はじめに

 

 

 気になった未読の漫画を知るため、あるいは漫画の作者・出版社・連載期間等の情報を知るため、または解説や考察を調べるために、私は漫画のタイトルを検索エンジンに打ち込んでいる。漫画に関する情報を集めるのは、楽しい。しかし、最近私はこの情報収集の初動である「漫画のタイトルを検索エンジンに打ち込む」という行為に精神的苦痛を感じるようになっている。

 

 「〇〇〇(漫画のタイトル)」と検索エンジンに打ち込むと、検索候補に「raw」の文字が出てくる。漫画の知名度や評判関係なく、「〇〇〇(漫画のタイトル)」の後には「raw」が必ず付随する(『ONE PUNCH MAN』や『ルックバック』のような、ネット上で無料公開している漫画ですら、検索しようとすると「raw」がついてくるのは本当に訳が分からない)。「manga raw」は言わずもがな違法の海賊版サイトだ。検索候補にこの「raw」が出るたびに、漫画に正当な対価を支払わずに漫画を「タダ読み」している恥知らずのろくでなしが世に大勢いることを実感し、気分が悪くなる。

 

 ちなみに「漫画」と検索しようとすると、検索候補には「漫画 raw」「漫画 ロウ」「漫画村」「漫画バンク」等、検索候補全体のうちの9割ぐらいが海賊版サイト関連のものとなっている。もはや笑うしかない。

 

 

 

 

海賊版サイトが日本の漫画業界にもたらす実害

 

 

 日本の漫画業界は海賊版サイトによって大きな被害を受けている。2023年の民間調査によれば、海賊版サイトによって漫画が「タダ読み」された被害額は約3818億円だという。この額は、新型コロナウイルス禍直後の2020年(約2100億円)を上回っており、また文化庁による試算では、漫画に関する海賊版サイト被害は年間で1兆円を超えているとされている。これは、漫画の正規版の市場規模を大きく上回っている。

 

 一般社団法人「ABJ」が2024年2月に調査を実施したところ、漫画などの出版物を無断で掲載する海賊版サイトは1207サイトに上り、このうち7割以上を占める913サイトが英語やベトナム語などに翻訳された作品を集めた外国語のサイトだったことが分かった。日本の漫画業界の海賊版サイトによる被害総額を世界規模で考えれば、上記の1兆円すらも軽く凌いでしまうだろう。

 

 

 

 

「金がないから」海賊版サイトに手を出す人たち

 

 

 私の身の回りにも海賊版サイトを利用して漫画のタダ読みをしているバカタレは少なくなかった(当然叱った)。私はコイツ等に思い切って尋ねた。「何故海賊版サイトに手を出すのか?」と。すると、コイツ等は口裏を合わせるかのように同じような旨の理由を答えた。「金がないから」と。まさか金がないから仕方ないよね、とでも遠回しに言っているのか?毎週末カラオケやらスタバやら映画やらに行っている連中が何をほざいているんだと呆れたが、それはともかく、海賊版サイトに手を出す理由がこうも偏っているのは引っかかった。

 私はネット上でも海賊版サイトを利用していることを恥じらいもなく明かしているアホンダラを大勢見かけた。そしてコイツ等にも利用している訳を尋ねた。コイツ等はこう答えた。「金がないから」と。またか、と思った。しかしここまで来ると「金がないから海賊版に手を出してしまえ」というムーブメントには何かしらのカラクリが裏に潜んでいると思わざるを得なくなった。

 以前何かの本を読んだときに、「今現在の日本の若者は今までの日本の若者と比べて格段に貧乏になっている」という情報を知った。私は若者の収支と海賊版サイトの利用拡大には相関関係があるのではないかと予想した。が、これについては情報も知識も今の私には不足しているので結論は先送りにする。

 

 

 

 

3つのたとえ話

 

 

 だが私は別にこの貧乏な若者どもに「そっか、じゃあ海賊版サイト使っていいよ」と言う気は更々ない。欲しいものは金を払って手に入れる。金が足りないなら、収入か支出のいずれかを改善する。世の大原則だ。海賊版サイトを利用する真っ当な理由など絶対に存在しない。

 ここで3つのたとえ話を提示する。私が海賊版サイトを利用しているバカどもを説得するときによく使うたとえ話だ。とりあえず頭を空っぽにして読んでいただきたい。

 

 

 

