Vol.8 カルボナーラとたかはしたまご


【カルボナーラへの開眼】


たかはしたまごを使ったカルボナーラを日々作り続けていた2016年の春、とある雑誌に掲載されることになりました。


もちろん取材の目玉となるのは「カルボナーラ」。取材を受けて話をすると実際に、たかはしたまごの高橋さんにも会って話が聞きたいということになり、高橋さんに電話をして取材の可否を聞いてみました。


昔の関係のままであれば断られていたかもしれませんが(笑)この時は是非来てくださいと快諾してくださました。


私自身、たかはしたまごを使ったカルボナーラを毎日作っていましたが、日々頭を悩ませていたので、直接高橋さんに会って色々と話しを聞いてみたいと思っていました。


いざ雑誌のライターさんとたかはしたまごへ。


高橋さんは快く私たちを迎え入れてくださり、少し話をしたらすぐに養鶏場の中へ案内してくれました。ものすごく広い養鶏場にライターさんもびっくり。


天井は高く、風通しも良く太陽の光が差し込む快適な鶏舎。高橋さんがこだわるのは餌だけではありません。美味しい水に、鶏舎が自然災害で倒壊しても方針を全く変えることのなかった高橋さんこだわりの一列鶏舎。



鶏達の上には天井しかありません。


私自身、他にも鶏舎を見学したことがありますが、少なくとも3段はありました。ひどい所では8段、もしくは二階建てもあるようです。


通常、鶏舎に入れられた鶏達は二度と日の光を見ることもなく、上の段の鶏たちの糞尿にまみれ、最低限の餌を与えられ卵だけを産まされ続けるというストレスの高い環境をあてがわれるわけですが、高橋さんの鶏舎は本当の意味でストレスが無い。


 


そして、何より驚かされるのが全く臭くないのです。その清潔さにも驚きました。暴れている鶏も見当たりません。おそらく、ストレスが無いから鶏達が皆穏やかなのだと思います。


 


高橋さんの徹底ぶりを突き付けられ、改めて尊敬しました。


鶏に時に厳しくこだわる反面、鶏達をまるで自分の家族のように大切にしているのです。


 


取材も終わり、色々ともっと聞こうと考えていたのですが、私は高橋さんが取材中に話していた「家族」や「子供たち」というフレーズが引っ掛かり、山とある質問ができずじまいでした。


 


逆に高橋さんに


 


「お店頑張っているね。まさかこんなに毎回卵を買ってくれるなんて思ってもなかったよ。お店にも行きたいのだけど、この子達(鶏達)を置いていくわけにもいかないからね。でもいつか、食べてみたいなぁ」


 


と言っていただき、


「材料持ってきてこっちで作りましょうか?」


なんて私からも提案したりして。私自身もいつか来てくれたらいいなぁと思う一幕でした。


 

高橋さんが「家族」「子供たち」という言葉に込めて指しているのは紛れもなく鶏達のこと。この取材を通じて、思い知った計り知れない高橋さんへの鶏達への愛情の深さに大きな感銘を受けた私は、私自身も家族に作るような気持ちでカルボナーラに魂を込めなくてはと心に誓いました。


丁寧に、穏やかに、美味しいものを作らないと。使命感に近いものを感じました。


この取材の機会を経て、卵も生き物だから毎回状態が違うこと、それは子の持つ個性と同じなのではないかと自分なりに結論に至りました。


そしてこれまではレシピを完成させようと分量を測ることに神経質になっていましたが、レシピにこだわるのをやめ、卵の状態、卵の個性に合わせて作っていこうと考えたら、これまで以上にカルボナーラを作るのが楽しく、上手くなりました。


カルボナーラに開眼したタイミングだったかもしれないなと今振り返って改めてそう思います。