このブログで、「審査請求をしたいが、審査請求書の書き方が分からない。」という相談を受けることがあります。
私が仕事をしていなければ、審査請求書の作成をお手伝いできるのですが、昼間は仕事をしており、審査請求書の作成のための十分な時間がとれないため、相談者の方には、今までは法テラスを通じて生活保護制度に詳しい弁護士に 審査請求書の作成を依頼するよう助言していました。
しかし、相談者の方から、「法テラスを通じて生活保護制度に詳しいという弁護士に相談したが、残念ながら、生活保護制度にあまり詳しくなかった。 法テラスを通じて相談した弁護士から、審査請求は 法テラスの民事法律扶助法律援助の対象外であるので、審査請求書の作成の依頼を受けることはできないと言われた。」などの声を多くいただきました。
確かに 審査請求は、「法テラスの民事法律扶助」の対象にはなっていませんが、下記の参考資料のとおり 「日弁連の法テラス委託援助事業」の対象になっていますので、高齢者や障がい者等の方は、この事業により 弁護士の支援を受けることができると思うのですが、相談者の方から、実際は支援を受けることができなかったとの声がありました。
そのため、検討した結果、福祉事務所の対応が悪く、やむを得ず審査請求を行わざるを得ない方について、6月から 無料で月に1~2件の審査請求書の作成依頼を受けることにしました。
審査請求書の作成依頼をすべて受けることができればよいのですが、私にも時間的な制約がありますので、月に1~2件が限度かと思います。
そこで、審査請求書の作成依頼を受ける条件があります。 それは、次のとおりです。
<条件>
・審査請求を行う理由や経緯(ケースワーカーとのやり取り等)を記載し記録しておくこと。
・ケースワーカー等とのやり取りは、できるだけ隠して録音しておくこと。
・福祉事務所から通知書(保護費返還決定通知書、保護費徴収決定通知書、保護申請却下通知書、一時扶助申請却下通知書、保護費変更通知書など)を受け取ってから直ちに、個人情報保護条例に基づき、あなたのケース記録や ケース診断会議の会議録等の情報開示請求を行うこと。
・審査請求を行う場合は、福祉事務所から通知書(保護費返還決定通知書、保護費徴収決定通知書、保護申請却下通知書、一時扶助申請却下通知書、保護費変更通知書など)を受け取ってから、1か月以内であること。
<上記条件の理由>
・審査請求の理論的な部分については、私が作成することができますが、「〇年〇月〇日に どのような事実が発生し、また、ケースワーカー等との間で、どのようなやり取りが行われたのか。」等については、私には分かりませんので、できるだけ そのことを記録していただく必要があります。
・ケースワーカーなどの役所の職員は、自分の都合が悪くなると、必ず「そんなことを言ってない。 そういう趣旨で言ったものではない。 あなたは、私が言ったことを誤解して受け取っている。」などと言って、言い逃れをします。 そこで、言い逃れをさせないために、必ず隠して録音し 証拠を残す必要があります。
・ケースワーカーの中には、自分の都合のよいように嘘をケース記録に書く人がいます。 そこで、審査請求を行う前に、必ず個人情報保護条例に基づき、あなたのケース記録や ケース診断会議の会議録等の情報開示請求を行い、ケース記録等の内容を確認する必要があります。
・また、福祉事務所は、生活保護法第63条に基づき返還処分を行う場合は、自立更生費について保護受給者の方に説明し、ケース診断会議において 自立更生費の必要性について十分に検討を行った上で、保護費の返還額を決定する必要があります。 もし自立更生費について保護受給者の方に説明していなかったり、ケース診断会議において 自立更生費の必要性について 十分に検討を行っていなかったりした場合は、裁量権の逸脱又は濫用により違法とされ、福祉事務所による処分が取り消されることがあります。 そのため、ケース記録や ケース診断会議の会議録の内容を見て、自立更生費について保護受給者の方に説明したか否か、ケース診断会議において、自立更生費の必要性について十分な検討が行われたか否かについて確認し、それらのことが実施されてない場合は、そのことを審査請求書に記載する必要があります。
・審査請求は、福祉事務所から通知書(保護費返還決定通知書、保護費徴収決定通知書、保護申請却下通知書、一時扶助申請却下通知書、保護費変更通知書など)を受け取って 3か月以内に行う必要があります。
