【問】私は,うつ病で心療内科に通院しており,病状が改善しないので,別の病院に代ろうかと思っていますが,転院しても大丈夫でしょうか。

  私は,うつ病で心療内科に通院していますが,1年以上通院しても病状が改善しないため,別の病院に代ろうかと思っています。

 しかし,生活保護を受けている人は,勝手に病院を代わってはいけないという話を聞きますが,転院しても大丈夫でしょうか。

 

 

 

【答】

 精神疾患については,主治医との信頼関係が重要であり,主治医が信頼できなかったり,1年以上 通院しても病状が改善されなかったりしたときは,転院を検討した方がよいと思います。

 特に精神疾患は,他の病気と異なり,検査数値等に出にくいものですので,医師によって 診断名等が異なることもあります。

 私が ケースワーカーをしていた頃に,何人もの精神疾患(うつ病,統合失調症,パニック障害,双極性障害,発達障害など)の方を担当しましたが, 1~2年通院しても 病状が改善しないため,別の病院に転院したところ,主治医との相性が良く,処方された薬も良かったのか,転院後1か月ほどで 劇的に病状が改善し,就労可能となった方が 何人かいました。

 

 また,ある病院では,病状的に 精神障害者保健福祉手帳や 障害年金に該当しないとの診断を受けた人が,別の病院に転院したところ,病状的に 精神障害者保健福祉手帳や 障害年金に該当するとの診断を受け,精神障害者保健福祉手帳を取得したり,障害年金を受給したりした方も 何人かいました。

 つまり,精神障害者保健福祉手帳や 障害年金の認定基準は,行政が定めたものですから,すべての医師が 必ずしも精神障害者保健福祉手帳や 障害年金の認定基準に精通しているものではないので,医師によって 判断が異なることが 多く見られます。

 

 このブログで 保護受給者の方から,「病院を勝手に代わってよいのか。」,「病院を代わるにあたって,ケースワーカーの了承を得る必要があるのではないのか。」などの質問を受けることがありますが, 転院することについては,何の問題もありません。 長く通院しても 病状が改善されないにもかかわらず,その病院に通院を続けることの方が問題でしょう。 福祉事務所で 問題になるのは,同じ傷病名で,同時に複数の病院に受診することです。 これは,「重複受診」といって,ケースワーカーから 必ず同じ病気では 一つの病院に通院するよう指導を受けます。

 しかし,1~2か月通院して,病状が改善されないからと言って,いくつもの病院を転々とすることは問題です。 少なくとも3~6か月程度は通院しないと,治療の効果は分からないと思います。

 

 また,病院を代わるときは,ケースワーカーや 新しい病院から,「前の病院から 診療情報提供書をもらってきてください。」と言われることが多いと思います。

 「診療情報提供書」とは,「紹介状」と言われることもありますが, 前の病院における治療内容や 病状の推移,検査結果,処方した薬,その薬の効果,主治医の意見等が記載されたものです。 新しい病院では,それを参考にして,治療方針を立てたり,処方する薬を検討したりします。 つまり,以前 使用した薬が 効果がなかった場合は,別の薬を検討したりするわけです。

 しかし,前の病院の主治医との関係が悪化し,「診療情報提供書」をもらいづらいときもあると思います。 そのときは,前の病院の事務員や 看護師に相談し,前の病院から 直接 新しい病院に送ってもらうか,又は 新しい病院の主治医や看護師,事務員に相談し,新しい病院から前の病院に対して,「診療情報提供書」の提供を依頼してもらうことも可能ではないかと思います。

 

 精神疾患については,何年間も通院しても病状が改善されないときに,病院を代えたり,薬を変えたりすることによって,病状が改善された人もいますので,あきらめずに 転院を含めて検討する必要があります。

 ただし,ある薬が その人に効果があったからといって,必ずしも別の人にも同じような効果があるとは限りません。 人によって 病状や体質なども異なりますので,当然,その薬が合う・合わないの個人差があります。 ある薬が その病気にかかっているすべての人に効果があるならば,その病気の薬は一つでよいということになります。

 

 ケースワーカーは,時々,どこの病院が良いのか という相談を受けることがありますが,正直に言って,どこの病院が良いのかは分かりません。 自分が受診した病院であれば,ある程度は分かりますが,自分が受診したこともない病院については,その病院が良いかどうかは 判断ができませんし,人によって 病状や年齢,体質などが異なりますので,自分にとって良かった病院が,他の人にとっても良いかどうかは分からないのです。

 

 また,役所の人間は,特定の業者や病院などを紹介することは禁じられています。 それは,特定の業者や病院などを紹介することにより,業者や病院などから紹介料や リベート等を受け取る恐れがあるからです。

 そこで,病院を選ぶときは,インターネットで調べたり,役所の担当部署(精神障害の担当課など)に相談したりする方法が考えられますが, インターネットの書き込みは,信用できるものと あまり信用できないものがありますので,注意が必要です。

 

 なお,何年間も通院しても 病状が改善しない場合は,思い切って入院することも検討した方がよいのではないかと思います。 うつ病等が酷くなると,何もしたくなくなり,電池が切れたみたいに,1日中 横になっている状態が続き,風呂に入ったり 食事をするのも面倒になります。 入院すれば,食事の用意をする必要はないし,掃除等もする必要はなく,治療に専念できます。

 また,通院の場合は,2週間に1回程度の通院が多く,小まめに薬を変えて,その効果を見ることは難しいのですが,入院の場合は,ある薬に効果がなければ,主治医に相談し,別の薬を試しやすくなります。

 

 私が担当した人で,何年も通院しても 病状が改善しませんでしたが,入院して 数種類の薬を試し結果,その薬が合って 病状が改善した人もいますので,長く通院しても あまり病状が改善されない人は,入院を検討してもよいのではないか自分だけで判断してと思います。 任意入院の場合は,その人が退院したいと言えば,病院は 退院を止めることはできませんので(無理やり入院させることはできません。),病院が 退院させてくれないという心配はありません。

 

 最後に,精神疾患は,病状には波があり,良くなったり 悪くなったりを繰り返しながら,少しずつ良くなっていくことが多いので,病気が良くなったと思って 治療を辞めると,病気が再発することもあります。 そのため,自分だけで判断して 途中で治療を辞めることは避け,主治医に相談した方がよいと思います。