昨春、老人ホームの
認知症対応フロアに移った叔母に、
今年初めて会いに行った。
90代前半の叔母は、
血管性認知症の母の妹で、
叔父に先立たれ、子どもがいないので、
僕がホームの保証人になっている。
叔母の居室を訪ねると、
窓の外は黄色の花が咲いていた。
蠟梅のようだが、
花の少ない季節のせいか、
日を浴びて煌めいて見える。
以前だと叔母は、
ホームの人のサポートで車椅子に座り、
共有スペースまで出てきてくれたが、
最近ではベッドで横になってばかりいる。
叔母は脚を複雑骨折したことがあり、
金属が入っているため、
冬場は動くのが辛くなるらしいが、
アルツハイマーの症状が出てきてからは、
動かないことに拍車がかかってしまった。
この日も体を壁に向けて、横になっており、
僕のほうを向こうとはしない。
ヘルパーさんがせっかくだから、
対面で話せるようにしようとしてくれた。
電動ベッドの角度を起こすために、
体の位置を修正するよう肩を軽く叩き促すと、
「叩くな、痛い!」と叔母は怒ってしまった。
そんな叔母だが、
僕に背を向けながら普通に話をする。
叔父の墓地があるお寺の
檀家料を払ってきたと報告すると、
「いくらだった?」とキチンと受け答えする。
だが数秒うつらうつらすると、
祖父が生きていたころに叔母はワープし、
僕はいきなり学生時代に戻されてしまう。
叔母のタイムマシンはとても不安定で、
唐突に別の時代に行ってしまい、
話の辻褄が合わなくなってしまう。
お願いだから、
もう少し安定走行してもらいたいものだ。
そんな叔母は、
叔父が亡くなってからひとり暮らしが、
15年近く続いたせいか、
ガランとした自宅が嫌いだという。
それだからなのだろうか、
叔母にとっての家族は、
姉である母たちと、
一緒に暮らしていた時代まで遡るようだ。
いちばん落ち着く、
居心地がいい場所なのかもしれない……。
(こちらも併せてお読みください)
【おまけの1曲】
タイムマシンにおねがい
(サディスティック・ミカ・バンド)
加藤和彦(ギター、ボーカル)、加藤ミカ(ボーカル)、つのだ☆ひろ(ドラムス)のメンバーで結成され、高中正義(リードギター)が加わり、つのだ脱退後は高橋幸宏(ドラムス)や小原礼(ベース)、後藤次利(ベース)らも参加したスーパーバンド。2006年に再々結成されたときには、木村カエラ(ヴォーカル)も加わりました。CMソングにもなったkeroぴょんの好きな曲です。