医師「ん~これか~」
内視鏡が捉えた映像を見て、医師は患者に答えた。
患者が見せられた映像には、イボの様なものが写っていた。
医師は、40歳後半から50歳くらいだろうか。
思っていたより若い印象だったが、部長と言う肩書きが付いていたのでこの耳鼻咽喉科でもベテランの医師なのだろう。
患者「いったい、これは何でしょう」
医師「これは、声帯ポリープです。あなたの様に、大声を出す商売の人にはよくあることです」
患者「私は、また以前の様に声を出すことが出来るのでしょうか」
医師「お薬を出しておきます。2週間経過を見ましょう」
医師は、患者の質問には答えず何やらパソコンに打ち込み始めた。
今やカルテは電子化され、昔の様に紙に書き込むこともなくなった様だ。
カルテの電子化は、オンラインを通じて処方箋や会計をスムーズにし、
大病院にありがちな患者の混雑を緩和するに至っている。
とは言え、慢性的な医師不足に加え患者を診るスピードには物理的な限界もあり、
各診療科の前には朝から患者で溢れかえっていた。
土日明けの月曜日と言うこともあるかもしれない。
自覚症状が出始めたのは去年の終わり頃か、今年の初め頃だろうか。
気が付いたらいつの間に声が出難くなり、若干かすれた様にもなっていた。
徐々に、仕事にも支障をきたす様になり、最寄りの耳鼻咽喉科に行ったのが1週間前。
そこでは、詳しいことは分からないので、この大病院の部長医師宛に紹介状を書いてもらったのだ。
声帯と言う器官は、声を出すためのもので震わしたり閉じたりして声を出している。
その声帯に、突起物つまりポリープがあると、綺麗な声が出なくなる。
原則的にポリープは、大きくなることはあっても悪性細胞はないとの事で、
転移もすることもないが気をつけなければならないのが、
咽頭ガンの初期に非常に似たポリープの様なものが出来ることがあるので注意が必要だ。
原因も様々で、「大声の出しすぎ使いすぎ」や「アルコールの過度な摂取」、
「風邪による炎症」や「慢性的な喫煙」が主な原因とされている。
職業で見てみると歌手や先生やタレントにラジオパーソナリティなど声を商売にしている人に多く見受けられ、
私がこの病気になったのもある意味必然であり職業病なのかもしれない。
そして、経過を見て万が一大きくなることがあったり、または、小さくならない場合は、
ファイバースコープ用メスでポリープを切除することになるかもしれない。
出来ることなら、それだけは避けたいものだ。
人や症状によっては、声質が変わることもあると言う....
ちょうどお昼頃仕事に戻ると、今日も店内は満員であった。
慌てて制服に着替え支度すると、店先に立った。
大声を出すことに不安はあったものの、店の活気に不安など吹き飛んでしまい、
ややかすれた声でいつもの調子で叫んだ。
「へい、大黒らーめん大盛りお待ち」
少しポリープがうずくのを感じた。