仕事が少し落ち着きましたので、久しぶりに記事を掲載します。
【問】離婚後、私一人で 生活保護を申請したいと福祉事務所に相談しましたが、担当者から生活保護の申請書を渡してもらえません。 どうすればよいのですか?
(前夫)が 数年前からギャンブルで借金をつくり、家に生活費を入れず、私も うつ病で働くことができないため、今までは、いろいろなところから借金をして、どうにか生活してきました。 しかし、これ以上 借金をすることは難しいため、離婚を考え (前夫)と協議を重ねた結果、先日、ようやく離婚が成立しました。
そのため、私は、一刻も早く 現在の家から転居したいと思っていますが、転居費用が捻出できず、(前夫)も転居費用を出してくれないので、離婚後も やむを得ず、現在の家で (前夫)との生活を続けています。
(前夫)は、相変わらず 家に生活費を入れず、このままでは生活ができないため、先日、生活保護を受けようと思い、福祉事務所に相談に行きましたが、ケースワーカーから、「現状では、まだ(前夫)と同居しているので、(前夫)との2人世帯として保護を申請しなければならない。」と言われ、保護の申請書を渡してもらえませんでした。
しかし、(前夫)は 保護を申請する意思はなく、(前夫)は 借金の返済があるものの 収入があるので、(前夫)との2人世帯として保護の申請を行うことは難しい状況です。
私は、今後、どのようにしたらよいのか、教えてください。
【答】
ケースワーカーから、「現状では、まだ(前夫)と同居しているため、(前夫)との2人世帯として保護を申請しなければならない。」と言われたそうですが、それは間違いです。
その理由は、あなたは、すでに(前夫)と離婚していますので、あなたと(前夫)は、生活保持義務関係にはありませんし、転居に際し敷金等の支給要件(課長通知 問(第7の30))の中に、「15 離婚(事実婚の解消を含む。)により新たに住居を必要とする場合」という項目があるからです。
上記の敷金等の支給要件の「15 離婚(事実婚の解消を含む。)により新たに住居を必要とする場合」という項目は、昭和53年度の生活保護実施要領の改正の際に追加されたものであり、そのときの改正理由は、「夫婦間の不和等により親戚、知人宅等に一時的に寄宿していた者が離婚した後新たな生活を営むためそこから転居する場合は、現行第11号の規定により実施機関限りで敷金等を認定することができるが、一時的に寄宿することなく、離婚と同時にこれまで居住していた住居から転居する場合もあるので、今回の改正により、このような場合も 実施機関限りで敷金等を認定できることとしたものである。」とされています。
これらのことから明らかなように、離婚後も 転居費用が捻出できず、やむを得ず (前夫)と同居している場合であっても、(前夫)とは別世帯として、あなただけで保護を申請することは可能です。
また、「別冊問答集」には、「本人の申請権を侵害してはならないことはいうまでもなく、申請権が侵害されていると疑われるような行為も厳に慎むべきことに十分留意する必要がある。‥‥‥ いかなる場合においても、本人から保護申請の意思が表明された場合には、速やかに申請書を交付するなどの対応が必要である。」とされていますので、あなたが、保護申請の意思が表明された場合は、ケースワーカーは、速やかに申請書を交付し申請書を受理しなければならないのです。
そうしないと、口頭で保護を申請できないという誤った説明をして、申請書を交付・受理しない場合は、保護の申請がなかったことになり、福祉事務所の対応に不満があっても、審査請求を行うことができず、福祉事務所と法的に争うことができなくなってしまいます。
未だに多くの福祉事務所では、このように いろいろな理由をつけて、保護申請の意思が表明された場合であっても、申請書を交付しないという、いわゆる「水際作戦」が横行しています。
このように福祉事務所が申請書を交付しない場合は、生活保護の申請は 非要式行為のため、その福祉事務所が定めた申請書の様式ではなく、普通の用紙に「住所、氏名、生年月日、(電話番号)、生活保護の開始を申請すること」を記載し、福祉事務所に提出すればよい とされています。