審査請求書の作成のためには、1~2か月はかかりますので、通知書を受け取ってから1か月以内に メールで私に審査請求書の作成を依頼してください。
そこで、審査請求を行おうと考えている方は、このブログの令和6年12月12日の記事「福岡市内にお住いの方へ」の中に、私のメール・アドレスを記載していますので、それを見て 私にメールをください。 その後のやり取りは、メールで行いたと思います。
どのくらいの件数の審査請求書の作成依頼があるのか分かりませんが、誠に申し訳ありませんが、私の時間の制約の関係で、依頼を受ける件数は 月に1~2件とさせていただきます。
よろしくご協力をお願いいたします。
(参考資料)
<日弁連の法テラス委託援助事業>
「Q&A生活保護利用者をめぐる法律相談」(編集:大阪弁護士会 貧困・生活再建問題対策本部)より抜粋
4 日弁連の法テラス委託援助事業
生活保護申請手続等は、裁判所における手続ではないため、法テラスの民事法律扶助の対象とはなっていません。 しかし、日弁連が、高齢者、障がい者、ホームレス等に対する法律援助として、生活保護申請等の法律扶助を法テラスに業務委託する形で実施しています。
(1)援助の対象となる活動
ア 生活保護申請
要保護者(被保護者)の代理人として、生活保護の開始申請、変更申請を行い、又は生活保護の停止若しくは廃止のおそれがある場合に福祉事務所との交渉を行います。
イ 生活保護法に基づく審査請求
要保護者(被保護者)の代理人として、生活保護の却下、開始、変更、停止、廃止又は指導・指示などの処分に対する審査請求(対都道府県知事)又は再審査請求(対厚生労働大臣)を行います。
ウ 以上に関わる法律相談
(2)援助要件
ア 援助の対象者
生活保護の受給資格を有するにもかかわらず受給に困難を来している者、又は 適法な理由に基づかず生活保護を停止・廃止されるおそれのある者等であって、次の① ~④ のいずれかに該当する者が対象となります。
ただし、弁護士会(弁護士会が地方自治体等と協力して実施する場合を含みます。)において実施する法律相談、民事法律扶助による法律相談、日弁連委託援助契約をしている弁護士による法律相談の結果、人道的見地から、弁護士による援助を行う緊急の必要があると認められた者に限ります。
① 高齢者(年齢65歳以上の者をいいます。)
② 障がい者(身体障がい、知的障がい又は精神障がいがあるため、継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける者をいいます。)
③ ホームレス
④ その他精神的・身体的病気、施設入所中であること、安定した住居を有しないこと等のため、生活保護を自ら申請することに困難を来している者又は適法な理由に基づかず申請を拒絶された者
イ 資力要件
資力要件以下の収入要件が定められていますが、やむを得ない事情により生計が困難と認められるときは必ずしもこの基準を満たさなくても援助を開始することができます。
具体的には、申込者及び配偶者の手取月収額(賞与を含む年間手取額の12分の1)が次のとおりであることが必要です。
単身者 20万1,000円以下
2人家族 27万6,000円以下
3人家族 29万9,000円以下
4人家族 32万9,000円以下
以下家族1名増加するごとに基準額に3万3,000円を加算します。
また、申込者又は配偶者が、家賃、住宅ローン、医療費又は教育費を負担している場合には、その負担額を前記基準額に加算します。
なお、収入要件以外に、申込者又はその配偶者が、保険金、生活のために必要な住宅及び農地以外の不動産、その他300万円以上の資産を有しない者であることという資産要件を満たすことも必要ですが、特に財産隠しなどの事情がない限り問題になることはありません。
ウ 必要性・相当性
弁護士に依頼する必要性があり、かつ、相当性があることが必要です。
(3)援助申込みに際して提出する書類
援助申込みについては、弁護士が日弁連委託援助制度所定の重要事項説明書・援助申込書・個別契約書に記載し、申込人の署名、押印を得た上で法テラス地方事務所に申し込みます(フアツクスによる申込みも可能です。)。
生活保護申請に対する援助は、開始(又は却下)決定以後の申込みはできませんので注意が必要です。
(4)援助額と被援助者の負担
