【問「ホームレス状態では,生活保護を受けることはできない。」という話を聞きますが,これは本当ですか?

 

 「ホームレス状態,つまり,住む家がない状態では,生活保護を受けることはできない。」という話を聞きますが,これは本当ですか?

 これが本当であるならば,ホームレス状態の人は,アパートを借りるお金も持ってないと思いますが,どのようにしたらよいのですか?

 

 

 

【答】

 ホームレス状態,つまり,住む家がない状態で,生活保護を受けることができるか という質問に対する答えは,ホームレス状態のままでは,つまり,住む家がない状態のままでは,生活保護を受けることはできない ということになります。

 ただし,これは,ホームレス状態の人は,生活保護の申請を行うことができない という意味ではありませんホームレス状態の人は,生活保護を申請することができますし,福祉事務所は その申請書を受理しなければなりません。 しかし,ホームレス状態のままでは,生活保護を受けることはできないので,生活保護の申請後に,できるだけ早く 施設に入所するか,又は アパートに入居すれば,(多額の預貯金等を所有してない限り,) 生活保護を受けることができます

 

 この場合,施設に入所するか,アパートに入居するかの選択は,本人の自由です。 以前,ホームレス状態の人は,無料低額宿泊施設などの施設に入所しないと,生活保護を受けることができない かのような説明を行っていた福祉事務所もありましたが,これは誤りであり(令和3年2月に横浜市の福祉事務所で,生活保護の面接相談員が,上記のような説明を行ったため 問題になり,横浜市長が 謝罪に追い込まれたという事件がありました。 次の参考資料の後の方をご覧ください。),本人が施設に入所することを拒否すれば,施設入所を強要することはできないため,アパートに入居して,生活保護を受けることができますし,アパートの入居費用(敷金,礼金,仲介手数料,保証会社の保証料,火災保険料の5項目)についても,福祉事務所から支給されます。

 

 ただし,アパートに入居する場合は,ご存じのとおり 不動産会社や保証会社の審査があり,この審査に通らないと,アパートに入居できません。 ホームレス状態の人が 最も心配することは,過去,家賃を滞納しアパートを退去せざるを得なくなった人が多いので,家賃滞納者の人は いわゆる「ブラックリスト」に載り,不動産会社や保証会社の審査に通らないのではないか ということです。 確かに 新しく入居する予定のアパートの保証会社や信用情報機関が,以前 住んでいたアパートの保証会社や信用情報機関と同じときは,審査に通らないと思いますが,新しく入居する予定のアパートの保証会社や信用情報機関が,以前 住んでいたアパートの保証会社や信用情報機関と異なるときは,審査が通る可能性はあります。 そうしないと,家賃滞納によりアパート退去歴がある人は,将来にわたって,アパートを借りることができない ということになってしまいます。

 

 したがって,3~4件の不動産会社に相談すれば,そのうち,どこかの不動産会社や保証会社の審査に通り,部屋を借りることができます。

 しかし,そのとき注意しなければならないことは,不動産会社から,あまり住環境の良くない,人気のない物件を紹介されることがあることです。 また,生活保護受給者の人ばかりを集めたアパートを紹介されることもあります。 そのため,1件だけでなく,できるだけ3~4件の物件を下見して決めた方がよいと思います。

 

 しかし,アパートに入居するためには,保護申請日から早くても 8~10日は必要です。 その間は,どこかで寝泊まりする必要があり,近くに 親戚や友人,知人などがいる人は,親戚宅や友人宅,知人宅を2~3日毎に転々として過ごすことができますが,誰も頼れる人がいない場合は,ネットカフェで過ごす人が多いようです。 本当は カプセルホテルや 安い宿泊施設で過ごすことができればよいのですが,福祉事務所を通じて社会福祉協議会から借りることができる貸付金は,1日当たり2,000円程度が多いようです。

 以前は,1日当たり1,000円程度の貸し付けしか受けることができなかったらしく,1日1,000円では,ほとんど全部が食費で消えてしまうため,公園などで野宿するしかなかったそうですが, 数年前から 貸付金が1日当たり2,000円程度に増えたため,ネットカフェの「夜間8時間パック」などであれば,1,000~1,200円で利用できるところもありますので,朝食はネットカフェで トーストを食べ,残りの800~1,000円を 昼と夜の食費に充てることが可能になったそうです。 この社会福祉協議会からの貸付金は,生活保護決定後に支給される保護費の中から返還する必要があります。

 

 厚生労働省の通知(次の参考資料をご覧ください。)では,カプセルホテルや 簡易宿泊所等の宿泊費を保護費に上乗せして支給することができると書かれていますが,カプセルホテルや 簡易宿泊所等の宿泊費を支給した場合は,ホームレス状態の人が,その噂を聞いて,全国各地から その福祉事務所に生活保護の申請に集まってくるのではないか と懸念するためか,1日2,000円を超える貸し付けを行う福祉事務所(社会福祉協議会)は少ないようです。 ただし,東京都や大阪府・市は,ネットカフェ等の利用料金も高いため,1日2,000円を超える貸し付けを行っているかもしれません。

 なお,ネットカフェの領収書を提出すれば,単身世帯の住宅扶助費の上限額の30分の1の金額(上限額が36,000円のときは 1日当たり1,200円)を,1日当たりの宿泊費(住宅扶助費)として,上乗せして支給する福祉事務所もあるようです。

 

 また,テレビ・ニュース等を見ると,東京では,生活困窮者支援団体が,ホームレス状態の人向けに宿泊できる部屋をいくつか用意しているところもあるようですが,東京や大阪以外では,あまりそういった話は聞いたことがありません。

 しかし,ネットカフェを何回も利用したことがある人は,ネットカフェで夜を過ごすことは問題ないと思いますが,ネットカフェをあまり利用したことがない人は,ネットカフェでは熟睡できず,夜に何回も目を覚まし,なかなか眠れないようです。 また,比較的 若くて元気がある人は,ネットカフェの利用は問題ありませんが,高齢で病気がちな人は,ネットカフェで夜を過ごすことは難しいと思います。

