「何こんなことするの?」

 

車椅子の妻から、

そのフレーズは2回発せられた。

 

たった5分間の

モニター越し面会がはじまって、

2分半が過ぎたころと、

5分を告げるアラーム後、

別れの言葉を告げているときの2回。

 

今日の妻は反応が芳しくない。

表情は何だか気難しそうに見える。

 

名前を呼び掛け、

「keroぴょんだよ。わかる?」と

尋ねても無反応だったり、

ボソボソと何か呟いて聞き取れない。

 

そして下を向いていて、

画面を見ようとはしない

音声にときどき反応するが、

マイクの方向を向いてないせいか、

会話の意味が酌めず、

質問主体となってしまう。

 

「じゃあね、また来るからね。

次は9月になっちゃうけどね……」

 

そう告げると、

車椅子の上に立てた片膝に、

埋めてしまった。

 

拗ねてる……???

そんなふうにも見えた。

 

 

自宅に戻り、

聞き取れぬ個所を再度チェックした。

だが何度聞いてもはっきり聞き取れない。

 

「何こんなことするの?」

 

僕にはこのフレーズが、

二通り意味を持つように感じた。

 

ひとつ目の意味は、

病室から連れ出されて、

ここにいるのか

尋ねているように感じられた。

モニター越しの面会が、

理解できていない印象である。

 

もうひとつの意味は深い。

モニターを敢えて見ぬようにし、

不満意思表示

しているように感じられたからだ。

 

「何こんなところ

居なきゃいけないの!?」

 

そう訴えているように思えた。

 

聞き取れなかったボソボソを

この視点で聞き返してみると、

「帰りたいの……」

いったように聞こえる個所があった。

 

ご・め・ん・ね、

不自由にさせて……。