【問】ローン返済中の住宅を保有している場合は,その住宅を処分した後でなければ,生活保護を受けることができないのですか

  「生活保護手帳」を見ると,「ローン完済前の住宅を保有している場合は,原則として保護の適用は行うべきではない。」と書かれていますが, ローン返済中の住宅を保有している場合は,その住宅を処分した後でなければ,生活保護を受けることができないのですか。

 

 

【答】

 ご質問のとおり,「生活保護手帳」の厚生労働省 保護課長通知の問(第3の14)[ローン付き住宅保有者からの保護申請〕には,「ローン完済前の住宅を保有している場合は,原則として保護の適用は行うべきではない。」と書かれていますが, この説明は 不十分であると思います。

 ローン返済中の住宅を保有している場合であっても,生活保護の申請を行うことは可能であり,病気や怪我等で働くことができず,収入がないか 又は 収入が少なく,生活に困窮しているときは,生活保護の適用を受けることはできます。

 ただし,住宅ローンの返済金は,収入から控除することができないため,例えば,「30万円の収入があり,所得税や 社会保険料,通勤費が 計6万円、住宅ローン返済金が14万円のため,手元には 10万円しか残らず,生活が苦しいので,生活保護を受けたい。」と言っても,生活保護上は,住宅ローンの返済金は 収入から控除できず,30万円の収入があるものとして(所得税や 社会保険料,通勤費,基礎控除は差し引きます。)生活保護の要否判定を行いますので,ほとんどの場合は,生活保護の申請をしても 却下になります。

 

 また,ローン返済中の住宅を保有している場合は,住宅扶助費(家賃)は支給されないため,住宅ローンの返済金は,生活扶助費の中から捻出する必要があり,その結果,生活費を圧迫し,健康で文化的な最低限度の生活を維持することができなくなりますので,担当ケースワーカーは,自宅(ローン付き住宅)を早急に処分するよう指導します。

 この処分指導に従わないとしても,数か月以上にわたって,生活扶助費の中から捻出して,住宅ローンの返済金を支払うことは難しく,その結果,自宅に抵当権を設定している金融機関や保証会社等から抵当権を実行され,競売にかけられ,自宅から立ち退かなければならなくなります。

 

 そのため,できるだけ早い時期に,金融機関等から抵抗権を実行される前に,金融機関等と話し合いを行い,金融機関等の同意が得られた場合は,任意売却が可能であり,通常では 任意売却の方が,競売の場合よりも 高い価格で住宅を売却することができます。

 特に分譲マンションについては,住宅ローンの返済の他に,毎月,多額の管理費修繕積立金を支払う必要があり,それを生活扶助費から捻出することは難しいため,できるだけ早い時期に 自宅(ローン付き住宅)を処分した方がよいと思います。

 

 その場合,住宅の価値は,(抵当権が設定されている)借入金を除いた金額になりますので,住宅を売却しても ローンが残っている場合は,売却収入は0円になり,収入認定は行われません。

 また,競売であっても 任意売却であっても,ローン付き住宅の売却後は,債務が残ることがほとんどですので,残った債務については,自己破産・免責の手続きを行う必要があります(生活保護を受けている方は,法テラスを通じて 弁護士や司法書士に自己破産・免責の手続きを依頼したときは,その費用は免除されますし,自己破産のデメリットは ほとんどありません。)。

 

 競売や 任意売却により 自宅を失ったときは,新しくアパート等を借りる必要がありますが, その家賃(上限額あり)や  初期費用(敷金,礼金,仲介手数料,保証会社の保証料,火災保険料の5項目引っ越し代については,福祉事務所から支給されますので,住宅ローンの返済の目途が立たないときは,早い時期に 自宅(ローン付き住宅)を処分した方がよいと思います。

 

 なお,「別冊問答集」の問3-9「ローン付き住宅の取扱い」により,「住宅ローンの支払いの繰り延べが行われている場合」や,「ローン返済期間も短期間であり,かつ ローン支払額も少額である場合」は,ローン付き住宅の保有は 容認されますので,担当ケースワーカーに相談してください。

 

 

 

(参考)

〇厚生労働省 保護課長通知

ローン付き住宅保有者からの保護申請

問(第3の14)

 ローン付住宅を保有している者から保護の申請があったが,どのように取り扱うべきか。

 

 ローンにより取得した住宅で,ローン完済前のものを保有している者を保護した場合には,結果として 生活に充てるべき保護費からローンの返済を行うこととなるので,原則として 保護の適用は行うべきではない。