 

 そのため,高齢で病気がちな人は,アパートへの入居ではなく,無料低額宿泊施設やシェルターなどの施設入所を希望する人が多いようです。 アパートへの入居は,不動産会社や保証会社の審査があるため,保護申請日から早くても8~10日は必要ですが,施設入所であれば,空室があるときは,保護申請日の2~3日後に入所が可能です。 空室があっても,保護申請日の当日や翌日に入所できない理由は,それらの多くの施設が,感染症予防のため,健康診断を受けることを義務付けていることが多いからです。 そのため,施設入所を希望し 空室があっても,2~3日はネットカフェなどで過ごす必要がありますが,2~3日であれば,ネットカフェであっても,どうにか我慢できるようです。

 

 しかし,ホームレス状態の人から,保護の相談・申請があったときは,保護の相談のあった福祉事務所で,保護の申請を受け付ける必要があるにもかかわらず,困ったことに,いくつかの福祉事務所では,ホームレス状態の人に対して,宿泊施設を備えている大きな都市で 保護の申請をするよう説明し,他都市へ追いやるところもあります。 政令指定都市などでは,ホームレス状態の人用の宿泊施設を用意しているところが多いのですが,何時でも空室があるわけではなく,申請者が多いときは,すぐに満室になりますので,他の地域から来られた申請者を受け入れる余力は あまりありません。

 そのため,遠くの地域の福祉事務所から言われて,保護の申請に来られたにもかかわらず,部屋が満室で,入所できるまでに1か月近く待機しなければならない事態も生じます。 各地の福祉事務所は,自分のところで宿泊施設を用意するか,又は ネットカフェやカプセルホテル等に宿泊できる程度の貸付を行うべきであると思います。

 

 昔は,JRや私鉄の駅などで ダンボール箱の中で寝ている人を見かけましたが,かなり前にダンボール箱を撤去し,その中で寝ている人を排除したり,公園においても ベンチで寝ることができないように,ベンチに出っ張りを設けたり,警官が 公園で寝ている人を立ち退かせるようになり,ホームレス状態の人が,夜を過ごすことができる場所が少なくなってきています。

 

 ある本によると,新型コロナの流行時に失業し,家賃を支払うことができなくなり,家を失ったり,派遣切りに遭い,派遣先の会社寮を出て行かなければならなくなり,敷金等のまとまった額のアパートの入居費用を用意できず,ホームレス状態になる人が増えたそうです。

 また,最近は,長期間 ホームレス状態にあった人が,保護の申請に来られることは少なく,家を失って1~2週間以内の人が,保護の申請に来られることが多いそうです

 そのため,ホームレス状態にいることに慣れてなく,できるだけ早く 施設入所やアパート入居を望む人が増えたそうです。

 

 失業等により家賃を滞納し,家を退去せざるを得なくなった方は,多額の預貯金を持っていない限り,生活保護を受け,福祉事務所から生活費だけでなく,アパートの入居費用の支給も受けることができますので,困ったときは,できるだけ早く 生活困窮者支援センターや福祉事務所に相談してください。 もし福祉事務所等から不当な扱いを受けた場合は,生活困窮者支援団体や私に相談してください。

 

 

 

(参考)

○厚生労働省通知

 

ホームレスに対する生活保護の適用について

 

社援保発第0731001号 

平成15年7月31日 

  

各都道府県・各指定都市・各中核市民生主管部(局)長あて            

          

 厚生労働省社会・援護局保護課長通知   

 

 

 本日,ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(平成14年法律第105号。以下「法」という。)第8条の規定に基づき,別添のとおり,厚生労働省・国土交通省告示第1号をもって「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」(以下「基本方針」という。)が定められた。

 基本方針では,ホームレスに対する生活保護法による保護の実施に関する事項についても定められているところであるが,今般,下記のとおり,ホームレスに対する生活保護の適用に関する具体的な取扱いを定めたので,了知の上,生活保護の適正な実施に遺漏なきを期されたい。

 なお,本通知の1については,地方自治法第245条の9第1項及び第3項の規定による処理基準である。

 また,「ホームレスに対する生活保護の適用について」(平成14年8月7日社援保発第0807001号本職通知)は廃止する。

 

 

1 ホームレスに対する生活保護の適用に関する基本的な考え方

 生活保護は,資産,能力等を活用しても,最低限度の生活を維持できない者,すなわち,真に生活に困窮する者に対して最低限度の生活を保障するとともに,自立を助長することを目的とした制度であり,ホームレスに対する生活保護の適用に当たっては,居住地がないことや稼働能力があることのみをもって保護の要件に欠けるものでないことに留意し,生活保護を適正に実施する。

 

2 基本方針の留意点

(1)ホームレスの抱える問題・状況の把握に当たっては,面接相談時の細かなヒアリングによって得られる要保護者の生活歴,職歴,病歴,居住歴及び現在の生活状況等の総合的な情報の収集や居宅生活を営むうえで必要となる基本的な項目(生活費の金銭管理,服薬等の健康管理,炊事・洗濯,人とのコミュニケーション等)の確認により,居宅生活を営むことができるか否かの点について,特に留意すること。

 また,自立に向けての指導援助の必要性の程度を分析するに当たっては,利用できる社会資源の状況を総合的に勘案して,ケース診断会議等において処遇の方針を樹立し,保護の適用の方法を決定すること。

 

(2)直ちに居宅生活を送ることが困難な者については,保護施設や社会福祉法第2条第3項第8号に規定する無料低額宿泊事業を行う施設(以下「無料低額宿泊所」という。)等において保護を行うが,ホームレスの状況によっては,養護老人ホームや各種障害者福祉施設等への入所を検討すること。

 

