季節的にそろそろ寒く成り始めた在る年の瀬の事、

それまで集めてレストアしたストーブの機体に満足したのか、

それとも集まり過ぎたストーブの多さに少しためらいが有ったのか

いつになく新しい個体を探す事もせずに過す日々が続いて居ました。

 

それまで入手したストーブの燃焼状態を改善したり、磨きが甘い部分を

分解して再研磨したり、それで満足していた様に自分を偽っていました。

しかし、心の奥底には虎視眈々と次期個体を探す自分が居たのです。

 

ある日の事、チラ見したメルカリで気に成る個体を発見してしまいました。

ジャンク、芯固着、錆在り、の3パスワードが入って居ます、

普通の人なら手を出さないだろうと思われる個体でした。

価格はそれでもかなりお高めです、 暫く迷って居ましたが

その間も売れる事なく推移しました。

そうこうする内に 3度目の再出品では価格が少し下げられていました。

これを見逃すはずがありません、 

例の如く右手が脳を通さずに脊髄の条件反射でクリックしていました・・・。

 

こちらが届いた時の状態、 梱包も丁寧で対応の良い出品者でした。

お話しによると、自分でレストアして使う為に購入したが、3年の月日が流れて

断捨離の対象になったのだとか。  

確かにレストアしているブログ等を見ると簡単に見えますし、自分もやってみようと思う事も

有りますが、時間や場所、工具等の条件が揃わないと難しい事もあります。

 

こちらの個体はCalorifix Turm L51、  スイス軍用のストーブとして有名です。

軍用のキットでは燃料の携行缶と給油キット、それらに加えてストーブを丸ごと持ち運びする

為のカンバス地の携行用バッグがセットに成って居る物も有るようです(魅力的です)

今回はこちら、そのストーブの一般向けの物です。

 

市場ではコレクターズアイテム化している面もあり、まったくの新品と思しき個体が高値で

取引されて居たりします。  今回購入した個体はそのような物では無く、用の美と言って

良いのか、てこてこに使い倒された個体です。

 

外筒と上部蓋の部分は琺瑯引きでタンクのみが塗装仕上げになって居ます、

L41はタンクも琺瑯仕上げだったのでやや廉価仕様でもあります。

外筒はSaffiretteの様に着火時には完全分離するタイプです。

しっかりと煤もついて、日常に使われて居たであろう事を物語ります。

早速分解して行きます。

 

ギャラリーはL41の時と同じく、非分解タイプの物です、

真っ赤に錆が出て居ます、 ここまで来ると迷わずに花咲かG にどぶ付けできますね。

 

外筒の内側琺瑯は綺麗な状態です、

のぞき窓の部分はアラジンの様なネジ留めでは無く、

枠部品の爪を折り曲げて止めて有ります。

爪を戻して取り外してみました、

マイカはくすんで居ますが磨けば復活しそうなレベルです。

アラジンの物よりも2廻り程大きいので流用が効かない為、オリジナルが復活できそうなのは

助かります。

 

蓋部分は所々に琺瑯の欠けが有ります、その下の地金もいい加減に錆びているので

最近欠けた物では無いでしょう、盛んに使われて居た時に付いた勲章の様な傷です。

持ち手の部分のヒートアボイドは鮮やかな赤色の塗装がされて居たのが判ります、

 

L41は金色でした。

こちらは持ちての本体部分、錆で判り難いですがオリジナルは銀色塗装でした。

これもL41の金色とは違います。

芯外筒部分はかなり汚れて居ますが致命的な錆等はありません、

材質はユニクロメッキのスチールです、 多くのストーブが真鍮製であるのに対して

スチール一枚物でこの形を成形出来たCalorifix社の技術は当時は秀出ていたでしょう。

しっかりと使用されてタール状に出た燃焼痕、経験から、2シーズン分くらいです。

 

さて、問題の固着芯に到達しました、

がちがちでびくともしません、

芯と内煙筒の隙間にCRCをたっぷりと吹き込みます、

これで固着したタール状物質を少し柔らかくすることが出来ます。

暫くして柔らかくなったら細い長尺のマイナスどラバーを芯と内煙筒の隙間に入れて固着を

剥がします。

もう一か所固着が判明、 昇降の摘みが軸外被と内軸が固着して回す事が出来ません、

少し無理をして隙間から芯を引き抜きます。

やっとの思いで取れた芯とホルダー、 少なくとも3年以上は使われて居なかったので

カラカラに乾燥した状態でした、気に成る匂いも殆どありません。

芯は限界までチビて居ます、年に4,5回キャンプに連れ出される様な使い方では無く

日常に使用されて居たのが判ります。

内煙筒はスチール製でした、その為錆が多く出た様です、

芯の激しい固着も錆に寄る所が大きい様です。

黄色の点状の錆が出ている内煙板ですが、材質はステンレス鋼の様です、

L41と同じ材質ですね。

給油口キャップは燃料レベルゲージを兼ねて居ます、コルクが燃料レベルで上がり下がり

する事でキャップから突き出た棒がレベルを知らせる簡素な作りです、

ねじ込み式ではありませんがかなりしっかりと蓋が出来ますので軍用の持ち運びの用にも

耐えたのでしょう。

 

固着した芯昇降摘みは根本のハンダが取れて抜けて来てしまいました。

頑固にも回る様子はありません、幸いにも真鍮部品なので外被に小さな穴を開け

内部に潤滑材を浸透させておきます、何日か後に改善すると良いのですが。

タンクの内部です、 壊滅状態です。 錆が内面を侵食しています。

底面には穴の開きそうな窪みも見えます。

真っ赤に錆びた内部は一筋縄では行きそうもない事を物語ります

 

全て分解が終わりました、 部品点数が少ないので比較的短時間で済みました。

タンクの状態が悪いのでかなり大掛かりに成りそうな感じです。

 

それでも、”ストーブなら何とでもどうとでも成る”のはこちらの読者の方ならお判りですよね?

 

次回レストア編へつづく