「何でいきなりブログなんてはじめたの?」

 

そう問われれば、「“若年性認知症”の本人と家族のリアルを知ってもらうため」と答えるのだが、理由はそれだけではない。全国に3万5700人(厚労省 R2.3若年性認知症実態調査結果概要)しかいない病気ではあるが、65歳以上の“高齢者の認知症”と同じ病気のため、行政の対応やシステムは、基本的には高齢者の認知症と十把一絡げであり、そのために不利益や理不尽に遭遇することを知ってもらいたいからでもある。

本人と家族が暮らしやすくなるためには、“若年性認知症家庭”が抱える問題を広く知ってもらうしかないし、そのことが明日発症するかもしれない「あなた」の安心に直結すると考えるからである……。

3ヵ月間の入院から妻が戻ってきたとき、ショートボブ風だったは随分と伸びていた。入院する前々日、週末カットに行こうと話していたが、急転直下で入院が決まり、行けぬままになってしまったため、本人もさぞ鬱陶しかったことだろう。

病院では、月1回理美容師が来て有償でカットができたが、若年性妻はレジスタンスのように抵抗した。そのため「危険」と判断され、サービスの恩恵には預かれなかった。入院そのものが理解できていない妻にとっては、居心地が悪かったのを何とかしたかったのだろう。高齢者ばかりの中で、体力は有り余っていたので入院先では手ごわい存在となった。

退院した妻は、寒い時期のカットは厭だと言った。南方育ちのため、からっきし寒さには弱い。そこで、正月明けから通いはじめた看護小規模多機能型居宅介護施設で、カットしてもらおうと、施設のケア・マネージャーに相談した。

 

ケア・マネ「ごめんなさい。訪問理美容で市の助成が使えるのは65歳以上でした。」

 

契約のときは、カットできると説明されたが、妻が住む政令指定都市では、「要介護3以上かつ65歳以上」と規定されていた。県下最大の政令都市では、「おおよそ65歳以上」と拡大解釈の余地が残れている。新陳代謝が高齢者よりも活発な中度若年性認知症の妻が、サービスを使えないのは、議員や首長が実態を知らないからだろうか? こういうところに不利益や理不尽は潜んでいる。

3月の再入院の前日、妻をカットに連れて行こうと準備万端で外出した。行く気マンマンだったのに、50mほど歩きかけたところで、「お腹が痛い」と自宅へ逆戻りとなり、またまた髪をカットする機会から遠ざかってしまった……。

 

60歳になったとき、僕は黙っているだけの有権者をやめようと思った。1票投じるからには、必要に応じて意見もすると決めた。現に議員や首長は、制度をつくることができる。現状の理解はしていても、公務員が積極的につくるわけではない。

誰が聞いているのか判らない演説を駅前でしている議員や候補予定者がいたら、手短に話しかけてもいい。首長に手紙やメールをしてもいいだろう。自治体によっては、行政サービスコーナーに首長宛ての封筒が用意されている。そうやって、意見をしていかないと変わらないし、気づかれないふりをされる。できなくなったことだらけの妻を守れるのは、そばにいる人しかいないのだ。

そんなことを考えながら、グラスに注ぐワインは『2018 SUBMISSION Cabernet Sauvignon(689セラーズ)』というカリフォルニア・ナパ産の赤ワイン。2,000円前後で購入できるフルボディでパワフルなワインだが、自然な甘みが感じられて飲みごたえもある。ブラックベリーやダークチェリーなど、黒いフルーツ系の香りがする。タンニンはしっかりしているが舌触りはきめ細かい。旨い1本である。