かったのは
本社から派遣されている社員とは違って、ロンドン採用の日本人に仕事のチャンスがないことだった。
駐在員とも日本人以外のロンドン採用の社員とも違う複雑な立場。
逆に日本人以外のロンドン採用の社員の方が仕事のチャンスに恵まれていることを肌で感じた。
自分の中で「違う。このままではいけない。」とロンドンに来た時から思いつつ
英語のレベルに自信がなくダラダラと10年もこの状況に甘んじていた。
月日が経つごとにロンドン1年目からの目標である「現地企業への転職」が遠い目標になりつつあった。
しかし10年という節目を迎えた。
とある日系企業の面接時に人事部長から「それであなたはこの先ずっと日系企業で働きたいということですね」
と問いかけられた時に、「いや自分はずっと日系企業で働きたいとは思っていない」という気持ちに気付かされた。

でも現実的に日本人が現地企業に就職することは難しい。
まず、「外国人=英語ができない」と思われている。
現地企業が日本向けに販路を広げていて日本語が使えるスタッフを募集しているでもない限り
まったく日本語を必要としない仕事に就職することは難しい。
それでも自分を試してみたかった。
日本語を使わない環境でどれだけの仕事ができるのか自分を試してみたかった。
10年目、わがままになって自分がやりたい仕事を見つけたかった。

Haysとの面談から1週間後、仕事の話が舞い込んで来た。
6ヶ月の産休カバーであったものの初めての現地企業で実績が積めるのであれば十分だった。
面接はトントンと進み、1週間で仕事は決まった。

私はEMEAの部長と20人のアナリストを担当するアシスタントとなった。