看護師「さあ皆さん、これを食べてから検査ですからね」
「え~検査前に」
「こんなボリュームあるもの食べたらヤバいでしよ」
「万が一、”くぐる”ことが出来なかったらどうするんだよ」
「検査受けるの初めてだから、ちょっと心配....」
今日は、国で定められた年に一度の『くぐるの日』。
昨年、この法律が施行されてからと言うもの、国民の健康は国で管理されていた。
発端は、超高齢化に伴う医療制度の破たんである。
膨大に膨れ上がった医療費は現役世代の負担では到底追いつかず、
ついにその時を迎えてしまっていた。
為す術を無くした国はついに、健康を国で管理にする法の整備に取り掛かり、
日本国憲法に於いて「すべての国民は、自主的な必要最小限の運動を要し、健康である義務を有する」と謳ったのであった。
この条文により、健康でない国民は罪となり裁かれ排除されていくことになった。
健康でない者が排除されていった結果、病院もまたその役割を大きく変えていった。
治療を行わない代わりに、健康であるかの検査と不健康な者の検挙が主な仕事となった。
その方法として「穴くぐり式メタボリックシンドローム検査」と言うものが考案され、
年に1度定められた日に検査を受けることが義務化されていた。
検査の方法は意外な程単純で、測定器の穴に体が引っ掛かることなく通過できるかである。
そして、この検査は穴をくぐることから、検査の日を『くぐるの日』と呼ぶようになっていた。
看護師「はい、次の方どうぞ~」
「こ、これをくぐるのかよ」狭くねぇ?
「もしもくぐれなかったら、どうなるんだいったい」ドキドキ
心配を他所に検査はあっという間に終わり、無事穴をくぐることが出来安堵した。
「俺、危なかったっす。あと3cm」
「どれ、見せてみろよ」
一緒に受けていた仲間も、共に安堵していた。
これは後から聞いた話だが、どうやら病院は穴をくぐり難くする為に、
検査前にボリューミーな食事を摂らせ引っ掛かり易くしていたとの事である。
何故そんなことをするのかと言うと、
病院は、くぐれなかったメタボな人が出る程検挙率が上がり、
またそれが評価の対象とされ、成績に応じて補助金を貰う仕組みになっていたのである。
本来は、医療に頼らなくて良い健康な体を作る為に始まった制度だったが、
本末転倒なことが行われていたのであった。
とは言え、健康に過ごしていれば恐れるに足りないことであり、
早くも来年の『くぐるの日』が楽しみになっていた
おわり
※この物語はフィクションであり、登場する団体、施設、人物とは一切関係ありません。