妻が一度目の調薬入院から、
自宅に戻ってきた2年前のいまごろ、
ある幻視に怯えるようになっていた。
「ヘビいる? 怖い怖い怖い……」
妻はもともとヘビが大の苦手だったが、
真冬の1月、しかも賃貸マンションの中、
さらに周辺は商業地域のため、
夏場でもヘビなんているはずがない。
だが何度も言われると、
不安感を取り除くのには苦労をした。
そういうときの受け答えなのだが、
「ヘビなんていないよ、どこにいるの?」
と返すと、逆に興奮させてしまうことになる。
「大丈夫、冬だから冬眠中だよ」と、
妻の不安に僕は対処していた。
それにしても、
認知症の人に対する返事は、
時と場合によってはかなり難しい。
“否定してはいけない”と言われているが、
いざとなると言葉に詰まることだってある。
そんなときに役立つ、
ちょっぴりユニークな切り口の本を見つけた。
認知症の人への
接し方や言い方の重要性を踏まえ、
軽度、中等度、重度などの症状に合わせた
言いかえフレーズが載った1冊である。
例えば、同じものを何度も買うときなど、
ケーススタディ別に、
悪い例と言いかえた例を併記し、
言いかえが必要な理由を説明しているので、
いざというときのヒントになるだろう。
このほかに「認知症の親に
イライラしてしまう」など、
家族ならではの悩みに対する
12問のQ&Aも参考になるだろう。
ともあれ、本人が満足できる返答でないと、
何度も同じことを尋ねてくる。
特に会話が嚙み合わなくなると、
その原因を探りながら、
対処して行くのは困難になってくる。
経験上コミュニケーション自体が、
成り立たなくなってきたときが、
家族だけの介護の限界なので、
プロの手を借りるタイミングと
考えたほうがいいだろう……。