月1回の15分間の面会

病院まで行くのに1時間近くかかるため、

月ごとの事務手続等が一度で済むよう、

月の中旬以降で予約をしている。

4月の面会は3日前・木曜日だった。

 

この日は雲行きが怪しかったものの、

気温は例年より少し高めで、

起伏が多い道のりを5分歩いただけで、

シャツの下が汗ばむのがわかった。

AIRismを着てきて良かった……。

 

準備OKのアナウンスがあり、

妻の病棟へ向かうと、

ナースステーションの奥に車椅子が見えた。

パステルグリーンのパジャマを着た

妻がポツンと待っていた。

近づくと着衣の素材が、

春夏用に替わっているのがわかった。

 

この2ヵ月くらい、

妻は面会時に胸の前で両掌を組んでいた

指と指は交差したままで、

解いて姿勢を変えようともしない

ついこの間まで僕の前では、

嫌がってマスクを外していたのだが、

そんな動きすらなくなってしまった。

 

だが今回は掌を合わせることもなく、

それどころか腕と体の間に

クッションが挟まっているではないか!

パジャマとカラーコーディネートしたのか、

クッションの色は鮮やかなグリーン、

もう片方には白いバスタオルが挟まっていた。

 

 

一方的に近況を話した後、

妻の好きな大滝詠一の曲と、

今井美樹の「PRIDE」をかけた。

もう1曲……と思ったときに、

スタッフさんが終了を告げにやって来た。

 

スタッフさんは手に、

大きめの白いポリ袋を持っていた。

中身は僕が送った写真絵ハガキや、

クリスマスカードなどの手紙類と、

妻のためにセレクトした音楽CDだった。

 

収納するところがいっぱいになってきたので、

返却をしたいとのことだった。

 

 

スタッフさんによると近ごろは、

音楽にも興味を示さなくなったという。

念のために本人に、

「これ残した方がいい?」と

尋ねてみたが芳しい反応はなかった。

 

集団リハビリの際に流す音楽のなかには、

僕がセレクトしたものと、

重複する曲が3~4曲はあるとのことで、

残念ながら持ち帰ることにした。

 

家に戻って返却された手紙類を確認すると、

2週前に送ったものまでが含まれていた。

数えてみると2年間で58通の写真絵ハガキと、

3通の記念日カードがあった。

 

面会の週以外は、

毎回ハガキを送っていたので、

もう少し多いと思っていたが、

毎週会えた時期が半年間続いたので、

辻褄は合うのかもしれない。

妻のきょうだいや親戚、

友人からの手紙類も含まれていた。

 

いま妻の手許にある持ち物は、

先週送ったハガキ1枚だけになってしまった。

返却物を眺めているうちに妻との繋がりが、

僅かになってしまった気がしただけでなく、

「(ひとり) ぽっちは嫌だよ」と言ったときの

妻の心細い表情が甦ってきた……。

 

 

 

のち白ワインワイン!

 

2022 Vin de Savoie Chardonnay Prestige

[Domaine Jean Vullien & Fils]

(フランス/サヴォワ)

 

宴席で提供されたワインのため、ワインの色がわかる写真を撮り忘れてしまった。イタリアに近いフランス・アルプスの麓でつくられたミネラリーで果実味あふれる旨い白ワイン。このドメーヌ・ジャン・ヴュリアンのプレステージュは、3000円台以下で買えるオススメの1本!

 

 

この日のスタッフさんは、妻が1度目に調薬入院していたときのことを知っている方だった。でも僕が会うのは初めてだった。

いつもだと、妻が病棟に回収されていくのを見送るのだが、スタッフさんは妻の車椅子を押して、僕が乗るエレベーターホールの前まで、妻を連れてきてくれた。この2年余で初めてのケースだった。エレベーターの扉が閉まる直前、マスクを下げて、僕の顔が見えるようにしてみた。気のせいかもしれないが、妻の表情が一瞬緩んだような気がした……。