(3)施設入所中においては,ホームレスの状況に応じて訪問調査活動を行い,必要な指導援助が行われるよう,生活実態を的確に把握する。

 また,居宅生活への円滑な移行に向けて,施設職員や民生委員等関係機関と連携を図り,日常生活訓練,就業の機会の確保等の必要な支援に努めること。

 無料低額宿泊所に起居する被保護者については,適切な訪問格付を設定し定期的な訪問を行い,生活実態や処遇状況を把握するとともに,自立に向けた必要な指導援助を行うこと。

 

(4)(1)により,保護開始時において居宅生活が可能と認められた者 並びに居宅生活を送ることが可能であるとして,保護施設等を退所した者 及び必要な治療を終え医療機関から退院した者については,公営住宅等を活用することにより居宅において保護を行うこと。

 なお,保護開始時において居宅生活が可能と認められた者であって,公営住宅への入居ができず,住宅を確保するため敷金等を必要とする場合は,「生活保護法による保護の実施要領について」(昭和38年4月1日社発第246号厚生省社会局長通知)第6の4の(1)のキにより取り扱うこと。

 

(5)居宅生活に移行した者については,関係機関と連携して再びホームレスとなることを防止し,居宅生活を継続するため,及び居宅において日常生活を営むことの実現のため,基本方針に掲げられている就業の機会の確保等の施策を有効に活用する等,必要な支援を行うこと。

 

(6)病気等により,急迫した状況にある者については,申請が無くとも保護すべきものであり,その後,要保護者の意思確認が可能となった場合には,保護受給の意思確認を行い,保護の申請(保護の変更申請)が行われたときには,保護の要件を確認した上で,必要な保護を行うこと。

 なお,要保護者が医療機関に緊急搬送された場合については,連絡体制を整えるなど医療機関との連携を図り,早急に実態を把握した上で,急迫保護の適用の要否を確認すること。

 

3 留意事項

(1)実施機関における取組

  ア 法第9条において,都道府県及び市町村は必要に応じ,基本方針に則し,ホームレスに関する問題の実情に応じた施策を実施するための計画(以下「実施計画」という。)を策定しなければならないこととされているが,実施計画を策定しない場合であっても,福祉事務所等保護の実施機関(以下「実施機関」という。)におけるホームレスに対する生活保護の適用の考え方は,基本方針及び本通知によるものであるので留意すること。

 

  イ そのため,実施機関においてホームレスが保護の相談等に来訪した際や急迫保護を適用する場合には,当該実施機関において必要な保護を行うものであって,施策が十分でないこと等により基本方針に沿わない取扱いを行うことがないようにすること。

 

(2)自立支援センターにおける生活保護の適用について

  ア 自立支援センターの入所者については,入所中の生活は自立支援センターで保障されており,医療扶助を除き 基本的には生活保護の適用は必要のないものであること。

 

  イ 自立支援センターに入所し就労努力は行ったが,結果的に就労による自立に結びつかず退所した者から保護の申請が行われたときには,保護の要件を確認した上で,必要な保護を行うこと。

 

 

 

 

 

社援保発1225第1号 

平成21年12月25日 

  都道府県

各 指定都市 民生主管部(局)長 殿

  中 核 市

 

 

厚生労働省社会・援護局保護課長    

 

 

失業等により生活に困窮する方々への支援の留意事項について

 

 先般,政府の「緊急雇用対策」(平成21年10月23日緊急雇用対策本部決定)に基づき,失業等により生活に困窮する方々への支援として,ハローワークにおけるワンストップ・サービス・デイが実施されたところです。 職員の派遣等,御協力いただいた関係地方公共団体には改めて御礼申し上げます。

 当該事業の実施に当たっては,利用者の方々から高い評価をいただいたところですが,一方,失業等により生活に困窮する方々への支援について課題も生じております。

 こうしたことを踏まえ,各自治体におかれては,引き続き「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」(平成21年3月18日社援保発第0318001号保護課長通知)及び「緊急雇用対策における貧困・困窮者支援のための生活保護制度の運用改善について」(平成21年10月30日社援保発1030第4号保護課長通知)の趣旨を再度ご理解いただくとともに,失業等により生活に困窮する方々への支援に当た っては,ハローワーク等の関係行政機関や,ホームレス支援を行うNPO法人等の民間団体と連携の上,下記の事項について留意し,効果的で実効ある生活保護制度の運用に努めていただきますようお願いいたします。

 

 

1 速やかな保護決定

 失業等により生活に困窮する方が,所持金がなく,日々の食費や求職のための交通費等も欠く場合には,申請後も日々の食費等に事欠く状態が放置されることのないようにする必要がある。 そのため,臨時特例つなぎ資金貸付制度等の活用について積極的に支援し,保護の決定に当たっては,申請者の窮状にかんがみて,可能な限り速やかに行うよう努めること。

 

2 住まいを失った申請者等に対する居宅の確保支援

 失業等により住居を失ったか,又は失うおそれのある者に対しては,まず安心して暮らせる住居の確保を優先するという基本的な考え方に立ち,「居宅生活可能と認められる者」については,可能な限り速やかに敷金等を支給し,安定的な住居の確保がなされるよう,支援すること。

 なお,居宅生活ができるか否かの判断に当たっては,「生活保護問答集」(平成21年3月 31日保護課日保護課長事務連絡)問7-107において判断の視点を示しているところであるが,これは判断の視点であって,そのうちの一つの要件が満たされないことのみをもって居宅生活ができないと判断することのないよう,留意されたい。

 

3 適切な世帯の認定適切な世帯の認定

 失業等により住居を失い,一時的に知人宅に身を寄せている方から保護の申請がなされた場合には,一時的に同居していることをもって,知人と申請者を同一世帯として機械的に認定することは適当ではないので,申請者の生活状況等を聴取した上,適切な世帯認定を行うこと。

 

4 他法他施策活用の考え方

 就職安定資金及び総合支援資金等の公的貸付制度及び住宅手当は,生活保護法第4条第 1項のいう「その他あらゆるもの」には含まれず,本人の意に反して利用を強要することはできないものであること。

