80歳の三浦雄一郎さんが自身3回目となるエベレスト登頂に挑戦しています。

三浦さんは、3月末に日本を出発しネパール入りし、4月中旬にエベレスト・ベースキャンプ(5300m)入り、天候不順により調整方法・スケジュールの変更はあったものの、順調に高度順化とトレーニングを積んでいます。5月9日時点で5月16日にアタック出発を予定しており、順調に進めば2013年5月24日頃に快挙が成し遂げられることでしょう。

私、久保一之は支援隊の一員として5月5日から7日までエベレスト・ベースキャンプ入りして遠征隊のメンバーと時間を過ごした者として、この挑戦の成功を強く願っています。

三浦雄一郎さんは80歳の挑戦者としてメディア等にも取り上げられているので、皆さんもご存知かと思いますが、その挑戦の裏側で三浦さんを支えている多くのプロフェッショナルがいることは意外と知られていないのではないかと思います。私は、三浦さんの挑戦を支えるプロフェッショナルの存在を、東京コミュニティスクールの子どもたちに伝えたいと思い、短い時間ではありましたが実際に一人一人の方々にインタビューをする機会をいただき、たいへん感銘を受けました。

それらの話は、子どもたちのためだけではなく、きっと多くの方の共感を得られるものではないかと感じましたので、三浦さんの挑戦を多くの方に応援してもらうためにも、私が実際にエベレスト・ベースキャンプという現場で聞いてきたプロフェッショナルの方々の話を「三浦雄一郎とその挑戦を支える仲間たち」と題し、本ブログを通じて皆さんに、ご紹介していきたいと思います。

CarZoo Blog - Challenge is my life.-三浦雄一郎さんと筆者

第1回となる今回は、まずは挑戦者本人である三浦雄一郎さんのお話をご紹介します。

(久保)現在の体調はいかがですか?

(三浦)たいへん順調です。今回はヒマラヤ8,000m登頂のセオリーを破った形でトライしているんです。破った形というのは、過去2回の挑戦の際には、20代から40代、いわゆる現役の登山家が高度順化する方法に従ってきました。そうするとベースキャンプに上がってくるまでに高山病になって2~3日ふらふらしていたり、それから無理して6000mまで上がって血尿を出したりして、ベースキャンプに戻ったら死ぬか生きるかのような苦しみを味わいながら、頑張ってやってきたわけです。

(三浦)でも、よく考えればそこまで無理する必要はないだろうと。よくよく調べたら、昔のヒラリーやテンジン(筆者注:1953年5月、初のエベレスト登頂を果たした2人)あるいは植村直己さん(筆者注:登山家、冒険家。世界初の五大陸最高峰登頂者)たちがやっていた方法は、今の半分くらいに短かったんです。そこでその方法に準じてやってみようかと。

(三浦)例えば、ルクラからパグディンまでは下ってきますが、その後パグディンからナムチェは結構つらい上りがありますよね。そこでその途中のモンジョで1泊する。次の日はナムチェへの坂道を上るだけにするわけです。あるいはディンボチェからロブチェまでも、途中のツクラという上り坂の手前で1泊する。そんな感じで行程を従来の半分にしながら上ってきたら、誰も高山病にならない。

(三浦)1回だけナムチェの知り合いのシェルパにご馳走になってそれで下痢になったんですが、その時もナムチェからガンツマに平行移動するだけの楽な行程でしたから、翌日にはみんな治っちゃいました。下痢は仕方ないにしても、誰も1回も高山病にかからないでベースキャンプまで「こんなに楽でいいか!」という感じで来てしまったんです。

(久保)それは今までの2回とは違うということですね?

(三浦)そう、ぜんぜん違う。ロブチェからゴラクシェプ、ゴラクシェプからベースキャンプの区間も、まるで高尾山に上るような感じで何の疲れもなく、高山病にもならずに楽にベースキャンプまで来てしまった。だから体力的なダメージも少ないし、精神的なダメージも少ない。だから隊全体の士気・エネルギーが非常に高まっているんです。

(三浦)これから上っていく部分、頂上まではキャンプも2つ増やしてある。感じとすれば、アイスフォール(筆者注:ベースキャンプからC1に向かうときに氷河が滝状になっている、エベレスト登頂に向けた最初の難所)さえ突破できれば、頂上まで十分にいけるんじゃないかと。前回2回よりも、体力それから気分的にも充実している。とにかく「こんなに楽でいいのか!」という感じなんです。

(久保)それは三浦さんだけではなく、全員が同じ感じなのですか?

(三浦)そう。

(三浦)さらに僕は今回アイスフォールの危険、ダメージを避けるために、僕だけはアイスフォールを一発勝負で、体力温存していこうとしている。C1まで体力温存できたら、そこから先は可能性が高いと感じています。

(久保)天候の方がちょっと心配ですが・・・

(三浦)まだ正確なところはわからないけれど、サイクロンがベンガル湾で13から15日の辺りで発生しそうだというウェザーニュースからの天気予報がある。その時は風速50m以上の風になるから、そうなるとC2に入ってもダメだ。前にもテントを飛ばされたりしていますので、それを避けてアタックしようと調整している。

(三浦)ただ調整と言っても、あんまり長引くとベースキャンプにいる期間が長くなり、体力が落ちてきてしまう。そこで、僕の場合は老人ホームの救急病患者みたいな扱いを受けて酸素を吸わされている(笑)。これは人工的なシミュレーションとして酸素を使用して標高を下げる方法(筆者注:通常は標高の低い地点まで下山して酸素量を増やすところを、酸素ボンベを使うことで下山することなく酸素量だけを増加させる方法)で、それによって一旦身体を休めて、それから徐々に酸素量を絞って高度を6000mまで上げることで、体力を温存しているのです。

(久保)このような方法は世界で初めてのやり方だと伺いましたが?

(三浦)こういうスタイル、タクティクスは世界で初めてです。これは非常に興味があって、もしこれが成功すれば今後、例えば、中高年の登山ブームで海外のトレッキングに大勢の人が行っていますが、大半の人が高山病に苦しんで、ときには障害や死亡事故につながっている。我々の方式をやれば、誰でもいくつになっても高山病に苦しまないでヒマラヤの旅を楽しめるんです。

(久保)ご自身の挑戦だけではなく、多くの皆さんに勇気を与える素晴らしい挑戦なのですね。成功を心より期待しています。

この後、三浦さんは私を含む支援隊のメンバーとともに、インタビューの際にも触れていた最初の難関「アイスフォール」入口付近の散歩に出かけました。激しい氷の滝を眼前にし、その圧倒的な美しさと恐怖感に、胸が締め付けられるような痛みを感じずにはいられませんでした。

しかし、三浦さんは淡々と氷の上の散歩を楽しんでいます。静かに挑戦の時を待つ勝負師のような気負いのない背中に、私はただ見とれるばかりでした。

CarZoo Blog - Challenge is my life.-氷の上を歩く三浦雄一郎さん

三浦エベレスト2013HP http://miura-everest2013.com/