ちょと抽象的におもむろに。


昨夜は友達と飲み会があって「数人が集まって」というより、

それぞれが懐かしい人に会わせるというコンセプトというか。


そういうイベントでもないのだけど、

まぁ誰が来るのか分からないという闇鍋的な。


初めて会う人だっているという前提もあって、

リアル友達なんだけどオフ会的な流れ。



時間になり個室に次々と人が集まる。

総勢10名くらいの男女。



もちろん殆どは顔見知りで友達で、

「久しぶり~」と自然に声が出る。


パっと見で初見と思えば、

「こんにちは」もしくは「初めまして」となる。



何人か知らない人がいました。

えこは「こんにちは」と言う。



相手は「久しぶり~!」と笑顔で答える。

これは愛嬌の部類で、初対面の人と急接近出来る技。



初見で「久しぶり」と来るなら、

こちらもそれに合わせて「久しぶり」と繋ぎ、

あたかも初見ではないようなミニコント的な滑り出しって時があります。



えこはこういうのが結構好きで、

割としつこく続けがち。



この時も、

「こんにちは」→「久しぶり~!」→「おぉ!久しぶり」

と付き合いました。


もちろん全く見たことが無い人。



このやり取りを見ていた、まだ友人としては浅い友達が、

「お?二人とも知り合いだったんだ~」と興味を示しコントに参入。


「そう、えこさんに会うのめっちゃ久しぶりなの^^」

えこも「そだね~♪」と合わせ撃ち。



おおよそ集まったところで乾杯を済ませ、

しばしこのコントが続きました。



えこは果敢に攻めます。



「どれくらいぶりだっけ?」

「え~、どれくらいだろう」


「6,7年?」

「あ、それくらいかもw」


「そうなんだ~」



相手も負けていません。

ちょと具体的な内容で反撃してきました。



「相談とか乗ってくれてたんだよね」

「そうそう、男関係だっけw」


「あったあった」

「もう別れたの?」


「うんwとっくにww」

「だよね^^」



話が紡がれて行く。



「まだ同じお仕事?」

「ううん、変わったの」


「あの時はなんだっけ?」

「えっと、マックでバイトしてたかな?」


「ああ、マックの相談もあったよねw」

「うんうん、えこさんロッテリアでバイトしてたことあったもんね」




・・・ズキン。




クリーンヒット。

えこは200のダメージ。



確かにえこはその昔、

中学を卒業してすぐ、ロッテリアでバイトをしたことがあった。


なかなかやりおる。

えこの情報が漏れていたのか、偶然なのか。



負けてられない。




「そ、そういえばお酒とか・・好き、だったっけ?」

「相変わらずだよww出産してから少し抑えてたけどねw」




OK、つまりこういうことだ。



彼女は昔お酒が大好きで、

最近結婚し出産した。


今日は久しぶりの飲み会でお酒が飲めるから嬉しい。

この口ぶりだと、きっと昔はハメを外しがちな子だったかもしれない。


相談と言っても大した内容じゃないのに号泣するタイプのような・・・。



OK。




「相談するとすぐ泣くんだもんww」

「ねww泣き上戸酷かったかもww」



む・・自然に返された。

上手いな。くやしい。



そもそも、その子を連れてきた人が参戦してきた。



「お前、だいぶ太ったもんな!産後が大事なんだよw」

「うっさいわね~w」



なるほど、昔は痩せていたと。



えこの中でモーフィングが始まる。

目の前にいる彼女が頭の中でスリム化していく。




OK・・・痩せてたらこんな感じか。




ふむ・・めっちゃ見覚えある感じ。。。






「今もクリーニング屋の実家を手伝ってるんだけどね~、痩せないの」











・・・ドックン。


戦慄が走る。



鼓動が早くなる。





「えっと・・じ、実家どこだっけ?」

「ん?千葉だよ?」











足元に・・・








鍵が落ちてきた。








えこはそれを拾う。





まさか・・ね。






拾い上げた鍵には、

今日のミニコントに出てきた単語が書かれている。





・久しぶり

・数年ぶり

・相談

・マック

・クリーニング

・千葉




息を飲み、決心すると、

えこはそれを勢い良く鍵穴に挿し込んだ。











バクンと開いた記憶の宝箱から情報があふれ出す。

もはや抑えようにも止めることが出来ない。


これまで偶像だった彼女のパーツが、

とてつもない勢いで組み立てられていく。


カラーで鮮明で3Dで。


当時の彼女、今の彼女。


質量が変わっても、

本人でしかありない共通点が全て受き彫りになっていく。


腕、足、胸、首。

彼女が完全体になっていく。


そして顔。


メイクがどのように変わったのか、

会ってなかった数年の移り変わりでさえイメージ出来た。


だから今がある。



性格は何一つ変わっていない。

あっけらかんとした明るい性格。


それは今日、会った瞬間から何も変わっていない真実で、

えこ自らが、目隠しをしていただけなのだ。



ついさっきまで他人だった人間が、

今では往年の古き友人として目の前に座っている。



何度見てもそう。



あなたはあなたであって、

あなた以外の何者でもない。







じゃあ、さっきまで座っていた他人は一体誰なんだ。












コントではない会話が続く。

えこの一人コントには誰も気づいていないようだった。