【執筆者】西澤健治(CARS幹事/作曲家/ピアニスト/(一社)日本童謡協会理事)
幼少期に夢中になったToy Pianoのことを、記憶を辿りながら少し書いてみようかと思います。
これは四歳の頃、両親に購入してもらったToy Pianoで、毎日遊びながら弾いていた。きっとこれがボクの音楽の原点で、音楽の道に進むきっかけになったのだと思う。
この楽器(玩具かも知れない)は、当時『Jaymar Desktop Toy Piano』として販売されていたらしい。残念ながらこのJaymar社はもう現存しないのだが。
写真だとサイズが分かりにくいが、横幅は約50センチ、高さ約23センチ、奥行き約24センチなので、子どものボクにとってはピッタリのサイズ感だったのだろう。
実はこの木目調のほかに、もう一台のToy Pianoが自宅にあった。
ほぼ同じサイズだが、こちらには、ディズニーキャラクターの楽しいイラストが描かれている。見るからに子ども用の玩具。(著作権の関係上こちらの写真は掲載できませんが)しかし驚くこと勿れ、Jaymar社製なのだ。木目調のToy Pianoの音色は少し大人っぽくしっとりとしており、一方、ディズニーキャラクーが描かれたToy Pianoの音色は、キラキラとして、弾いていているとウキウキ気分になったものだった。きっとその日の気分で2台を弾き分けて楽しんでいたのかな・・・・・・・。
この2台のJaymar(アメリカ製)のToy Piano は30鍵盤で、ホンキートンクっぽい音色である。
タッチの感触はちょっとチェレスタに似ているが、それよりもっともっと軽い。ハンマーアクションで、正式には鍵盤を打鍵すると鉄筋状のプレートをハンマーが叩いて音が出るという仕組みになっている。実にシンプルではあるが、凝った構造だ。今になって考えてみると、やはり玩具ではなく立派な楽器だったのだろう。
これは両親から聞いた話だが、毎日夕食前に2時間くらい、夢中になって演奏?していたらしい。この頃テレビから流れてくる音楽をToy Pianoでまねて弾くことが嬉しかった。でも両手を使って色々な曲を弾いているうちに、30鍵盤だと音を再現することが、ボクにとって足りなかったのでしょうね。
七五三のお祝いに母が“何か欲しいものをプレゼントしてあげるわねっ!”と言われたので、「本物のピアノが欲しい!」とリクエスト。両親はびっくり!!
この当時ピアノは、輸入家具を購入するよりもっと大変だったと思う。
しかし、念願が叶って、七五三の日に神社から帰ってきたら、大きな“本物のピアノ”が届いていた。今でも鮮明に覚えている。ピアノの蓋を開けた瞬間、優しい木の香がした。そして低音から高音まで88鍵盤を指でなぞりながら音を鳴らしてみた。そして、その日の夕方に千歳飴を持って、初めてのピアノレッスンを受けに先生のご自宅に両親と行った。こうした自然の流れで“音楽の道”を歩み続けてきたのである。
一番好きなピアノは?と聞かれたら、1970年代後半から1980年代前半くらいまでのSTEINWAY(象牙鍵盤に黒檀)と、同じくこの年代のBECHSTEINかな?後者の魅力はやはり中音域の魅力でしょうかね!
余談ですが、だいぶ前にBECHSTEINを取り扱う友人の調律師に「忌野清志郎が一時所有していたベヒが売りに出ているんだけど試弾しにこない?」と誘われ、八王子の工場まで足を運んだ記憶があります。結局、サイズが大きく諦めたのですが・・・・・。やはりトータル的に素晴らしく魅力的なピアノでした。仕事の関係で色々なレコーディングスタジオで数多く録音してきたが、何処へ行っても黒塗りのSTEINWAYが置いてあるのが定番。ボクがレコーディングで利用する都内の某スタジオに、ミドルサイズのSAUTER(ザウター)というドイツ製のピアノがあります。スタジオには珍しく木目調(おそらくライトウォルナット素材かと)。幼少期に使用していた木目調のJaymarをグランドピアノにしたかのようにも見えるこのピアノ。ふとPiano Trioの新作を書きたくなり、今年、新作CDをリリースした。なぜ、Piano Solo でなくPiano Trioにしたかというと、ボクの音楽仲間が所有するヴァイオリン(イタリア製)とチェロ(フランス製)と、このSAUTER(ドイツ製)で奏でると音色バランスが絶妙なのだ。
SAUTERのマイクノリの良いことと、また幼少期の懐かしさも手伝って、1枚のアルバムを作ろう!と閃いたのである。SAUTERピアノの弦を張替えるということをエンジニアさんから聞いていたので、張替えてから1年くらいしたら多少音色が落ち着くかなぁと思い、その時期に間に合うように創作したのです。
最近では、オーバーホールから我が家に帰ってきた『Jaymar Desktop Toy Piano』の為の作品をいつか書いてみようと思っています。サンプリングしたシンセでは出せない、イイ音なのですよね〜。
ああ、Toy Pianoに夢中になって遊んでいた頃が懐かしいです。
これからもボクの愛器Jaymarとは長い付き合いになりそうである。
ずっと仲良くしようね!