PRISMIC


風邪を引いて、高熱を出したら、私の中の人がガラリと入れ変わってしまったような気がする。


自分に課せられた全てが無駄なものに感じられる。


人はいつかは死んで炭素になりゆくものなのに、富や名声の為に働くのだろうか。


死んだら何も持っていかれないのに?



受験のときもそうだった。


うまく自分をごまかしたり、宥め賺して進むことが私にはできなかった。


自分で自分を納得させられるだけの何かが見つからなかった私は、一年という期間をもらうことでその時なりの答えを出した。


迷惑も心配もたくさんかけたし、自分にとっても試練であったけど、その時選んだ道を私は後悔していない。


それが最初思い描いていたものとは違っていても、想像以上のものを私は手に入れた気がするから。


それに、もし何も得ない道であったとしても、私はたぶん後悔していない。


納得するまで自分と向き合ったから。逃げなかったから。



今の私には、もうあのときのようには時間がもらえない。猶予の期限はもうそこまで迫ってきている。


あれからほんの数年のうちに、いい意味でも悪い意味でも自分をごまかすのが巧くなった。


知らないふりをするのが巧くなった。


もっともっと私は自由になりたいのに。


ゴールが見えると私は巧く走れない。それがあまりに霞んでいても、あまりに明確すぎるものであっても。


狭い狭い東京で、四方をコンクリートに囲まれて、見える空はほんの僅か。


その中で更に小さい小さい部屋に住み、私をここに引きつけておくものは一体なんなのか。


今なら、引力がなくったって、私はあらゆる重みで沈んでいきそうだ。



季節を追い越して、その向こうの、もっと向こうのあなたに会いにゆきたい。