― 経営コンサルタントが解説するリスクと最適設計 ―


近年、人材不足の深刻化に伴い、企業が採用競争力を高める手段として「入社お祝い金」を導入するケースが急増しています。


採用難が常態化しており、入社時のインセンティブは重要な採用施策の一つとなっています。


その一方で、企業からは「入社お祝い金を賞与扱いで支払っても問題ないのか」という法務・労務上の相談が非常に多く寄せられています。


本記事では、世界最高峰の法務プロの視点から、入社お祝い金を賞与として支払うことの適法性、リスク、そして実務上の最適設計について体系的に解説します。


1.賞与扱いは法的に可能

まず結論として、入社お祝い金を賞与として支払うこと自体は違法ではありません。

日本の労働法体系においては、賃金の名称や分類は企業の制度設計に委ねられており、入社祝い金を


・賞与
・一時金
・特別手当
・支度金


などいずれの形式で支払うかは企業の裁量範囲に含まれます。

したがって、賞与扱いで支払うこと自体に法的問題はありません。



2.しかし「賞与扱い」にすると発生する3つの重要リスク

(1)社会保険料の対象になる

賞与扱いにすると、賃金として扱われるため

・健康保険
・厚生年金

の保険料算定対象となります。


つまり会社・本人双方の負担が増加するという財務インパクトが発生します。


(2)所得税の課税対象になる
賞与扱いの場合は給与所得として課税されるため、源泉徴収が必要です。この点は企業が見落としやすく、税務調査時に指摘されるケースが少なくありません。


(3)返還条項が無効になるリスク
入社祝い金の多くは「一定期間内退職で返還」という条件付き支給で設計されています。

しかし賞与扱いにすると


・賃金返還の強制
・損害賠償的拘束
・退職の自由の侵害


と評価される可能性があり、返還条項が無効と判断されるリスクが生じます。

これは重大な法務リスクです。



3.実務で最も多いトラブル

入社祝い金制度は設計を誤ると労務紛争の温床になります。代表的なトラブルは次の通りです。


■ 支給条件が曖昧
■ 試用期間中の扱いが未規定
■ 欠勤・休職時の扱い
■ 退職時返還の可否
■ 求人広告との不整合
■ 支給時期の誤解


これらは就業規則・雇用契約書への明記不足が原因で発生します。





4.賞与ではなく「入社一時金」

法務リスクを最小化する観点からは、賞与扱いより「入社一時金」設計が望ましいといえます。

その理由は以下の通りです。


■ 評価賞与との混同を防げる
■ 返還条件を合理的に設計しやすい
■ 制度目的が明確になる
■ 労務紛争時の説明可能性が高い

■ 採用インセンティブとしての性格が整理できる


つまり、法務安定性が高い設計となります。



5.近年急増している規制動向

採用祝い金は社会問題化しており、特に人材紹介会社による祝い金支給は規制が強化されています。


行政は「祝い金目的の転職誘導」が雇用の安定を阻害すると判断しており、制度の透明性が強く求められています。


企業が直接支給する場合は直ちに違法とはなりませんが、制度設計の合理性・透明性が重要です。



6.特に注意すべき点

・短期離職率の高さ
・採用競争の激化
・人材紹介依存
・財源が公費中心
という特殊性があります。


そのため、祝い金制度が短期離職誘発型の制度と評価されると、行政・監査リスクが高まる可能性があります。

この点は極めて重要です。


7.法務プロの総括

入社お祝い金を賞与扱いで支払うことは違法ではありません。

しかし、


■ 社会保険・税務コスト増
■ 返還条項無効リスク
■ 労務紛争リスク
■ 制度目的の不明確化


といった課題を内包します。


そのため、法務プロとしては「賞与扱い」ではなく「入社一時金」として合理的条件付きで設計することを強く推奨します。



8.まとめ

入社祝い金制度は採用強化において有効な施策ですが、制度設計を誤ると採用施策から法務リスクへと転換する可能性があります。


企業が重視すべきは


・制度目的の明確化
・支給条件の合理性
・返還条件の適法設計
・規程整備
・求人広告との整合性


これらを満たすことで、祝い金制度は採用力を高めつつ、法務リスクを抑制する戦略施策として機能します。


▼違法になりにくい返還条項テンプレ▼

■ 入社一時金の支給および返還条項

第○条(入社一時金の支給)
1.会社は、採用促進および就業開始に伴う初期費用補填を目的として、従業員に対し入社一時金として金○○円を支給する。
2.本一時金は、継続勤務を前提とした条件付給付とする。


