美海は近くの総合病院にチャリを走らせた。バイクなどの免許はまだ取れない。
しばらく走ると大きな病院が見えてきた。後に美海はここでお世話になる。
バタバタバタ!
珍しく焦っている美海。
「廊下は走らないでくださーい」
通りかかる看護婦に注意される。そんなところじゃないのだ。
事前に電話で病室は聞いていた。
ガラッ
「お父さん!お母さん!」
「あらぁ。美海ぃ~」
「よぉ美海!」easycorp
「え?」
そこにはいつも通りの呑気な両親がいた。
「え?」
近くにいた叔父を見る。美海の父よりは若い。
叔父は苦笑いした。
「えっとねぇ…。美海ちゃんは話の途中でわかりました。って切っちゃったからわかんなかったんだろうけど、ご両親は無事です」
「は?」
美海は再び両親を見る。
「美海!ごめんね!」
「いやぁ。こんな急いで来てくれて嬉しいなぁ。久しぶりに会うしな!」
美海は父を睨み付けた。
父は右足にギブスをはめている。
母はかすり傷程度だ。
後から聞いた話によると、車と車との衝突事故だったのだがなんとか父が母を庇ったらしい。
たまには役に立つ。
「美海。とりあえず無事よ。ありがとう」
母が微笑んだ。
なんだ。びっくりした。
よかった。…よかった。
美海は両親に背を向けるとしゃがみこんだ。
二人は小さく笑った。
昔から美海は両親にだけは泣く姿を見られたくなく、こうして声を押し殺して泣くと知っているからだ。
それから山本に電話し、状況を伝えた。受話器越しにホッと息を吐いたのが伝わる。
本当に良い友達を持ったと思う。
しばらく両親に説教をした後、チラリと周りを見た。大怪我をしたことがないため、こんな大きな病院に来るのは初めてだ。
とりあえず、ここの医者に両親は助けられた。それだけはわかっている。
美海は興味深げに病院を歩き回った。
泣く子をあやす看護士。
真剣な顔でパラパラとカルテをめくる医者。
手術室の中で泣き崩れる遺族。
ナースコールは鳴り止まない。
忙しいんだな。
そう思った。
「あ。叔父さん!」
ちょうどカルテを見ていた叔父を見つけ、声を掛ける。
「わ!美海ちゃん!こんな所まで来ちゃったのか!」
余程真剣に見ていたのか、思わず声をあげる。
「ありがとうございました」
美海は頭を下げた。
「いやいや。医者の仕事だから」
叔父は照れたように笑った。
「皆さん忙しそうですね」
「あぁ。皆少しでも多くの命を救うため必死なんだ。私達医者は落ちかけている光を拾い止める。まだ地に落ちて割れない限りは絶対に諦めれないんだ」
美海は黙って聞いた。
力を有り余している私とは違う。最後まで己の力を尽くすんだ。
「先生!中川さんの容態が急変です!至急来てください!」
「わかった。じゃあ美海ちゃん。ごめんね。ちょっと行ってくる」
叔父は長い白衣をひるがえして手術室に向かって行った。
「状況は?」
看護士が専門用語みたいなのを沢山使っていたが、私には全くわからなかった。
私は呆然とその場に立ち尽くしていた。
しばらく美海は両親が退院するまで、ずっと病院に通い続けた。見舞いというより見学。
かっこよかったなぁ…。
授業中もぼーっとするたびにひるがえした白衣が浮かぶ。
美海は叔父の素晴らしい意志に惹かれたというより、まずは見た目なのだろう。単純だ。
今日の放課後も見舞いに行く予定だ。
「ねぇ美海!最近放課後どこいってるの?」
山本が下から覗き込んで聞く。
「見舞い」
美海は黙々とスクールバッグに教科書を詰めながら言った。