それでも、福祉事務所が申請書を受理しないときは、ケースワーカーとの会話を録音して証拠を残し、役所の苦情相談窓口に相談したり、書留郵便や内容証明郵便等により 福祉事務所に生活保護申請書を郵送したり、法テラスを通じて 弁護士等や、各地の生活保護支援ネットワークなどの生活困窮者支援団体に相談し、支援者や弁護士などに福祉事務所に同行してもらいましょう。
また、上記の保護申請時の世帯認定の取り扱いは、離婚の場合だけでなく、内縁関係の解消の場合も、離婚と同様の取り扱いを行うこととされていますので、内縁関係を解消したが 転居費用が捻出できず、(前内夫)と同居している場合でも、あなた一人で保護を申請することは可能です。
なお、このブログの令和5年6月4日の記事「生活保護の申請」も 併せてご覧ください。
〇生活保護手帳
問(第7の30)局長通知第7の4の(1)のカにいう「転居に際し、敷金等を必要とする場合」とは、 どのような場合をいうか。
答 「転居に際し、敷金等を必要とする場合」とは、次のいずれかに該当する場合で、敷金等を必要とするときに限られるものである。
1 入院患者が実施機関の指導に基づいて退院するに際し帰住する住居がない場合
2 実施機関の指導に基づき、現在支払われている家賃又は間代よりも低額な住居に転居する場合
3 土地収用法、都市計画法等の定めるところにより立退きを強制され、転居を必要とする場合
4 退職等により社宅等から転居する場合
5 法令又は管理者の指示により社会福祉施設等から退所するに際し帰住する住居がない場合(当該退所が施設入所の目的を達したことによる場合に限る。)
6 宿所提供施設、無料低額宿泊所等の利用者が居宅生活に移行する場合
7 現に居住する住宅等において、賃貸人又は当該住宅を管理する者等から、居室の提供以外のサービス利用の強要や、著しく高額な共益費等の請求などの不当な行為が行われていると認められるため、他の賃貸住宅等に転居する場合
8 現在の居住地が就労の場所から遠距離にあり、通勤が著しく困難であって、当該就労の場所の附近に転居することが世帯の収入の増加、当該就労者の健康の維持等世帯の自立助長に特に効果的に役立つと認められる場合
9 火災等の災害により現住居が消滅し、又は、居住にたえない状態になったと認められる場合
10 老朽又は破損により居住にたえない状態になったと認められる場合
11 居住する住居が著しく狭隘又は劣悪であって、明らかに居住にたえないと認められる場合
12 病気療養上著しく環境条件が悪いと認められる場合 又は 高齢者若しくは身体障害者がいる場合であって設備構造が居住に適さないと認められる場合
13 住宅が確保できないため、親戚、知人宅等に一時的に寄宿していた者が転居する場合
I4 家主が相当の理由をもって立退きを要求し、又は借家契約の更新の拒絶若しくは解約の申入れを行ったことにより、やむを得ず転居する場合
15 離婚(事実婚の解消を含む。)により 新たに住居を必要とする場合
16 高齢者、身体障害者等が扶養義務者の日常的介護を受けるため、扶養義務者の住居の近隣に転居する場合
または、双方が被保護者であって、扶養義務者が日常的介護のために高齢者、身体障害者等の住居の近隣に転居する場合
17 被保護者の状態等を考慮の上、適切な法定施設(グループホームや有料老人ホーム等、社会福祉各法に規定されている施設及びサービス付き高齢者向け住宅をいう。)に入居する場合であって、やむを得ない場合
18 犯罪等により被害を受け、又は同一世帯に属する者から暴力を受け、生命及び身体の安全の確保を図るために新たに借家等に転居する必要がある場合
〇昭和53年度 実施要領改正時の 厚生省解説
<敷金等が認められる場合>
次の場合は、あらかじめ都道府県知事の承認を得ることなく、実施機関限りで敷金を認めてもよいこととしたこと。
① (略)
② 離婚により 新たに住居を必要とする場合
<解説>
敷金等については、実施機関限りで認定できる場合を課第4の30に定型的に列挙し、それ以外は都道府県知事の承認を必要としているところである。