第○条(返還)
1.従業員が、自己都合退職その他本人の責に帰すべき事由により退職した場合で、支給日から○ヶ月以内であるときは、以下の基準により未経過期間相当額を返還するものとする。
■ 3ヶ月以内退職:全額返還
■ 6ヶ月以内退職:50%返還
■ 6ヶ月経過後:返還なし


2.前項の返還は、実費補填の未充足分の精算として行うものであり、違約金または損害賠償を目的とするものではない。


第○条(返還免除)
次のいずれかに該当する場合は返還を求めない。
1.会社都合退職
2.業務上傷病による就業不能
3.合理的配慮を要するやむを得ない事情
4.その他会社が相当と認めた場合


第○条(相殺)
返還が生じる場合は、法令の範囲内で本人の同意を得た上で賃金等と相殺できるものとする。

■法務が必ず入れる「違法回避の4大ワード」

条文に下記概念を入れると、無効リスクが激減します。
① 条件付給付
② 実費補填
③ 比例返還
④ 返還免除事由

 NG条項(裁判で否定されやすい)

▼よくある危険設計▼
❌ 「○年以内退職は全額返還」
❌ 「いかなる理由でも返還」
❌ 「違約金として返還」
❌ 「退職時は給与から自動控除」
❌ 「会社判断で返還」

これらは退職の自由侵害・違約金規制で無効リスクが高いです。


⭐ 追加条項
以下を追加するとトラブルが減ります。

■ 試用期間満了時支給
■ 勤務実態不備時の支給停止
■ 重大な服務規律違反時の返還
■ 虚偽申告時の返還

さらに重要(実務の勝ち設計)
実は返還条項より重要なのは
👉 分割支給設計


・入社時50%
・3ヶ月後25%
・6ヶ月後25%

これが最もトラブルが少ないです。



■人材紹介会社への規制

人材紹介会社が求職者に「入社お祝い金」を支払う行為は原則禁止されており、違反すると複数の法律・指針に抵触します。


中核となるのは、職業紹介事業を規制する法律です。

① 主たる違反法令

■ 職業安定法
最も重要なのが職業安定法です。

● 違反となる理由
人材紹介会社が祝い金を支給すると
✅ 求職者を金銭で誘引
✅ 就業の安定を阻害
✅ 転職の繰り返し誘発
✅ 適正な職業選択を歪める


と評価され、「不適正な就職促進行為」として問題視されます。 


② 直接の根拠となる行政指針

■ 厚生労働省 の職業紹介事業指針
行政は明確に


求職者への金銭・経済的利益の供与による勧誘は不適切と示しています。


※つまり祝い金は原則NGという扱いです。 



③ 違反の具体的な法的評価

① 不適正な職業紹介
祝い金による誘引は
👉 求職者の合理的判断を歪める
として不適正紹介に該当。


② 就業の安定阻害
祝い金目当ての短期転職を誘発するため
👉 雇用の安定を阻害
と評価されます。
※これは行政が最も問題視している点です。


③ 利益供与による勧誘行為
祝い金は・・・
👉 金銭による誘引
👉 過度な勧誘
と評価される可能性があります。



④ 違反時の行政処分

違反した場合、次の処分があり得ます。


■ 指導・改善命令
■ 事業停止命令
■ 許可取消
■ 事業所名公表


つまり、紹介会社にとって致命的リスクです。


⑤ 企業が祝い金を出す場合との違い

ここが非常に重要です。

■適法性

●企業が直接支給:原則OK
●人材紹介会社が支給:原則NG
●理由: 紹介会社は「中立性」が求められるため


⑥ なぜ規制が強化されたのか

背景には社会問題があります。


■ 祝い金目的の転職ループ
■ 医療・福祉分野での短期離職増加
■ 公費人材市場の歪み
■ 紹介手数料ビジネスの過熱


これを受け、行政は規制を強化しました。


⑦ 例外はあるのか

原則禁止ですが


👉 軽微なノベルティ
👉 就職活動の実費補助


などは個別判断となる余地があります。


※ただし祝い金のような就職条件となる金銭支給はほぼNGです。



 ⑧ 法務プロの総括

人材紹介会社による祝い金は
✔ 職業安定法
✔ 行政指針
✔ 職業紹介の中立性原則


に抵触する可能性が高く、原則禁止行為と理解すべきです。


#入社お祝い金 #お祝い金 #一時金 #賞与 #人材紹介会社 #職業安定法 #行政指針 #中立性原則 #企業 #採用 #規制 #離職 #転職 #勧誘 #求人 #スカウト #法務 #適法性 #法務リスク #支度金 #busifrosearch #ビジフロサーチ #人事評価制度構築 #経営者伴走支援