前回からの続きである。

 

大学病院から都下の病院

妻が移送されて3日目、

「転院日が決まった」との連絡を受けた……。

なんと、明日が転院日

病院のソーシャルワーカーさんに、

介護タクシーの手配をお願いした。

 

電話を切ってから4~5分後、

再び都下の病院から電話があった。

ソーシャルワーカーさんから、

院長に電話が変わった。

 

  「移送、おひとりで大丈夫ですか?

  交通費をご負担いただけるなら、

  看護師をおつけしましょうか?」 

 

  “移送中に車酔いしたら……”

  “BPSDが止まらなくなったら……”

 

尽きぬ僕の不安を先読みしての、

とても有難い提案だった。

 

 

転院の日、

診察中のはずの院長が顔を見せ、

声をかけてくれた。

僕は深々と頭を下げた……。

 

たった4日間の妻の入院中

僕が足を運んだのは入退院の際と、

必要な身の回りの品を

届けたときの計3回だが、

職員さん、看護師さん、検査技師さん、

どの方もアットホームな雰囲気で、

人当たりが良さ、心遣いに好印象を抱いた。

院長の人柄と教育によるところが

大きいのだろう。

建物はクラシックだけど、

病院全体から医は仁術の姿勢が感じ取れた。

 

妻に必要な身の回り品を届けた日曜は、

歩くと汗ばむぽかぽか陽気だった。

僕は喉ではじけるような

泡物が飲みたくなった。

帰宅途中の成城石井で、

スペインカヴァと、

東南アジア風エスニック惣菜を買った。

 

『NV Impuls Cava Brut Rose Orgànic』は、

さっぱりとしていて、

泡の刺激がこの日の期待通りだった。

ラズベリーなど、

赤いベリー系のフルーティさを感じた。

惣菜の彩りとして添えた

茹でたブロッコリーを口の中に放り込み、

カヴァをひと口。

 

 

妻と転院先に向かう介護タクシーの中、

付き添いの看護師さんとの世間話の最中、

  「いい病院ですね……」

僕の口から、そんな言葉が漏れた……。

 

でも、「いい病院」って何なんだろう?

 

薬の影響でウトウトして、

妻の頭が僕の膝上の鞄に倒れ掛かってきた。

かなり重たい。鞄の中には、

ゴツゴツとしたものが詰まっていて、

寝心地はあまりよくないはずだ。

 

  「枕代わりに、すぐ後ろにある

  バスタオルを使ってください」

 

介護タクシーのドライバーさんの

心遣いが嬉しかった……。

 

 

(次回に続く)