 保護の相談時には,相談者に誤解が生じないよう,適切な助言に努めること。

 

5 実施機関が異なる申請者の対応

 面接相談時に,相談を受けた福祉事務所と保護の実施責任を負う福祉事務所が異なることが判明した場合においても,相談者が保護の申請意思を示した場合には,相談を受けた福祉事務所から相談者の実施責任を負う福祉事務所に記録等速や回付すること。

 

6 関係機関との連携強化等について

 保護の実施機関においては,住宅手当,総合支援資金及び訓練・生活支援給付金等の各種関係施策について積極的な情報収集を行うとともに,特に失業等により生活に困窮する方々に対しては,生活保護の相談のみならず,これらの関係施策の活用なども含め生活全般の相談に対応するよう配慮すること。

 また, 相談に対応した職員は,必要に応じてハローワークや社会福祉協議会協議会等の関係機等の関係機関の担当者と連絡を取り,個々の調整を行う等,関係機関との連携強化に努め,相談者に配慮した対応を行うこと。

 さらに,上記2の安定的な住居の確保に当たっては,ホームレス支援を行っているNPO法人等の民間団体や不動産業者等との連携に努めること。

 

 

 

 

 

社援保発1030第4号 

平成21年10月30日 

 

  都道府県

各 指定都市民生主管部(局)長 殿

  中核市

 

 

厚生労働省社会・援護局 保護課長   

 

 

「緊急雇用対策」における貧困・困窮者支援のための生活保護制度の運用改善について

 

 今般,政府において「緊急雇用対策」(平成21年10月23日緊急雇用対策本部決定)がとりまとめられ,具体的な対策として,「貧困·困窮者支援」を実施することとされており,その一環として,「生活保護制度の運用改善」が事項として盛り込まれたところである。

 雇用情勢は今年7月に失業率が過去最高に達するなど依然として厳しい状況にあり,求職中の貧困・困窮者への支援は緊急を要しているところである。

 こうしたことを踏まえ,失業等により生活に困窮する方々への支援に積極的に取り組み,とりわけ一時的な居所の確保を図る観点から,生活保護制度として下記のとおり運用改善を講ずることとしたので,管内実施機関に周知徹底をお願いする。

 あわせて,各自治体におかれては,引き続き「職や住まいを失った方々への支援の徹底について」(平成21年3月18日社援保発第0318001号保護課長通知)の趣旨をご理解の上,下記の取組とともに適切な支援に努められたい。

 

 

1 一時的な居所の確保が緊急的に必要な場合の支援について

 各実施機関においては,失業等により居所のない者から生活保護の相談・申請があり,一時的な居所を緊急的に紹介する必要がある場合に備え,近隣の安価な民間宿泊所,ビジネスホテル,カプセルホテル等の情報を収集されたい。

 

2 一時的な居所の確保に必要な宿泊料等の支給について

 生活保護の申請者が,やむを得ず一時的に上記の民間宿泊所等を利用し,生活保護が開始された場合は,その後に移った一般住宅等の家賃に要する住宅扶助費とは別に,日割等により計算された必要最小限度の一時的な宿泊料等について,保護の基準別表第3の2の厚生労働大臣が別に定める額の範囲内で支給して差し支えないこととする。

 

 

 

 

社援保発第0318001号

  平成21年3月18日 

 

  都道府県

各 指定都市民生主管部(局)長 殿

  中 核 市

 

 

厚生労働省社会・援護局保護課長   

 

 

職や住まいを失った方々への支援の徹底について

 

 

 雇用失業情勢が厳しい中,全国的に生活保護受給者の増加傾向が続いており,昨年12月の被保護実人員は約160万人となっている。 今後,景気がさらに後退すれば,職や住まいを失い,生活に困窮する方がさらに増加すると考えられる。

 政府では,昨年末以降,職や住まいを失った方々の住居の確保や生計の維持等のための支援に全力で取り組んでいるところであるが,これらの施策を講じてもなお生活に困窮する方は,生活保護の開始の申請に至ることが考えられる。

 各実施機関においては,生活に困窮する方々を早期に発見し,本人の事情や状況に応じた支援を関係機関と連携して迅速に実施することが必要である。

 このため,今般,下記のとおり,特に支援に当たって徹底していただきたい事項をとりまとめたので,各自治体におかれては,ホームレス対策担当部局等と連携の上,これらの施策の充実に努められたい。

 

 

1 今後の生活困窮者の増加に対応するために実施すべき事項

 (1) 福祉事務所の体制整備

 各自治体においては,今後の生活困窮者の増加に適切に対応するため,福祉事務所の人員体制の強化を検討されたい。 特に,ケースワーカーの増員を図るだけでなく,事務補助員,就労支援専門員等の体制を充実することも併せて検討されたい。

 厚生労働省においては,人員体制の整備について,セーフティネット支援対策等事業費補助金により10分の10の国庫補助による支援を実施しているところである。

 また,別添のとおり,政府全体の取組として雇用機会の緊急確保のため緊急雇用創出事業等が実施されており,この事業の取組例の1つとして「生活保護制度円滑実施支援事業」をお示ししているところである。 これらの施策により,福祉事務所の人員体制の整備について財政的支援を受けることも可能であることから,その活用を積極的に検討されたい。

 また,各自治体においては,生活保護の申請の急増時などに臨機応変に適切な人員体制がとれるよう,あらかじめ応援体制等について検討されたい。

 

(2)他法他施策等の情報提供の徹底

 ハローワーク等の関係機関においては,離職者に対する支援の充実が図られている。 具体的には,ハローワークにおいては,社員寮等の退去を余儀なくされた方々への住宅確保等のための相談支援(雇用促進住宅への入居あっせん並びに住宅入居初期費用,家賃補助費及び生活・就職活動費の資金の貸付に関する相談)を実施している。 また,入居可能な公営住宅及び独立行政法人都市再生機構の賃貸住宅(UR住宅)の情報も提供している。

