昨日、國弘正雄先生に触れました。先生は2014年11月にお亡くなりになりましたが、私の思い出の一文として8年ほど前に書いた雑文を再録させていただきます。こんなときにこそ先生の著作を再読して初心に帰るべきだと思い直しているところです。

 

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ことばの海をゆく 96 You can't fight city hall.

 

 「奥様は魔女」のシーズン5 第9話(149話)Samantha Fights City Hall からです。

 

Samantha.- Well, the park gone, just like that.

Mother A.- It's outrageous.

Mother B.- They call it progress.

Samantha.- Well, it's wrong. The kids need this park. It's the only one in the neighbourhood.

Mother B.- Like they say, you can't fight city hall.

Samantha.- Well, I don't care what they say. I'm going to fight, just as soon as I find out one thing.

Mother A.- How do you fight city hall?

 

(You) can't fight city hall.

Fig. There is no way to win in a battle against a bureaucracy.

 

   Bill: I guess I'll go ahead and pay the tax bill. 

   Bob: Might as well. You can't fight city hall. 

 

   Mary: How did things go at your meeting with the zoning board?  

   Sally: I gave up. Can't fight city hall.

 McGraw-Hill Dictionary of American Idioms and Phrasal Verbs. 

© 2002 by The McGraw-Hill Companies, Inc.

 「お上には逆らえない、長いものには巻かれろ」ということです。この表現を知ったのが右写真の『アメリカの雑誌を読むための辞書』(新潮選書)だと記憶していたのですが、どこにも書いてありません。そこで、ひょっとしたらと思って調べた『現代アメリカ英語-クニヒロのアメリカーナ①』(サイマル出版会)に標記表現がありました。この著作の写真はインターネットでは入手できなかったのが、残念です。それでも、この3冊セットは私の蔵書として今も手元にあります(ほとんど手にすることはないのですが)。かなり背伸びをして高校3年生の頃からReader’s DigestTIMEにチャレンジしていた私ですが、この頃から坂下先生や国弘先生の著作から学ぶことが多かったのです。

 せっかくですので、同書より関係箇所を一部引用しておきましょう。

 さてfight City Hallというと、ラフル・ネーダーがよく「長いものには巻かれろ」という日本語の諺を引用しては、そのあとで必ずcan’t fight City Hallと言っていたことを思いおこす。市役所 ― アメリカではcity government(市役所)ともいう ― と喧嘩してもかないっこない、というのである。泣く子と地頭というのは、封建時代の日本だけのことかと思っていたら、どうやら今日のアメリカ(日本はいうまでもない)にもあるらしい。

 

 いまひとつの用例を―

 She shrugged, “If you give too many low grades, you get a word of warning. If you flunk, you get fired. So if you put any value on your job, Mr. Brent, I'd advise you to let them all think they're smart.”

   “Miss Joseph, I put more value on my integrity as a teacher than I do on my job.”

   “You'll get over that.” She smiled knowingly. “You know the old saying, ‘You can't fight city hall!’ Well, you can't fight the administration, either.”  (Robert Kendall: White Teacher in a Black School, p.89) (和訳、省略)

 

哀れな学校教師の立場をよく示す用例ではある。できない子どもに悪い成績をつけると、いろいろな圧力がかかってきて、下手をすると進退問題になるというのである。しかもこの場合は、教員の任免権を握っているのが City Hall に密接な関係のある学校区のボスどもであったり、その影響下にある学校当局-ここでのadministration というのは、その意味である-なのだからよけい始末が悪い。

 あと City Hallというと、とかく乱脈をきわめた地方政治というニュアンスも強い。かつてのニューヨークのTammany Hallは悪名が高いが、City Hall skulduggery (市役所一流のペテン)というイディオムもある程である。日本の地方政治はどうだろうか。

現代アメリカ英語 クニヒロのアメリカーナ①』(18-20頁)

 

 ラジオ「百万人の英語」のリスナーとして質問の手紙を出すと必ず返信葉書を下さった国弘先生は今も御健在と聞いています。このような先生に私淑している英語学習者は数多くいると信じています。今なお御活躍中の先生のご健康をお祈りします。また、このような良書を多数出版してくれたサイマル出版会に対しても感謝の意を表したいと思います。

【竹の子191号 2012年6月25日発行】

 

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※上記文中の「右写真の」一冊と、『現代アメリカ英語 クニヒロのアメリカーナ』(全3巻の①)の写真を掲載させていただきます。

    

 

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