『きみの鳥はうたえる』の原作も読んでみました。こちらは1980年の東京を舞台にした話で、やはり佐藤泰志らしく、映画とは少し趣きが違う暗い内容だったけど、僕も当時は東京に住んでいて、時々無断欠勤もするようなフリーターをやっていたので、まさに世代的にはドンピシャリ。この主人公の3人は21歳で、僕は当時22歳だったので、わずか1歳違いですね。映画『フロント・ページ』や、『オーケストラ・リハーサル』じゃないかと思われるフェリーニの新作や、ビートルズの『アンド・ユア・バード・キャン・シング』や、競馬や酒を飲むのが好きだったところなども当時の僕と全く同じだし、やはり現代を舞台にした映画よりは親近感が感じられる内容でしたね。まあ、僕の場合は当時は深夜にバイトしていたので、あいにく女性との出会いは全くなくて、そこはあまりにも大きな違いだったけどね。(^^;

 
1980年と特定出来たのは、この中に出て来る競馬の話が実際に行われたレースの話で、それは1980年のラジオたんぱ賞だったと思われます。皐月賞馬のハワイアンイメージが勝って、本作で言及されているインターグランプリが2着に入ったんだけど、僕もそのレースをかすかに覚えているし、馬券も買っていたような気がしますね。佐藤泰志自体は、僕よりも8~9歳年上のようだけど、趣味はかなり合いそうなので、もし当時知り合っていれば友達になりたいぐらいだったなあと思いました。
 
映画と原作の一番大きな違いはやはり結末で、映画のような恋愛に関する話は原作には出て来ないし、原作では染谷将太の演じていた静雄が病気の母親を殺してしまうという意外な展開になるんですね。原作の方では、母親は精神病という設定で、精神病院のベッドに縛りつけられているのを見るに見かねて、安楽死させたというところなんだろうけど、そのあたりの詳しい内容は書かれてなくて、やはり少し欲求不満が残るような結末になっていました。
 
佐藤泰志は本作を皮切りに、芥川賞候補に5回もなりながら、とうとう受賞出来ずに自殺してしまったんだけど、本作を読む限りではたしかに、あと一歩かなと感じさせられたかな。いずれにしても、僕とは結構趣味が合いそうなので、この調子で他の作品も読んでみようかと思っています。