悪魔のように細心に


監督、製作、脚本、編集:ルイス・ブニュエル
脚本:サルバドール・ダリ
撮影:アルベール・デュヴェルジェ、ジミー・ベルリエ
美術:ピエール・シルト
出演:シモーヌ・マルイユ、ピエール・バチェフ、ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリ、ハイメ・ミラビエス
原題:Un Chien Andalou
1929年/フランス/16分・モノクロ・サイレント

シュルレアリスムの古典的名作として名高い、スペインの巨匠ルイス・ブニュエルのデビュー作。サルバドール・ダリとの共同脚本で、自分たちも出演しているし、まるで学生が自主制作で撮ったような感じの短編だけど、この当時のブニュエルはまだ駆け出しの助監督、ダリもまだ無名の画家でした。この作品は初めはごく小規模で公開されたようですが、口コミからパリでは大ヒットとなり、8ヶ月ものロングランを記録したそうです。さすがは芸術の都パリという感じで、日本ではこのような前衛映画がそんなにヒットするということは、まずあり得ませんよね。

シュルレアリスムというのは、フロイトの精神分析学の影響で発展してきたもので、夢などの形で現れる、人間の無意識下に潜んでいる深層心理を表現しようとするもの。日本語では超現実主義ということになって、現実を超越した非現実などと誤解されがちですが、実際はそうではなく最上級の現実という意味です。昨今の流行り言葉の超~~というのがそのまま当てはまる感じで、超リアリズムとでも言う方が分かりやすいかも知れませんね。

それで、フロイトの『夢判断』の影響を受けたダリと、彼とはマドリッドの学生時代からの友人のブニュエルは、お互いの見た夢の話をしているうちに、それを映像化することを思いつきました。女性の眼を剃刀で切り裂く有名なシーンは、ブニュエルの見た夢を元にしたもの、手のひらの穴から蟻が出てきて群がるシーンは、ダリの見た夢を元にしたものということです。これらの映像表現は、現在のホラー映画などにも影響を与えているかも知れませんね。ただし2人は、夢から思いついたイメージのうち、自分たちで合理的に説明がつくようなものは排除していったそうで、かくしてこのような世にも難解な映画が誕生したというわけです。

そんなわけで、この映画のストーリーを解釈するのは精神分析医か夢占い師にでも任せるとして、一般人はダリの絵を見るような感覚で普通に観ても十分だと思います。その意味は分からなくても、印象に残る衝撃的なシーンが満載で、当時としては相当なインパクトがあったと思われますね。剃刀で眼を切り裂くシーンは今観ても相当ショッキングだし、それ以外でも、たとえば男が女の胸を揉むシーンなども、当時としてはかなりエロティックな印象を与えたものと思われます。後の『昼顔』などに見られるエロティシズムの原型も、このデビュー作から存在していたようで、案外そんなのも、この映画がヒットした要因だったかもね。

短編ということでYouTubeにも映像があったので、一応ダリの絵の画像と共に載せておきます。軽快なピアノの音楽が入っているけど、映画の内容とは合わないから、やはり音は消して観る方が良いと思いますよ。


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