始まりは長男がまだ小学2年生だった頃のことである。
音楽教室の発表会で、ソロの曲とは別に、はじめてのアンサンブルを体験した。ヴァイオリン、チェロ、ピアノ全員が2年生の男子ばかりのピアノトリオだ。ヴァイオリンの長男、チェロのY君、ピアノのS君。互いに家も遠く、学校や塾の合間を縫って時間を作って先生のお宅に集合し、夜遅くまで練習した。
 
楽譜通りに一人で曲を弾くことはできても、「自分でない誰か」と息を合わせて曲を作り上げるのは容易ではない。自分のパートを弾くのがやっとという2年生男子に「ほかの人の音を聴いて!!曲の流れを考えて!」というのはかなり難易度が高い。というか天才でもないフツーの2年生には不可能である(世の中にはこの手の「天才」は結構存在するのだが、悲しいかな我が子たちはそうではなかった)。
あの頃の録画を見るたびに何とも言えぬ脱力感と微笑ましさがないまぜになった苦笑いがこみあげてくる。
 
あれから6年。何の運命のいたずらか(?)、その時チェロだったY君と長男は今、同じ中学の同じクラス、席も隣同士だ。二人とも成績はグダグダ、テキトーな毎日、だけどなぜか不思議と二人とも音楽はやめていない。
 
というわけで先日の中学の保護者会でY君のお母さんと久しぶりにお会いし、その帰り道ゆっくりと話す機会を得た。思春期の子供を持つ悩み、音楽を続けさせることの意味、学業不振のグチ(笑)、家族のこと、これからのこと….。
 
実はY君のお母さんは、Y君と同じ先生のもとでご自身もチェロを弾く。私はそれを思い出して言ってみた。
「子供たちはともかく、私たち、デュオしませんか?」
 

 

アマチュア奏者にとって、アンサンブルのパートナーを見つけるのは至難の業である。「この曲がやりたい!」と思ってもメンバーが見つからないことには弾くことができない。かつて在籍していたアマオケでは年に1度「団内発表会」なるものがあり、そのたびに私は「ドボルザークのカルテットがやりたい、ブラームスのセクステットがやりたい、メンデルスゾーンのオクテットがやりたい!」とメンバーを募ってみたりしたが、すべて「私には無理!弾けません!」と断られた。あたりまえか。アマチュアにとっては、自分が置かれている環境 - つまり「弾ける人」が周りにどれぐらいいるかというのがとても重要なのである。もちろん自分のレベルも問題なのは言うまでもないが。

 

Y君のお母さんはとても喜んでデュオ結成を承諾して下さった。そうは言っても実は、お互い相手の技術レベルを知らないので、どの程度の曲が弾けるのかは未知数である(笑)。それでも誰かとアンサンブルができることになって、それだけで私は幸せな気分になった。

 

とても幸福な気持ちのまま、夜は行きつけのお寿司屋さんへ。地物の生しらすがあると言うので、軍艦でチマチマ食べるよりはドカーンと食べたいと思い、わがままを言って小さめのしらす丼にしてもらった。プチプチの触感の甘い生しらす、子供の頃は苦手だったのに大人になったらいつの間にか好きになっていた。

 

音楽も、子供の頃にはわからなかったことがいつの間にか理解できるようになるのかもしれない。