GRIS CLAIR... SERGE LUTENS
調香のバリエーションは無限です とは言われているけど、何千という香水が発売された今、全く新しい香りを創り出すのは並大抵のことではないでしょう。 そんな中、シャネルやゲランなどの古いメゾンは80年以上前の香水を復活させたりして、その場を凌いでいるわけです。
そんな中、ほかのメゾンとは一線を画す香水を生み出しているのが、セルジュ・ルタンス。デザイナー、アーティストの彼が、クリストファー・シェルドレークと創り出した香りの数々は、今までに無いオリエンタリズムとアヴァンギャルドなエスプリに満ちたもので、香水ファンとしては貴重なメゾンなのです。
今回のグリ・クレール(明るいグレーの意。資生堂のパンフレットがなぜ「淡いグレー」になっているのかは不明)も、彼が造った現代の名香と呼んで差し支えないでしょう。
この香水を語る前に、ひとつ書きたいのは香水のジャンルについて。
香水というのは、全てが違う香りをしている というのが宣伝上うたわれているけど、それは間違い。ほとんど同じ香りも存在する。なぜなら香水にはカテゴリーがあるから。 料理と同じで、シチューならシチュー。カレーならカレー。 ただ材料(の質)とレシピが違うだけ。
今回言及するのは男性用香水の2大カテゴリー 「フゼア」と「シプレ」。
フゼア(フジェール)はラベンダーとクマリン、シプレは柑橘-ラブダナム-モス を基本とするもの。
今は無き、偉大なメゾン「ウビガン」(マリー・アントワネットの香水も作っていた)が開発したフジェール・ロワイヤル(高貴なシダの葉)はある意味初めての男性専用香水だったし、シプレはコティによって女性用に考案されたけど、皆男性のほうが似合うって気付いたから今では男性用(が多い。ミツコは別だけど。おばさんは男や女である前におばさんだから話は別)。
大手の会社が出すいわゆる男性用(○○ pour homme,for menなど)はほとんどがこの「フゼア」か「シプレ」のジャンルで造られる。たとえばシャネルのプールムッシューはシプレ、ゲランの新作で初のプールオムもシプレだった。キャロンのプールアンオムはフゼアだし、アザロのプールオムは代表的なアロマティックフゼア。
さて、話をルタンスのグリ・クレールに戻すと、実はこのグリ・クレール。とても新しい感じがするけど、これはルタンス流のフゼアへのオマージュ。 つけた瞬間に広がるすっきりとした良質のラベンダー、次に顔を出すのは美しいアイリスと絶妙にコクのあるトンカビーン(クマリン)の穏やかさ。粉っぽさを温かみのあるアンバーでコーティング。
フゼアを嗅いでいつも思い出すのは、もちろん理髪店。ボサボサだった髪をばっさり刈り上げて、生えてもいないヒゲを剃ってもらったあと、あの不思議な匂いのする液体をはたかれた子供のころを思い出す。今思えば野暮ったい、あの床屋が僕に自信をつけてくれていた。
だからルタンスはどうにかして、野暮なフゼアの印象を、素敵な美容室に仕立てあげたかった。 だからアイリスの高級感とアンバーの甘みを強くしたけど、結局は男性にピッタリ。芳しく、清潔、それでいてこの上なく暖かい。 胸いっぱいに吸い込むと、背筋を伸ばして、いつもより早足で街を歩きたくなる
グリ・クレールはいつでも男性に清潔で瑞々しい雰囲気を付け足してくれる男性用香水の宝 といえる。