おはようございます
carenavi_gate 訪問看護師 米中京子です。
自己紹介です![]()
「昨日は『絶対に病院で最期まで頑張る。』って言ってたのに、今朝になったら『もう家に帰りたい』って…。お父さん、どっちが本音なの?」
診察室の隅で、娘さんがこぼした言葉。
その困惑した表情が、今も忘れられません。
朝と夕方で、月曜日と金曜日で、先週と今週で。大切な人の意思がコロコロ変わることに、振り回されて疲れ果てていませんか?
揺れることは、生きている証
2020年の秋、私が担当した加藤さん(72歳・肺がん)のケースです。
月曜日「抗がん剤、もう一度やってみる。」
火曜日「やっぱり副作用が怖い。」
水曜日「でも、孫の結婚式には出たい。」
木曜日「もう疲れた。何もしたくない。」
金曜日「来週の検査、受けようかな。」
奥様は「主人の気持ちについていけない。」と涙ぐんでいました。
なぜ気持ちは揺れ動くのか
人の心って、実はすごく正直です。
その日の体調、天気、会った人、見たニュース。すべてが気持ちに影響します。
私自身、健康なときでも「今日はやる気満々!」な日もあれば、「何もしたくない…。」という日もあります。
ましてや、病気と向き合っている方なら、なおさらです。
具体的な要因を挙げてみましょう:
身体的要因
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痛みの強さが日によって違う
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薬の副作用で気分が変わる
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睡眠の質によって判断力が変化
心理的要因
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希望と絶望の間を行き来する
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家族への遠慮と本音のせめぎ合い
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死への恐怖と受容の繰り返し
社会的要因
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面会者によって気持ちが左右される
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ニュースや他の患者さんの話に影響される
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医療者の言葉ひとつで希望を持ったり失ったり
揺れを「全部」受け止める勇気
私が大切にしている言葉があります。
それは、ある患者さんが教えてくれた「今日の私は、今日の私。」という言葉。
昨日の決断と今日の決断が違っても、それはどちらも「本当の気持ち」なんです。
矛盾しているように見えて、実は矛盾していない。その瞬間瞬間の、正直な心の声なんです。
佐々木さん(仮名・68歳)のご主人は、朝「もう治療はやめる。」と言い、夕方には「やっぱり頑張る。」と言います。
奥様は最初、「どっちなの!」とイライラしていました。
でも、ある日こう言ったんです。
「朝の『やめたい』も、夕方の『頑張りたい』も、全部受け止めることにしました。だって、どっちも主人の本音だから。」
それ以来、ご主人は安心したような表情で、素直に気持ちを話すようになりました。
揺れる気持ちとの付き合い方
じゃあ、実際にどう対応すればいいのか。私が実践している方法をシェアしますね。
1. 「今の気持ち」を大切にする
「さっきと言ってることが違うよ。」ではなく、「今はそう思うんだね。」と受け止める。
実例: ❌「昨日は家に帰るって言ったでしょ。」
⭕「今日は病院にいたい気分なのね。」
2. 決断を急がない
重要な決断は、何日かかけて。できれば1週間くらい、気持ちの変化を見守ってから。
田中さん(仮名・70歳)は、手術を受けるかどうかで1ヶ月悩みました。
でも、その1ヶ月があったからこそ、最終的に納得のいく選択ができたんです。
3. 記録をつける
日々の気持ちの変化を記録すると、パターンが見えてきます。
例:体調が良い日→前向き
雨の日→ネガティブ
孫が来た後→やる気アップ
このパターンが分かれば、対応もしやすくなります。
家族の心も揺れていい
実は、家族の気持ちだって揺れているはずです。
「もっと治療を続けてほしい。」
「でも、苦しむ姿は見たくない。」
「家で看取りたい。」
「でも、急変したらどうしよう。」
この葛藤、当然です。むしろ、揺れない方が不自然。
私は訪問看護で、多くのご家族にこう伝えています。
「揺れる自分を責めないで。それは愛情の深さの表れだから。」
プロに頼ることの大切さ
気持ちが揺れ続けて、家族も本人も疲れ果てた時。
そんな時こそ、第三者の出番です。
医師、看護師、ケアマネジャー、ソーシャルワーカー。
私たちは「揺れ」と共に在りたいとおもっています。判断を急がず、じっくりと気持ちの整理をお手伝いします。
先日、ある家族会議に同席しました。お父さんの治療方針で、家族の意見がバラバラ。でも、2時間かけてみんなの「揺れ」を共有したら、自然と方向性が見えてきました。
一人で、家族だけで抱え込まないで。プロを上手に使ってください。
揺れの向こうに見えるもの
揺れ続けた先に、必ず「これだ」という瞬間が来ます。
それは突然かもしれないし、徐々にかもしれない。でも、十分に揺れた後の決断は、後悔が少ないんです。
私が見送った患者さん。みんな、最後まで揺れていました。でも、その揺れを受け止めてもらえた人は、穏やかな表情で旅立っていきました。
昨日と今日で言うことが違う。
その揺れ全体が、その人の「生きている証」なんですから。
今日も、大切な人の心の揺れと共に、優しくそこに居てくださいね。
今日の問いかけ![]()
あなた自身、最近何かで心が揺れていることはありますか?その揺れを、否定せずに受け止められていますか?