事件着手時の費用相当分及び報酬の基準額は、生活保護申請手続等の援助が6万円(税込)、生活保護申請に係る審査請求等の援助が11万円(税込)です。
日弁連委託援助の援助については、被援助者が費用を支払えないとはいえない状態となり、かつ、被援助者に負担させることが不当とはいえないときに限って被援助者の負担を求めることとなっていますので、生活保護に関する代理援助の場合には、資産隠しをしていたといった特別な事情でもない限り負担を求められることはありません。
なお、代理人は終結報告書の提出時に被援助者の費用負担は相当でない旨の意見を記載しておくとよいでしょう。
<審査請求書の例>
(福祉事務所の過誤による保護費の過払金の返還処分の場合)
審査請求書(案)
令和7年6月○日
B県知事 ○○ ○○ 殿
審査請求人 ○○ ○○
生活保護法による保護費返還処分について不服があるので、次のとおり審査請求をします。
1 審査請求人の住所、氏名及び年齢
住 所 ○○○○○○○○○○○○○○○
氏 名 ○○ ○○ (○歳)
2 審査請求に係る処分
A市福祉事務所長が私に対して行った、令和7年3月26日付の保護費返還処分
3 審査請求に係る処分があったことを知った年月日
令和7年3月29日
4 審査請求の趣旨
A市福祉事務所長が私に対して行った、令和7年3月26日付の保護費返還処分を取り消す、との裁決を求めます。
5 審査請求の理由
(1)私は うつ病により障害厚生年金の裁定請求を行った結果、令和3年9月分から障害厚生年金3級の受給を開始 するとともに、令和4年5月15日に精神障害者保健福祉手帳2級の交付を受けましたので、令和4年6月から精神障害者保健福祉手帳2級に基づき 障害者加算3級の支給を受けました。
(2)ところが、令和7年3月3日にA市福祉事務所の担当ケースワーカーCから、突然、障害者加算の認定にあたっては、障害年金の障害等級が、精神障害者保健福祉手帳の障害等級に優先するため、令和4年6月から令和7年3月まで障害者加算を支給していたことは誤りであったので、令和7年4月から障害者加算を削除するとともに、令和4年6月から令和7年3月までの3年10か月分の障害者加算に相当する保護費 782,500円を返還する必要があると言われました。
(3)しかし、私は、福祉事務所が誤って保護費を多く支給していたとは全く思いもしませんでしたので、保護費のほとんどを生活費などに使ってしまいました。
そのため、担当ケースワーカーCに相談しましたが、生活費などに消費した場合は、自立更生費としては認められないので、返還金から自立更生費として控除することはできないと言われ、同年3月29日に、生活保護法第63条に基づき令和4年6月から令和7年3月までの障害者加算に相当する保護費 782,500円全額の返還を求める旨の「保護費返還決定通知書」を受け取りました。
(4)しかしながら、私には何の落ち度もなく、福祉事務所の担当ケースワーカーの過誤により保護費を多く支給していたにもかかわらず、担当ケースワーカーやA市福祉事務所は何の責任もとらず、まるで私だけが悪いかのように、過払いとなった保護費の全額を返還するように言われても、納得できません。
(5)生活保護法第63条に基づく返還額の決定方法を定めた「別冊問答集」問13-5の答には、「原則として当該資力を限度として支給した保護金品の全額を返還額とすべきであるが、保護金品の全額を返還額とすることが、当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については、次の範囲においてそれぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いとして差し支えない。」とされており、消費した生活費を自立更生費として認めることができる旨の記述はありませんが、「保護金品の全額を返還額とすることが当該世帯の自立を著しく阻害すると認められるような場合については、次の範囲においてそれぞれの額を本来の要返還額から控除して返還額を決定する取扱いとして差し支えない。」とされています。
(6)私は、過払いとなった保護費のほとんどを消費済みであり、返還すべき保護費は手元になく、保護金品の全額を返還額とすることは、最低生活費を下回る生活を強いられ、私の世帯の自立を著しく阻害すると考えられますので、本来の要返還額から一定額を控除して返還額とすることができると考えます。
