コンピュータと音楽の関わりは深いものがあります。
若者を中心に今や多くの人がコンピュータに音楽を取込み、コンピュータや携帯音楽プレイヤーで聴いています。
ずっと昔、アンプやレコード・プレイヤーからなるオーディオ・コンポを揃えて、部屋の一辺の両端に嵩張るスピーカーをブロックなんかに乗せてセッティング、その辺を底辺とする三角形の頂点に座ってじっと耳を傾ける、というのが音楽を聴くスタイルと思っている人の多い時代もありました。
それがCDの登場(つまりデジタル化)によってコンポはミニコンポへ、そしてメディアもMDから携帯音楽プレイヤーへとあっという間に変わってしまいました。
 
変わったのは聴く方ばかりではありません。作る方も、です。私は音楽制作の現場には23度見学にお邪魔した程度で、詳しいことはわかりませんが、自宅に、昔風でいえば「宅録」、今ならデジタル・オーディオ・ワークステーション(DAW)と呼べるような環境を整えています。
エレキギター、アコースティックギター、ベース、キーボードが立ち並び、DAWソフトと呼ばれるものを立ち上げれば、そこはまさにレコーディング・スタジオ。画面にはミキシング・コンソールのようなつまみのグラフィックがずらりと並び、録音できるトラック数は理論上無制限、トラック単位に様々なエフェクターをかけたり、録音したフレーズをコピー&ペーストしたりと自由自在です。
 
自分が大学生だった頃、カセットテープに4トラック録音できる機材がやっとで、それでもピンポン録音を駆使して一人ビートルズを録音していたのが信じられないくらい、なんと進化したことか。
時にはオリジナル曲を作ってみて、素人なりに録音してみるのですが、歌は歌い、ギターやベースは生で弾くものの、たいして弾けないキーボードやそもそも叩けない(叩くものもない)ドラムのパートは、MIDIで打ち込む、という作業をします。そのとき、自分にとって一番ありがたく、やりやすいのが五線譜の画面に向かって音符の長さを指定しながら一音、一音入力していく方法です。当たり前ですが、楽譜を入力すれば、そのとおりに指定した音源の音が鳴ります。これは本当に便利です。
 
機械で印刷された楽譜が初めて登場したのは1473年(この頃には既に五線譜の形ができあがっていたようです)、日本ではまだ室町時代、まさに540年も前に確立されていた方法がいまだに音楽の記録方法として生き続けているって、考えてみるとすごいことですね。音の記録方法としては、文字に次ぐ大発明でしょう。しかも、実際には人間に演奏できないけれども、コンピュータなら再現できる、といったフレーズも、楽譜はちゃんと表せます。音や仕組みはデジタルでも、表現するための入力方法として楽譜は強い生命力で生き続けているのです。
古の音楽を後の世に伝える役割を担ってきた楽譜。音楽を生み出すのに今も不可欠な楽譜。五線譜に乗る音楽そのものは変わっても、紙への印刷からパソコンのモニタへの表示になっても、末永く音楽の良き友としてあり続けて欲しいものです。
 
2013.7.26
野方英樹(CARS幹事)
CARS(楽譜コピー問題協議会)のホームページ http://www.cars-music-copyright.jp/