 このため,保護の実施機関においては,ハローワーク等と日ごろから「顔の見える関係」を構築し,相談者のニーズに応じて,ハローワーク等の窓口に相談者を確実につなぐとともに,就職安定資金などの他施策についての情報の提供を行うなど必要な支援を行われたい。

 

(3)都道府県等によるホームレス自立支援センターやホームレス緊急一時宿泊事業(シェルター)の実施の強化

 ホームレスに対して地域の実情に応じ,ホームレス自立支援センターや ホームレス緊急一時宿泊事業(シェルター)の実施などの対策がとられており,直ちに借家等で自活することは困難であるが 就労意欲と能力のある者については,ホームレス自立支援センター等において支援を行う必要がある。

 これらの施設は既存建築物等を活用し,又は借り上げて設置することについてもセーフティネット支援対策事業費補助金の補助対象としたところである。 各自治体においては,今後の生活困窮者の増加に備えて,早急にこれらの施設の整備に取り組まれたい。

 

(4)現在地保護の徹底

 生活保護法(以下「法」という。)第19条第1項第2号は,「居住地がないか,又は明らかでない要保護者であって,その管理に属する福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの」について,その福祉事務所が保護を決定し,実施するものと定めている。

 このため,「住まい」のない者については,その現在地を所管する保護の実施機関が生活保護の申請を受け付けることとなる。 なお,申請の後,保護を決定するに当たっては,法第30条において「生活扶助は,被保護者の居宅において行うものとする。ただし,これによることが適当でないとき,(中略)被保護者を救護施設,更生施設若しくはその他の適当な施設に入所(後略)」とされていることから,アパートや施設などに居住していただくこととなる。

 また,保護の実施機関においては,相談者の意に反して他の自治体への移動を勧める行為は認められないものであり,相談を受けた現在地の実施機関が必要な支援を行われたい

 

(5)生活困窮者の早期発見

 生活困窮者の中には,極度に困窮した状態になるまで行政機関等に相談することがなく,結果として労働施策や福祉施策等による支援を受ける時間的余裕がない者もいる。 このような方については,本来,その前段階で,行政機関等が生活相談を実施し,必要な公的支援を紹介又は実施することが必要である。

 このため,保護の実施機関においては,保健福祉部局及び社会保険・水道・住宅担当部局,ハローワーク,求職者総合支援センター等の関係機関並びに民生委員・児童委員との連携を図り,生活困窮者の情報が福祉事務所の窓口につながるような仕組みづくりを推進されたい。

 

 

2 保護の申請から保護の適用までの対応

(1)居宅生活の可否についての判断

 住居を喪失した者に対して生活保護を適用するに当たっては,申請者の状況に応じた保護を行うため,まず申請者がどのような問題(身体的・精神的状況のほか,日常生活管理能力,金銭管理能力,稼働能力等)を抱えているのか十分に把握する必要がある。

 特に,保護を適用する際に,居宅生活が適当であるのか,福祉的な援助等が必要であるため,保護施設等又は自立支援センターヘの入所が適当であるのかを判断するために,アセスメントを十分に行われたい。 なお,住宅扶助費として敷金等を受給できる者は,居宅生活ができると認められる者に限られるので留意されたい。

 

(2)住居の確保等についての情報提供及び関係機関との連携

 居宅生活が可能と認められる者による住居の確保を支援するため,各自治体においては,例えば,不動産関係団体と連携し,住居を喪失した者や保証人が得られない者に対してアパート等をあっせんする不動産業者の情報を収集するなど,必要に応じて,住居に関する情報を提供できるよう,その仕組みづくりに努められたい。

 また,「直ちに居宅生活を送ることが困難である」と判断された者や,居宅生活が可能か否かの判断ができない者については,施設等における支援が,一定の期間 必要である。 このため,各自治体においては,ホームレス自立支援センターやホームレス緊急一時宿泊事業(シェルター)等の必要な施設の確保を図るとともに,関係部局と連携を図られたい。

 

(3)適切な審査の実施

 生活保護の決定に当たっては,急迫の場合を除き,通常の手順に従って必要な審査を行った上で,法定期間内での適切な処理に努める必要がある。

 特に,稼働能力の活用の判断に当たっては,保護の実施要領の規定に従い, ① 稼働能力があるか否か, ② その稼働能力を前提として,その能力を活用する意思があるか否か,③ 実際に稼働能力を活用する就労の場を得ることができるか否か,により判断することとなる。

 したがって,単に稼働能力があることをもって保護の要件を欠くものではないが,一方で,実際に稼働能力を活用する就労の場を得られるにもかかわらず職に就くことを拒んでいる場合は,保護の要件を欠くこととなる。 このため,本人の生活歴・職歴等を聴取し,本人の稼働能力に見合った就労の場が得られるかどうかについて十分見極め,必要な支援を行われたい。

 

(4)保護の開始決定における留意点

 保護の開始決定に当たっては,特に次の点に留意されたい。

 

  ア 保護の開始決定は,申請者の住居が確保されたとき(アパート等に入居したとき,又は 入居できることが確実になったとき)以降,又は施設等に入所したとき以降に行うこと。 なお,住居が確保されていないことを理由として,保護申請を却下することはできないものであること

 

  イ 保護の開始日は,申請日以降であって,要保護状態にあると判定された日とすることとしている。 したがって,申請日以降に他の支援等により一定期間 要保護状態になかったことが明らかである場合等を除き,通常,その申請日が保護の開始日となることに留意すること。 その際,生活扶助費については,第1類及び第2類の表に掲げる額並びに加算額等を合算した額を計上すること。

 

  ウ アパート等の住居を確保するまでの間に,一時的にカプセルホテル,簡易宿泊所等に宿泊した場合,これらの宿泊料については,当該月のアパート等の家賃に要する額と合算して,1か月の住宅扶助費の基準額の範囲内で支給して差し支えないものであること