今回、新たに実施機関に権限委譲した前述の2つの場合は、昭和51年度の改正以後、都道府県知事の承認により敷金等が認定されたケースのうちの大半を占めるものであり、この権限委譲により、通常、敷金等の認定が必要と認められる場合は、ほぼ実施機関限りで対応できることになると思われる。
今回追加した各号の趣旨及び留意事項は次のとおりである。
① (略)
② 夫婦間の不和等により親戚、知人宅等に一時的に寄宿していた者が離婚した後 新たな生活を営むためそこから転居する場合は、現行第11号の規定により実施機関限りで敷金等を認定することができるが、 一時的に寄宿することなく、離婚と同時にこれまで居住していた住居から転居する場合もあるので、今回の改正により、このような場合も 実施機関限りで敷金等を認定できることとしたものである。
ここにいう「離婚」とは、協議上の離婚、裁判上の離婚を問わず、離婚の届出により、法的に婚姻関係を解消した場合をいい、単なる一時的な別居や内縁関係の廃止は含まないものである。 したがって、離婚に類似する事例で特に敷金等を認定する必要性がある場合は、従来どおり都道府県知事の承認を得ること。(注:現在は 内縁関係の廃止も含む。)
問(第9の1)
生活保護の面接相談においては、保護の申請意思はいかなる場合にも確認しなくてはならないのか。
答
相談者の保護の申請意思は、例えば、多額の預貯金を保有していることが確認されるなど生活保護に該当しないことが明らかな場合や、相談者が要保護者の知人であるなど保護の申請権を有していない場合等を除き確認すべきものである。
なお、保護に該当しないことが明らかな場合であっても、申請権を有する者から申請の意思が表明された場合には 申請書を交付すること。
〇別冊問答集
‥‥ 本人の申請権を侵害してはならないことはいうまでもなく、申請権が侵害されていると疑われるような行為も厳に慎むべきことに十分留意する必要がある。
‥‥ いかなる場合においても、本人から保護申請の意思が表明された場合には、速やかに申請書を交付するなどの対応が必要である。
問9-1 口頭による保護の申請
(問)
生活保護の申請を口頭で行うことは認められるか。
(答)
生活保護の開始申請は、必ず定められた方法により行わなくてはならないというような 要式行為ではなく、非要式行為であるとされている。 法第24 条第1項においては「保護の開始を申請する者は、‥‥(中略)‥‥ 申請書を保護の実施機関に提出して行わなければならない。 ただし、当該申請書を作成することができない特別の事情があるときは、この限りでない。」と規定しており、当該規定も 書面による申請を保護の要件としているものではないと考えられる。 したがって、申請は必ずしも書面により行わなければならないとするものではなく、口頭による開始申請も認められる余地があるものといえる。
一方で、法第24 条第3項は「保護の実施横関は、保護の開始の申請があったときは、保護の安否、種類、程度及び方法を決定し、申請者に対して書面をもって、これを通知しなければならない」としているなど、保護の申請は 実施機関側に一定の義務を課すものとなっている。
確かに前記のとおり、申請書の提出自体は保護の要件ではなく、一般論としては 口頭による保護申請を認める余地があるものと考えられるが、保護の決定事務処理関係や、保護申請の意思や申請の時期を明らかにする必要があることからも、単に申請者が申請する意思を有していたというのみでは足らず、申請者によって、申請の意思を明確に表示することにより、保護申請が行われたかどうを客観的に見ても明らかにしておく必要がある。
したがって、口頭による保護申請については、申請を口頭で行うことを特に明示して行うなど、申請意思が客観的に明確でなければ、申請行為と認めることは困難である。 実施機関としては、そのような申し出があった場合には、あらためて書面で提出することを求めたり、申請者の状況から書面での提出が困難な場合等には、実施機関側で必要事項を聴き取り、書面に記載したうえで、その内容を本人に説明し署名捺印を求めるなど、申請行為があったことを明らかにするための対応を行う必要がある。
なお、申請にあたって提出された書類に必要事項さえ記載されていれば、たとえ それが定められた申請書によって行われたものでなくても、有効となるので 留意が必要である。