昨年、ショパンが生きていた頃に作られたプレイエル社のピアノ(フォルテピアノ)を弾く機会がありました。現代のグランドピアノと違うシングルエスケープメントと呼ばれる構造で、鍵盤を押す深さが浅いのが特徴です。この楽器で「革命」の冒頭を弾いてみました。すると左のパッセージがいつもより早く弾け、しかも楽譜に細かく指示されているアクセント(>)を付けることで、渦を巻くうねりのような効果が聴こえました。もしかしたら、ショパンの求めた響きに近づけたのでは? と感じた体験だったのです。
 楽譜を読んでいると、時々「どうしてこんな所にいきなりアクセントがついているのだろう」と不思議に思うことがあります。そんな時、作曲家が当時どんな楽器を使って作曲したのか調べてみると、響きのイメージがつかみやすくなります。アクセントが書かれていても、現代のピアノで弾くならばテヌート、または次の音へ向けての小さなディミヌエンドと感じる方がしっくりくる、ということも少なくありません。同じ「ピアノ」という楽器でも、時代によって仕組みや響きに違いがあることを知っていると、作曲家のイメージにより近づけるのです。
 楽器保護のためなかなか弾くチャンスのないフォルテピアノですが、復元楽器やCD録音、「楽器学」と呼ばれるレクチャーなどで詳しく知ることができます。また、チェンバロやオルガンの体験も、バロック時代の作品を弾く上で多くのヒントをくれるでしょう。
 次回は、時代が新しくなるにつれて作曲家の楽譜の書き方が細かくなる背景について。実は歴史の一大事「フランス革命」が、大きく関わっているのです。


高木 早苗/ピアニスト、都立芸術高校非常勤講師、(社)全日本ピアノ指導者協会正会員。5歳よりピアノを始め、都立芸術高校を経て東京藝術大学卒業、ミュンヘン国立音楽大学大学院修了。

「私と楽譜」は株式会社ミュージックトレードが発行している月刊「ミュージシャン」に掲載されているコラムです。
<4>「楽譜を読む~どんな楽器のために書かれたか?の視点(2)」は、株式会社ミュージックトレードと著者である高木早苗様のご好意により月刊「ミュージシャン」2008年7月号より転載させていただきました。

 

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