 

 

3 保護の適用後の就労支援の実施

 生活保護制度への国民の信頼を確保するためには,被保護者の就労支援を徹底 し,自立を助長することが不可欠である。

 とりわけ,離職者の大多数は「就労の能力」や「就労の意思」を有していると考えられる。このため,離職者である生活保護受給者が「就労の場」を得ることができるよう,就労支援専門員等による就労支援をきめ細かく実施するとともに,ハローワーク等と連携し,生活保護受給者等就労支援事業や自立支援プログラムなどを活用されたい。 その際,各自治体においては,就労支援専門員等の配置を推進されたい。

 なお,就労支援専門員等の支援を拒み,かつ積極的に「就労の場」を得る努力をしない者については,保 護の要件を欠くものであり,法第27条に基づく指導指示を徹底することが必要である。 さらに,指導指示に違反する場合は,保護の停廃止を含めた厳格な対応を検討されたい。

 

 

 

生活保護申請者に不適切対応,横浜市の非情すぎる発言“録音テープ”の中身を公開

 

 週刊女性(小林 美穂子) 2021.3.17(水) 

 

 「生活保護の申請をしたい」横浜市の神奈川区福祉事務所を訪れたひとりの女性が申し入れた。すると面接担当者は誤った条件を提示し,本来は有効のはずの申請書を受け取らなかった。 市は対応の不適切を認め,謝罪会見をすることになったが,なぜ,このようなことが起こるのだろうか。 今回,福祉事務所に抗議した,生活困窮者の支援活動を行う『つくろい東京ファンド』の小林美穂子氏が,その全容を語る。

 

 

福祉事務所が生活保護めぐり虚偽の説明

 仕事と住まいを失った女性Aさんの所持金は9万円でした。 数日後には携帯代金や各種支払い(約2万円)が引き落とされる予定となっています。 先行きが不安だったAさんは,節約をしようと考え公園で過ごしていました。

 そして 翌日の2月22日,Aさんは横浜市神奈川区の福祉事務所を訪ね,アパートで生活できるよう生活保護の申請をしたいと申し出ました。

 ところが,対応した福祉事務所の職員は,生活保護の申請を希望する<Aさん>を退け,記録に「申請の意思なし」と記載したのです。 Aさんは福祉事務所を訪れる前に,困窮者支援団体や弁護士にも相談しており,インターネットからダウンロードした生活保護申請書を持参していました。また,支援者たちの助言に基づき,職員とのやり取りの一部始終を録音していたため,今回の悪質な追い返し(水際作戦)が明るみに出ることになったのです。

 Aさんからの連絡を受けた私たち『つくろい東京ファンド』は,協力する5団体と横浜市市議とともに,神奈川区に対して要望書を提出し,Aさんに対する謝罪と今後の対応改善を求め記者会見を行いました。

 

 

録音テープとともに神奈川区の対応を検証

 では,神奈川区の対応の何が問題だったか。 ツッコミどころが満載すぎてひと言ではとても説明できないため,また,生活保護の申請希望者を追い返す行為は,福祉事務所による違法行為であることを広く知ってもらうため,録音していたテープを文字にして解説したいと思います(なお,Aさんのプライバシーに関する発言に関しては伏せてあります。)。

 

<相談係> 受付表に「お住まいなし」って書いてあるんですけど? 状況教えてもらってもいいですか?

<Aさん> 今現在の状況は仕事がなくて,来月までにはお給料入る予定なんですけど。今はお仕事なくて,住所がなくて,カプセル(ホテル)とかネットカフェとか(に泊まっています)。あと,何を言えばいいですか?

<相談係> お家のない状態だと,ホームレスの方の施設があって,そちらに入ってもらう。 そちらは女性の方なので女性相談になる。

 

 注目したいのは,ここで相談係は,まるで施設入所が生活保護の前提であるかのような説明をしていますが,これは虚偽の説明にあたります。施設入所の強制は生活保護法30条違反にあたります。 本人が嫌がる場合は,別の選択肢を考える責任が福祉事務所側にはあります。

 

<Aさん> 私が家がないからどうしようかとなってなってるときに,埼玉のNPO法人の人に連絡して。

<相談係> 埼玉? 埼玉にもいたの?

<Aさん> 埼玉にはいないです。ツィッターで連絡しました。“もし申請して断られたら同行してあげます”つて言われて,それは申し訳ないなぁと。(生活保護申請)できないんですか?

<相談係> ほかの自治体の場合だと,お家のない人にはお家を見つける費用とかを援助できる,っていう情報としてはあると思うんですけど,ここの場合はホームレスの人の場合は,今日明日泊まる方の部屋がすぐあるわけではないので,施設にご案内するという形になるんだけど。

 

 この相談係の説明には,大変,驚きました。

 相談係はまるで,アパートの初期費用を生活保護で支給することを都市伝説か,風の噂のごとく話していますが,真っ赤なウソです。 そして,神奈川区では生活保護の申請が施設入所前提だとここでも虚偽の説明を繰り返しています。

 

<Aさん> 聞いたところによれば,家がなくても保護申請はできますってNPO法人の方に言われたんですけど,それは違うんですか?

<相談係> 保護申請自体はできるんだけど,(以下音声不明瞭)

<Aさん> じやあ,申請ができるなら申請したいんですけど……

<相談係> 今日はどこから来たの?