 

 

 

〇別冊問答集

問9-3 ローン付き住宅の取扱い

(問)

 ローンの支払いの繰り延べをしている等の場合には,ローン付き住宅の保有を認め保護を適用して差し支えないか。

 

(答)

 一般の不動産の場合と同様の基準により判断して保有が認められる程度のものであってローンの支払いの繰り延べが行われている場合,又は ローン返済期間も短期間であり,かつ ローン支払額も少額である場合には,お見込みのとおり取り扱って差し支えない

 

 

 

13-16 抵当権を設定されている資産の処分と費用返還

(問)

 保護の開始申請があった時点において,抵当権(被担保債権:元金100万円,利息年1割)が設定されている資産があった世帯に対し,当該資産が保有を認められる限度を超えるものであったので,これを処分することにより当分の問保護の必要はないとしてその処分を指示したが急迫の状態にあると認められるとともにその資産を直ちに売却することが困難であったため保護の実施機関としては,当該資産を処分した場合には保護に要する費用を返還することを告知した上一応保護を開始した。3年後に抵当権が実行され当該資産は200万円で売却された抵当権を設定していた債権者において元金100万円と抵当権設定後3年分の利息30万円の計130万円の弁済を受けようとしている。この場合,保護の実施機関としては保護に要した費用の返還額は,如何程に決定すればよいのか。

 

(答)

 抵当権設定後の利息のうち,満期となった最後の2年分の利息は抵当権によって担保され(民法第375条第1項),抵当権者が優先して弁済を受けることから,保護開始時における資産の額は,売却価格(本件では200万円。 なお,3年間で資産価値に変動がなかったものと仮定する。)から,元金(本件では100万円)及び最後の2年分の利息(本件では20万円)を控除した残額(本件では80万円)となり,この額と保護に要した費用とを比較して返還額を決定することとなる。

 なお,売却価格から元金及び最後の2年分の利息を控除した残額については,実施機関は抵当権者を含めた他の債権者と共に債権額に応じて按分比例により平等に配当を受けることとなる。ただし,抵当権実行手続において配当を受けるためには,配当要求の終期までに民事執行法第51条第1項の定めるところにより配当要求をしなければならず,このためには可能であれば,資産が売却されるのを待つことなく早期に資産の価値を把握し,返還額の決定をすることが必要である。

 

 

 

問8-95 保護開始前の借金

(問)

 生活扶助と医療扶助の併給を受けている甲は,保護が開始される前にその子の病気のための医療費3万円を勤務先の工場主から借りていた。 この金は料より2干円ずつ差し引かれていることが後に判明したが,工場主にしても説得することができず,これを争うことは甲の将来の勤務に著しく不利益を与える結果となることが明白な状態に立ち至った。 この場合の収入認定において借金の分を必要経費として控除することはできないか。

 

(答)

 過去の債務に対する弁済金を収入から控除することは認められない。その理由は,もしそのような措置を認めるならば,保護を受ける以前における個々人によって異なる程度に営まれてきた生活までも,本法によって保障することとなり,保護を要する状態に立ち至ったときから将来に向って その最低限度の生活の維持を保障せんとする本法の目的から著しく逸脱することになるからである。

 収入を得るために必要な経費として収入から控除することができる場合は,定期収入の中の勤労収入については「実施要領」にその範囲が定められているところであって,たとえこの債務を弁済しないことが収入の維持のために支障となる場合であっても,そのような理由でこれと同様にみなすことはできないのである。 ただし,保護の実施機関の事前の承認を受けなかったことについては やむを得ない事情があり,かつ,当該貸付金が現にその者の自立助長に役立っていると認められるものについては,控除の途が開かれている。

 しかし,設問の医療費について考えてみると,仮に実施機関に対して貸付けを受けるについて事前の承認を求めていれば,実施機関は,当然 公の貸付制度の利用を指導するはずである。 したがって,医療費に関しては国又は地方公共団体以外の法人又は私人からの貸付金利用は,一般的に考えられないので「実施機関が事後において承認することが適当なもの」には当たらないものとして取り扱われたい。

 また,設問の場合は,労働基準法第24条の賃金は,原則的にその全額を支払うべき旨の規定に反しているものであって,こののような場合にこそ,保護の実施機関における いわゆるサービスの要請される分野があるのであるから,十分な理解と協力が得られるよう積極的に努力すべきことが望まれる。