監督、脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ
撮影:サビーヌ・ランスラン
出演:リカルド・トレパ、ピラール・ロペス・デ・アジャラ、レオノール・シルヴェイラ、ルイス・ミゲル・シントラ、イザベル・ルート、アナ・マリア・マガリャンエス、アデライデ・テイシェイラ
原題:O Estranho Caso de Angélica
英題:The Strange Case of Angelica
2010年/ポルトガル、スペイン、フランス、ブラジル/97分
公式サイト
評価:★★★★★★★☆☆☆

昨年106才で亡くなったマノエル・ド・オリヴェイラ監督の101才の時の作品。1908年生まれということで、同年生まれの監督にはデヴィッド・リーンやマキノ雅弘、俳優ではベティ・デイヴィス、ジェームズ・スチュワート、長谷川一夫、沢村貞子らと同い年ということで、やはりあらためて古い人だったんだなあと思いますね。

と言っても、僕はこの監督の作品を見るのは初めてで、本作もキネ旬のベストテンに入っていなければ、見逃していた作品だったかも知れません。まあ、正直言ってキネ旬の3位は過大評価じゃなかったかなという気もするけど、それでもこういう未知の作品との出会いを与えてくれるという意味では、キネ旬ベストテンの価値もそれなりにあるのかも知れませんね。

ストーリーとしては非常に単純で、死者に一目惚れした若者が彼女の幻覚に悩まされて精神に異常を来し、やがては命まで落としてしまうという話。ただ、それが幻覚だったのか幽霊だったのかは定かではないところで、どっちとも解釈できそうな感じでした。

問題はそのストーリーの裏に隠された哲学的なメタファーで、この青年は美女の写真とはおそそ似つかわしくない農夫の写真にも興味を持っていたり、BGMにもショパンの美しい音楽が使われていると思えば、農夫の労働歌なども使われていたり、登場人物の会話の中にも素粒子物理学の物質と反物質の話が出て来たり、あるいはユダヤ教とキリスト教とか、生と死なども並立的に描くことによって、その両方を受け入れるみたいな、101才の監督の人生観が現れているようにも思いましたね。

まあ、だから何なんだという話で、映画としてはそんなに面白くもなくて眠くなりそうだったし、まるでシャガールの絵みたいな映像表現も、現在の特撮技術からすれば特に目新しく感ずるようなこともなかったけど、見終わってから時間が経つうちに案外奥深い作品だったかも知れないなと思えてきたので、★半分ぐらいオマケしておきました。