俺の名前は、藤枝かつみ。
みんなからは『カッツー』って呼ばれている。
『かつみ』の方が言いやすいのに、
なぜかみんな4文字で呼びやがる。
まあ、好きにしてくれ。
普段の俺はと言うと、
カーペンターホームで現場監督をしている。
だから大抵は事務所にいる事は少ない。
もし、事務所にいる俺を見かけたなら、
その日は運がいい。
宝くじでも買って帰りな。
今日はたまたまこうして事務所にいるが、
こんな日に限って誰も来やしない。
全くタイミングの悪い奴らだ。
まあ、落ち着いて図面を引くこともそうはないから、
俺にしてみたら実はタイミングがいい。
現場監督と言っても、
いつも現場にいる訳ではないのだ。
特に俺の場合、建築士と言う別の顔も持っている。
この図面も、後少しで終わりだ。
俺の手に掛かれば、他愛ない事。
でも今日は、この辺にしておこう。
職人さん達が、現場で俺を待っている。
それにしても、我ながら完璧な仕上がりだ。
綺麗に描かれた図面が、輝いて見える。
これで I 様邸の工事も、滞りなく行われるだろう。
着工が楽しみだ。
こうして彼は現場に向かい、事務所をあとにした。
彼が言う様に、図面は後少しの所で仕上がっていた。
だが、この図面は完璧ではない。
このままにしたら、大変なことだ。
彼は、まだ知らないのだ。
知る由もないだろう。
完璧に描いたはずの図面が、
既に、
汚されていた事を...