(7)また、生活保護法第63条には、「被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と定められており、消費した生活費を自立更生費として認めてはならない旨の規定はありません。
(8)さらに、大野城市の事案における福岡地裁判決(平成26年3月11日)では、「保護手帳は、自立更生費については、①浪費した額、②贈与等当該世帯以外のために充てられた額、③保有が容認されない物品等の購入に充てられた額は該当しないと規定しているにすぎないことからすると、一定の生活費についても自立更生費に該当すると解釈することも可能と解される。」とし、一定の生活費についても自立更生費に該当すると解釈することも可能と解されると判示しており、この福岡地裁の判決については、大野城市が控訴しなかったため、同市の敗訴で判決が確定しています。
(9)また、東京都の事案における東京地裁判決(平成29年2月1日)では、「本件全証拠によっても、本件処分に至る過程で、東京都A福祉事務所長において、本件処分当時の原告の資産や収入の状況、その今後の見通し、本件過支給費用の費消の状況等の諸事情を具体的に調査し、その結果を踏まえて、本件過支給費用の全部又は一部の返還を たとえ分割による方法によってでも求めることが、原告に対する最低限度の生活の保障の趣旨に実質的に反することとなるおそれがあるか否か、原告及びその世帯の自立を阻害することとなるおそれがあるか否か等についての具体的な検討をした形跡は見当たらない。 (略) このような、専ら東京都D福祉事務所の職員の過誤により相当額に上る生活保護費の過支給がされたという本件過支給が生じた経緯に鑑み、また、法63条の規定が不当に流出した生活保護費用を回収して損害の回復を図るという側面をも趣旨として含むものと解されることを併せ考慮すれば、本件過支給費用の返還を義務付けることとなる処分が、処分行政庁側の過誤を被保護者である原告の負担に転嫁する一面を持つことは否定できず、本件過支給費用の返還額の決定に当たっては、損害の公平な分担という見地から、上記の過誤に係る職員に対する損害賠償請求権の成否や これを前提とした当該職員による過支給費用の全部又は一部の負担の可否についての検討が不可欠であるものというべきである。 ところが、本件全証拠によっても、本件処分に当たり、上記のような検討がされたものとはうかがわれないから、そのような検討を欠いたままで本件過支給費用の全額の返還を原告に一方的に義務付けることとなる本件処分は、社会通念に照らして著しく妥当性を欠くものといわざるを得ない。」と判示しており、東京都は、この判決に対して控訴しなかったため、都の敗訴で判決が確定しています。
(10)東京地裁の判決では、「たとえ分割返還であっても、原告に対する最低限度の生活の保障の趣旨に実質的に反することとなるおそれがあるか否か、原告及びその世帯の自立を阻害することとなるおそれがあるか否か等についての具体的な検討する必要があり、また、本件過支給費用の返還を義務付けることとなる処分が、処分行政庁側の過誤を被保護者である原告の負担に転嫁する一面を持つことは否定できず、本件過支給費用の返還額の決定に当たっては、損害の公平な分担という見地から、上記の過誤に係る職員に対する損害賠償請求権の成否や、これを前提とした当該職員による過支給費用の全部又は一部の負担の可否についての検討が不可欠であるものというべきであるが、本件全証拠によっても、本件処分に当たり、上記のような検討がされたものとはうかがわれないから、そのような検討を欠いたままで本件過支給費用の全額の返還を原告に一方的に義務付けることとなる本件処分は、社会通念に照らして著しく妥当性を欠く。」との判断を示しており、分割返還したからといって、返還額の合計額が変わるわけではなく、毎月の返還額を少額にすれば、それだけ返還期間が長くなり、長期間にわたって最低生活費以下の生活を強いることになることから、返還処分の適法性が認められるものではありません。
