月1回の面会日

前日の父の件が尾を引き、

妻に会ったときの企みのひとつが

すっかり抜け落ちていた。

 

季節を感じられる香りを届けるため、

沈丁花の花を採取しようと考えていたのだが、

自宅近くのスポットに寄ることなく、

妻の病院の最寄り駅まで来てしまった。

 

昨シーズンも書いたような気がするが、

庭木なので個人宅ではよく見かけるが、

公の場所では意外にも多くはない

 

病院の送迎バスには乗らず、

45分の道のりを歩いて探したが、

香りが漂ってくる場所はどこかの庭ばかり。

諦めかけたとき、足元で土筆を見つけた

香りから季節感に方針を変更し、

土筆を1本手折り、ビニールに収めた。

 

面会の手続をし、

誰もいないナースステーション前で

待っていると、車椅子を押され、

妻が病棟の自動ドアから現れた。

 

「keroぴょんだよ! 元気だった?」

 

妻の名前を呼んだが発語反応はなく

眉間に縦じわが寄っている。

何か不満があるのだろうか……?

いや、山ほどあることだろう。

 

月1回の面会ルールすら知らないのだから、

“自分勝手なときにばかり来る”と、

妻は思っているのかもしれない……。

 

こういう場合に備えて、

今日は和みアイテムを持ってきた。

我が家のマスコット、

子猿のぬいぐるみである。

 

子猿のふりをして、

妻の名を呼んでみたものの反応はない。

マスコットを持たせようとしても、

胸の前で手のひらをクロスしていて難しい。

 

大谷選手のドジャーズ移籍と結婚を告げ、

個人年金の繰延と医療特約の延長の話をすると、

何やら小さな声で呟いたが聞き取れない。

 

次にTVで放送された離島紹介番組

iPadminiで見せることにした。

彼女の故郷にある島で、

同級生が住んでいたと聞いたことがある

僕の解説付きだったが、

妻は画面を目で追いはじめた。

 

 

 

6分ほど見たところで飽き、

画面から目を外したが、

それまではずっと見ていたので、

理解していたのかもしれない。

 

そんな妻に心配なことが起きた。

普通食に戻った食形態が、

再びソフト食にダウンしてしまった。

 

葉物をいつまでも咀嚼しているような状況となり、

面会日の朝からソフト食になってしまった。

とても気がかりだが、

再び普通食に戻ることを願うしかない。

 

そんな妻に差し入れた

ちょっと遅いホワイトデーのプリンが、

普通食が戻るきっかけとなるといいのだが……。