【問】担当員のミスにより、年金や保護費を多く支払った場合は、支払われる年金や保護費から、一方的に返還額を差し引かれるのですか。

 

 先日 テレビで、年金の支払いミスにより、約10年間で 600万円余りの過払いが生じ、その返還を求められているとのニュースを見ました。

 福祉事務所のミスによる保護費の過払金の返還と事例が似ていると思いますが、 ニュースを見ていると、ミスを犯した公立学校共済組合が、一方的に毎月の返還額を決め、その返還額を年金から天引きしているような印象を受けましたが、 返還する人の事情も考慮せずに、一方的に毎月の返還額が決められるのでしょうか。

 

 

【答】

 私も、そのニュースを見ていましたので、疑問に思い、インターネット等で調べてみましたが、 保護費の過払金の返還と同様に、返還対象者の方から、双方で合意した 毎月の返還額等を記載した「返納方法申出書」を提出してもらい、それに基づいて 年金から差し引いていることが分かりました。

 それに、年金を受給している本人が亡くなった場合は、遺族がその債務を相続しますが、 相続放棄すれば、債務を相続する必要はありませんし、この他に相続する財産があれば、その財産と債務を相続し、財産を処分して債務を返済することも可能です(もっとも、相続した財産が、住んでいる土地と家屋しかない場合は、それを処分すると、そこに住むことができなくなりますが)。

 

 また、新聞記事を読みますと、公立学校共済組合から返還を求められたのは、最近のことではなく、既に返還の途中であり、「残額が約450万円で、返済額が2か月で3万円」ということは、既に9年余り返還していることになります。 つまり、テレビ局が、この話を聞きつけ、返還開始後10年目に、ニュースで大きく取り上げたわけです。

 それに、毎月の返還額について 双方で合意した上で、返還対象者の方が、「返納方法申出書」を提出し、それに基づいて 年金から差し引かれているわけですから、「何を今さら 返還額が大きくて、生活が苦しいと言うのだろう。」という気もします(ただし、昨年からの物価高で、生活が苦しくなったのかもしれません。)。

 また、当初 合意した返還額が大きく 生活が苦しい場合は、申し出により 毎月の返還額を減額することも可能です。

 

 マスコミというものは、自分たちの都合のよい部分を切り取り、自分たちの都合のよいストーリーを作り上げますので、報道を鵜呑みにすべきではありません

 しかし、最も悪いのは、ミスを犯した公立学校共済組合ですから、マスコミの悪口を言っても仕方がないのでしょう。

 

 福祉事務所でも、担当ケースワーカーによる事務処理のミスによる保護費の過払いは、毎年 かなりの数が発生し、返還を求められる保護受給者の方に 多大な迷惑をかけています。

 私が ケースワーカーをしていた頃、担当ケースワーカーのミスによる過払金の返還に納得できないとして、毎月100円の返還額でしか同意しない生活保護受給者の方がいました(その生活保護受給者の方は、長期入院中であり、在宅と異なり、保護費が少ないことも、その理由の一つです。)。

 

 ケースワーカーによる事務処理のミスによる保護費の過払金の毎月の返還額については、福祉事務所が全面的に悪いのですから、返還を求められている 生活保護受給者の方が 強く要望すれば、毎月の返還額は かなり少なくすること(例えば、毎月 100~1,000円の返還)もできます。 そのため、毎月の返還額については、粘り強く福祉事務所と交渉しましょう

 それに、ケースワーカーによる事務処理のミスによる保護費の過払金の返還については、保護費から天引きすることはできず納付書による返還になりますし、返還しなくても 罰則はありません

 

 ケースワーカーのミスによる保護費の過払金の返還については、ミスを犯したケースワーカーが 返還の事務処理を行うべきだと思うのですが、 ミスを犯したケースワーカーが異動した後で、そのミスが見つかることが多いので、事務を引き継いだにすぎない、何もミスをしてない ケースワーカーが、生活保護受給者の方に説明し、謝罪し、文句を言われ、返還のための書類を作成しなければならないのですから、全く理不尽なことです。

 

 また、ケースワーカーのミスによる保護費の過払金の返還については、担当員のミスによる年金の過払いとは異なり、返還額について保護費からの天引きはできませんし、返還しなくても罰則はありませんので、福祉事務所は、ただひたすら返還のお願いをするしかありません。

 さらに、ケースワーカーのミスによる保護費の過払金の返還については、審査請求や取消訴訟を起こされると、行政側が敗訴する可能性が高くなっています。 ケースワーカーのミスによる保護費の過払金の返還処分取消訴訟において、福岡地裁や東京地裁が、返還処分取消し、原告勝訴の判決を出して以降、都道府県知事への審査請求においても、原告勝訴の裁決が多くなっています

 

 皆さん、ケースワーカーは、説明の間違いや 事務処理のミス等が多いので、あまりケースワーカーの説明や 事務処理等を信用せずに 十分に注意しましょう。

 なお、このブログの令和5年6月29日の記事「生活保護と 担当員のミスによる保護費の返還(№1)」と、令和5年7月16日の記事「生活保護と 担当員のミスによる保護費の返還(№2)」も、合わせてお読みください。