(11)私は、個人情報保護条例に基づき、ケース記録やケース診断会議の議事録について情報開示請求を行い、私に関するケース記録やケース診断会議の議事録を読みました。その結果、担当ケースワーカーは、私に自立更生費について何ら説明を行っておらず(説明義務違反)、返還金の全額を私に返還させることが、私の世帯の自立を著しく阻害するか否かについて何ら調査を行っておらず(調査義務違反)、また、ケース診断会議において、返還金の全額を返還させることが、私の世帯の自立を著しく阻害するか否かについて十分な検討を行っていないこと(検討義務違反)が明らかになりました。このことは、上記の福岡地裁判決及び東京地裁判決から、明らかに福祉事務所の裁量権の逸脱又は濫用により違法であり、当該返還処分は取り消されるべきものであると考えます。
(12)よって、行政不服審査法第5条に基づき、本件審査請求を行うものです。
6 処分庁の教示の有無及びその内容
保護変更決定通知書に付記された教示文により、「この決定に不服があるときは、決定のあったことを知った目の翌日から起算して3月以内に県知事に対し、審査請求することができる」旨の教示を受けた。
7 本件の審査については、行政不服審査法第25条1項ただし書による口頭審理、及び同法33条2項による処分庁から提出された書類その他の物件の閲覧を求めます。
(添付資料)
1 平成29年2月1日 東京地方裁判所判決 086893_hanrei.pdf (courts.go.jp)
2 大野城市63条返還及び住宅扶助特別基準設定事件(福岡地裁 平成26年3月11日判決)
【事案の内容】
生活保護を受給していた原告が、処分行政庁から、 ① 処分行政庁が原告の受給していた厚生年金を看過して生活保護費の過誤払いを行ったところ、生活保護法63条に基づきその全額の返還を命じられた処分、 ② 転居するにあたって住宅扶助費(家賃)月額4万3、600円の申請に対し、実施機関かぎりで認定できる上限額である月額4万1、100円と認定された処分、 ③ 転居に要する敷金を支給する旨の申請に対し、これを支給しない旨の処分を受けたため、これらの各処分の取消しを求めて提訴した。
【問題の所在】
(1)法63条は「…… 資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは …… その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。」と費用返還義務を定めるが、その判断枠組みが問題となる。
(2)被保護者に転居が必要な一定の場合に転居費用(敷金等)が支給されるが、転居先の家賃が特別基準額を超える場合にも敷金は支給されるか。(現在の運用では、実施要領の規定を形式的に解釈し、転居先の家賃が特別基準額を超える場合には敷金支給が一切認められない。)
【判断】
(1)法63条の適用について
法63条の適用について、最高裁判決(平成18年2月7日第三小法廷判決)を参照し、「保護の実施機関が、返還額決定について有する裁量は、全くの自由裁量ではなく、返還額の決定に当たり、自立更生のためのやむを得ない用途にあてられた金品及びあてられる予定の金品(以下、併せて「自立更生費」という。)の有無、地域住民との均衡、その額が社会通念上容認される程度であるか否か、全額返還が被保護者世帯の自立を著しく阻害するかという点について考慮すべきである」、「その裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法判断においては、その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し、その判断が重要な事実を欠くか、又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められる場合に限って、裁量権の逸脱又は濫用として違法となる」として、本件については原告の生活実態や収入、過誤払いの額、原告が過誤払いを知らなかったこと、原告が過誤払金を浪費したとの事実は認められないこと等を踏まえて、処分取り消しを認めた。
(2)住宅扶助費について
転居の必要性を認めたが、裁量権の逸脱・濫用を認めなかった。
(3)転居費用(敷金支給)について
実施要領の規定が、特別基準額「以内の家賃又は間代を必要とする住居に転居するとき」としているものの、これは「特別基準額に3を乗じて得た額の範囲内であれば、処分行政庁において、必要な額を認定して差しつかえない旨を定めたものにすぎない」として、支給することの可否等について厚生労働省に情報提供するなどして検討すべきであったのに、形式的判断により敷金相当額を一切支給しなかったもので、裁量権の逸脱・濫用があったとして、処分を取り消した。(一審で確定)