A社に勤務していたBは勤勉な人間だった。しかし彼はある月、社長から給料を貰えなかった。Bは社長に抗議した。「何故給料をくれないのです?」とBは社長に尋ねた。すると社長はこう答えた。「今月君に給料を支払える余裕がウチにはなかったから。仕方ないよね金ないんだから」と。

 

 

 

ラーメン屋を経営していたCは食い逃げの被害に悩まされていた。Cは食い逃げ犯が出るたびにおっ捕まえて食い逃げをする訳を尋ねた。食い逃げ犯は皆このように答えた。「金がないからです。仕方ないよね」と。

 

 

 

この2つのたとえ話をふまえた上で次の3つ目のたとえ話を読んでいただく。

 

 

 

漫画家のDは締切に追われながら、睡眠時間も自由時間も削って漫画を執筆していた。身を粉にして仕事をしていたDは遂に自身の著作の単行本化を達成する。しかし、Dは後日自分の漫画が海賊版サイトの方でタダ読みされていることを知る。このタダ読み連中はネット上で「金がないからタダ読みしている」と書き込んでいた。

 

 

 

今から当たり前のことを言わせてもらう。まずサラリーマンもラーメン屋も漫画家も広く括れば労働者だ。そして、労働の対価として給料を貰う。ラーメン屋は客からラーメン代をいただく。漫画家は客から漫画代をいただく。当たり前のシステムだ。さてここで問おう。ラーメンを食い逃げするのに正当な理由が1つでも存在するだろうか?漫画をタダ読みするのに正当な理由が1つでも存在するだろうか?

 

 

 

 

海賊版サイト対策を考えよう

 

 

 我々は実効的な海賊版サイト対策を考えないといけない。しかしタチの悪いことに、海賊版サイトを運営するクソ人間と海賊版サイトを利用するクソ人間は両者とも面の皮が厚いので、正論を浴びせても良心に訴えても効果は期待できない。これをふまえると、コイツ等を海賊版サイトから離れさせるには「海賊版サイトに近づくと自分が損をする」と思わせることが実効的のように思う。

 

 国は海賊版サイトの対策をしていないわけではないが、効果はあまり感じられない。それは国の対策の対象が海賊版サイトの「運営側」だからではないか?大勢存在する運営側の人間をシラミ潰しで対処してもキリがない。シラミはいつまでも湧き続ける。イタチごっこではいくら頑張っても全て徒労に終わる。「海賊版サイトを運営したら斬首法」でも制定しない限り、シラミたちは海賊版サイトを運営することをやめない。

 

 真に対策すべきは海賊版サイトの「利用側」だ。利用側に「海賊版サイトを利用するリスクが高いから利用するのをやめよう」と思わせる法整備を進める必要がある。

 

 また、私はこうも考える。「今の漫画業界の市場体制にも問題があるのではないか?」と。漫画の価格設定や販売形式も今の時代に合わせたかたちにシフトチェンジする必要があるかもしれない(これは最終手段だ。海賊版サイトに関わる連中に相応の罰は与えられず、漫画業界側が妥協して自身らのビジネスを見直すというのはあまりにオカシイ話だ)。

 

 まとめると、実効的な海賊版サイト対策には必須の条件が2つある。

 

 

 

①海賊版サイトの運営・利用をするにあたって、得よりも損の方が大きいと思わせられるような対策であること。

 

②海賊版サイトの利用側も対策の対象に入れること。

 

 

 

 この2つを念頭に置いた上で、対策を考えよう。

 

 しかし、仮に日本国内で海賊版サイトの対策が進められたとしても、それも本当に効果があるとは断言できない。何故なら、海賊版サイトが横行しているのはむしろ国内より海外の方だからだ。もはや海賊版サイトの横行は国際的な問題となっている。世界規模で海賊版サイトの対策をするとなれば、一体どうしたらいいのか、正直分からない。

 

 

 

 

 おわりに

 

 

 結局は強権による法の行使でもないと、海賊版サイトの暴走を食い止めることはできないように思う。そんな中、一市民である我々にできることは何か?それは主張し続けることだ。言論を以て海賊版サイトと闘うことだ。海賊版サイトはネットの普及がもたらしたカスのようなものだが、ネットの普及は何もデメリットだけではない。ネットの普及は一市民に発信力をもたらした。そしてそして不特定多数の人間と双方向的に交流する手段をもたらした。これを我々は利用するのだ。

 

 私は主張をし続けよう。自分の主張がムーブメントとなり、より強い発信力を持つ人や強権を持つ人の耳に入るまで、あるいは自分自身が強い発信者となるまで、海賊版サイトがこの世から消えるまで私は主張をし続ける。