<Aさん> 今日は…••昨日は外で寝ました。昨日はあったかかったので公園。

 

 「申請したい」と意思を示した途端に話題そらしたのです。 間髪いれぬこの華麗な切り返しを生の音源で聞いていると,福祉事務所は普段からその技術を磨いているようにすら思えてしまいます。 Aさんは,ここまでに控えめに,あるいは直接的に三度の生活保護申請の意思を示していますが,申請には至りません。

 このあと,Aさんの所持金が9万円あること,3月に5万円のバイト代が入る予定であること,でも今は仕事がないこと,支援団体にも生活保護を利用するよう勧められたことを話し,Aさんはどうにか生活保護の申請をしたいと相談係に訴えました。

それを聞いたあと,相談係は一時退席し,事務所の奥へ消えたと言います。 そして誰かと相談して戻って来た相談係は,スラスラとよどみなく以下の説明をしはじめます。

 

<相談係> お待たせいたしました。今,現時点で問題になっているのは「お家」なんですよ。 お家がないのだから,申し込みしたとしてもお家がない状態のまんまだと,住むところがない状態だから,却下になる可能性が出てきちゃうんですよ。 あと,生活保護を申請するときに,持っていていいお金の上限というのがあって,申込時点で持っているお金が上限を超えてしまっている場合は,ここの収入の方に充当されていっちゃうんですよ。 そうすると手続きとしてもあまりお得でないというか,損しちゃうので,今の金額からいうと,超えちゃってるから,手続きしたとしても却下になる可能性がある。

 

 解説します。

 相談係は,Aさんの所持金が多すぎるから申請をしても却下になる可能性があるとおっしゃっています。 確かに,所持金が最低生活費(約13万円)を上回っていれば,生活保護の要否判定で却下になりますが,Aさんの所持金は9万円で最低生活費を下回っています。

 生活保護費(最低生活費)は単身世帯の場合,7万~8万円の生活扶助と,横浜市では上限5万2,000円の住宅扶助で成り立っており,この相談係は「あなたは住まいがないのだから」と住宅扶助分を計算に入れなかった模様。 しかしこれは誤りです。 住まいのない状態で申請したとしても,申請後にはホテル等に一旦は宿泊することとなるため,最低生活費の算出には住宅扶助費(宿泊費の実費)も参入されなくてはならないのです (3月8日,厚生労働省社会・援護局保護課保護係に確認済み)。

 

<Aさん> 質問いいですか? あ,質問いいですか?

<相談係> はい

<Aさん> んーと,一応そのごめんなさい,NPO法人の人は,住所がなくても住民票がどっかにあっても,そこにいる場所で申請はできるって言われたんです。

<相談係> あ,そうそうそう。

<Aさん> 却下になる可能性があるということは,生活費を超えるってことですか?

<相談係> 今住むところがないってことは,住む家賃がかかってないんだから。

<Aさん> でも,今日から9万円引かれてるわけで…••ここの最低生活費っていくらですか?

<相談係> 生活費だけでいうと,7万5,000円。もしできるんだったら,敷金礼金がかからない物件を見つけて,それが例えば神奈川なのか東京なのかわからないけど,その住所のあるところで手続きをするのがいいのかなと。 もしアパートとか見つけられないというのなら,宿泊所というところ?  この辺だと中区の寿町というところにたくさんあるんだけど,そこに住民票を移して手続きをすると。 それだと住んでいるところがあるから手続きできます。

 

 この会話に至っては,<相談係>は既に自己矛盾を起こしています。

 「住所がなくても,住民票がなくても今いる場所で申請できると聞いている」と言うAさんに同意しておきながら,文字どおり,舌の根も乾かぬうちに簡易宿泊所等に住民票設定しないと生活保護の申請ができないと説明しています。 その後,困り果てたAさんの声がテープには残されていて胸が痛みました。

 

<Aさん> じやあ,今は申請はできなくて却下されるというわけですか?

<相談係> 申請自体はできるけれど,したとしてもメリットあんまりなくなっちゃうから。 家を見つけて来た状態でしたほうが確実なんじゃないかなと。

<Aさん> うん。

<相談係> 敷金とか礼金とか初期費用がかかるところが多いんだけど,それがかからないところをさがして。

<Aさん> 私,保証人を立てられないので,いろいろ探してたんですけど,まぁ,9万円じゃあ難しかったんです。 しかも,なくなった段階でお金が引かれてしまったら7万円もないと思うんですけど,どうしようかなぁ……。 うううん,うううううん……。 困るなぁ……でも,申請はできるんですよね。

<相談係> 申請はしたとしても,住むところがない状態だと(音声不明瞭)

 

 怒りしか湧きません。みなさんもちょっと考えてみてください。 家がなく,手持ちのお金が9万円で,月末には2万円引き落とされることがわかっている。 現在無職。頼る人は誰もいない。生活保護も拒まれ続けていて利用できていない。

 このような状況の人に部屋を貸してくれる不動産屋が,大家さんが,いますか?

 相談係は,盛んに敷金礼金がかからない部屋と言っていますが,一般的にゼロゼロ物件と呼ばれるその手のアパートは,のちのちトラブルになりがち。 だから福祉事務所も生活保護利用者のアパート転宅時には,どこの自治体も「ゼロゼロ物件は避けてね」と常々言っています。

 これほどまでにゼロゼロ物件を熱烈に推してくる自治体も珍しい。 少なくともこれから保護し,生活再建を助けようとする立場の人間が言う言葉ではありません。

 

<Aさん> その資料あります? 横浜市はホームレスだと申請できません,みたいな。

<相談係> ううん,申請はできるんだけど,申請しても生活保護を受けれるか受けれないかは別問題ですよと。

<Aさん> ううううううん,でも家がないから……。申請の紙ってもらっていいんですか? 一応,コピーして申請書を書いて持って来たんですけど。

<相談係> 申請の紙は,お申込みのときにおわたしするので,前もっておわたしするということはしてないです。

<Aさん> ううううん。どうしようっかなぁ。

 

 Aさんはとても聡明な方で,相談係の説明の裏付けとなるものを入手しようと,混乱するなかで頑張ります。不安と失望のなかで弱ってきたAさん,その一方で,相談係の方は迷いも消えたような違法行為を繰り返します。

