はじめに。
物語とは、文字通り物を語ることであります。
生命、細胞、あるいは、土、種。これらは、生きているもの。そして、次に受け継がれるものです。伝えていけるものにこそ、価値があるのです。私の物語も、そう在りたいと願っています。
原っぱに吹く風のように、草と戯れ野花を揺らして木の肌をそっと撫でていけたら良い。
水のように、あらゆる生き物の身体の中をとめどなく廻っていけたら良い。
色は濃くなくていい。鳳仙花のようにほんのり爪先を染める程度でいい。あなたが何かに触れた時、ぼんやり思い出せるような、微かな気配のままでいたいのです。
あなたが刃で傷ついた時には、傷からは真っ赤な血が流れるのでしょう。その時には、傷口を塞ぐ包帯として、そっと手当てが出来たら、尚のこと、嬉しいのです。