 ここでの発言の問題点は,申請用紙を持参したにも関わらず,それを受け取らなかったこと。とても悪質な水際作戦です。申請は,その意思が確認できるものであればフォーマットは何でもよく,それこそ広告の裏に「生活保護を申請します。○月○日神奈川花子」と書いたものでも有効なんです。

 

<相談係> アパートとか見つけられないというんだったら,簡易宿泊所をご案内しますけど,どこに泊まるかは自分で探してもらわないと。

<Aさん> ちょっと私も頭がアレなんで,もう一回,弁護士とNPOの人に話してみます。

<相談係> 勘違いしてほしくないのは,申請自体を受けないってことじゃないよってことです。

<Aさん> でも,申請のこの紙出しても受け取ってくれないんですよね。

<相談係> 申請自体はできるけど,だからといって生活保護になるかどうかは別だよって。

<Aさん> でもなかなかこんな感じで,私じやあ話にならないのでこの紙(しおり)もらっていきます。 ありがとうございます。

 

 相談係は,Aさんに弁護士と支援団体に相談すると言われ,慌てて「申請自体は受けないってことではない」と言っています。しかしこれまでのやり取りで,何度も申請を希望しているAさんに対し,この相談係は,何度退けてきたと思っているんでしょうか。

 混乱の極みのなかで,Aさんが持参した申請用紙を差し出そうとしたのに受け取らない。鉄壁の守りです。市民の命と生活を守るはずの福祉事務所が,助けを求めてきた人を追い払う。そのために虚偽の説明を重ねに重ねる。そんな行為は一体なにを守っていることになるのだろう。

 

 

神奈川区の尉罪,そして横浜市による記者会見

 Aさんのやり取りに対し,疑問に思った私たちは福祉事務所に申し入れをし記者会見を行いました。 すると同じ日の夕方,横浜市も記者会見を開き「対応が不適切だった」と認め謝罪をしました。

 そこで配られた『横浜市記者発表資料神奈川区における生活保護申請対応について』という資料があります。これを見たとき,本当に反省している? と思ったのが正直な感想です。

 資料の中で横浜市は神奈川区での対応を「重要な問題と認識している」と書いておきながら,その経緯ではこう書いてあります。

《区からは,当事者の生活状況を聞き取りながら生活保護制度について説明しました。当事者より「再度関係者と相談する」と申し出があり,相談を終了しました。》

 

 前述した,区とAさんのやり取りの“会話記録を読んで,あのやり取りのなかで生活保護制度の説明が十分になされていたと思われるでしょうか?  また,そのほとんどが虚偽であったことを考えれば,「制度の説明」なんてよく言えたものだと,再び怒りが湧いてきました。

 そして,区側が申請の受け付けをしなかったのが,「再度関係者と相談する」と言って席を立ったAさんの意思であったかのような書かれ方をされているのも心外です。

 また,神奈川区の福祉事務所内には,「録音禁止」という貼り紙がされていることがAさんの証言でわかりました。 市議が即座に動き,貼り紙撤去の運びとなりました。

 私自身,これまでの活動のなかで,「録音禁止」を別の自治体で目にしたことがありますが,理由を聞けば「ほかの相談者のプライバシー保護のため」などと言うのでしょうが,それは個室の面談室にも貼ってあります。 そういう自治体は,録音されたら困る事情を抱えていると考えて然るべきです。市民が公務員の言動を録音してはいけないという法律などありません。

 

 

専門職をそろえた福祉事務所でなぜこんなことが起きたのか

 横浜市や川崎市は,福祉事務所に専門職(社会福祉士,精神保健福祉士)を採用することで知られています。 この<相談係>も新米ではなく,福祉事務所での勤務歴8年の専門職採用でした。 職員が一流ぞろいのはずの福祉事務所で,一体どうしてこんなことが起きるのでしょか。

 一つには,神奈川県に住まいをなくした方を対象にした一時滞在施設が少ないことがあげられます。 個室の施設が少なく,コロナ前なら8人部屋(コロナ中は4人)の施設や,個室ならば寿町にある簡易宿泊所と選択肢が限られています。

 寿町は多様な人々を内包する懐の深い街ではありますが,そういうところに馴染めない人たちも増えてきています。 それは,障害があったり,集団生活が苦手な人や若い世代の人たちや女性です。 そういう人たちの一時待機場所がないから追い返す,ではなく,短期間だけビジネスホテルやネットカフェなどを駆使しながら,その間にアパートを探してもらうなどの方策をとるほうが,相談者も安心ですし,職員も志を保ちつつ誇りを持って仕事ができるのではないでしょうか。

 今回の事件は,対応した相談係一人の落ち度では決してなく,組織的なものであったと私たちは確信しています。 似たようなケースがいくつも報告されていますし,状況から考えても組織的と考えるほうが自然だからです。 今回の失敗を言葉だけの謝罪で終わらせるのではなく,名実ともに理想的な福祉運用をする自治体に変わっていくことを期待しています。

 

 「私のような目にあった人が,たくさんいるんじゃないかと心配になった」窮地にあっても他者に思いを馳せたAさんの言葉を最後にしたためて。

 

 

 

横浜市神奈川区の生活保護申請への不適切対応,林市長が陳謝「相談者の意思尊重せず」

神奈川新聞 2021.3.17(水) 

 

 横浜市神奈川区の生活支援課が2月,生活保護申請に訪れた20代女性に誤った説明をして申請を受け付けなかった問題で,林文子市長は3月17日の定例会見で「相談者の意思を尊重した対応を行えなかったことは大変申し訳ない」と陳謝した。

 林市長は「国の制度上,生活保護申請の意思が表明されれば,必ず受理しなければならない」とした上で,「今回の対応は非常に不適切だった」と謝罪。 再発防止策として,申請者に寄り添った対応をするよう関係部局に指示したとし,「全18区で職員に対する研修を実施する」と話した。

 支援団体「新型コロナ災害緊急アクション」(東京)などによると,アパートで暮らしたいと生活保護の申請に訪れた20代女性に対し,区の職員は,「ホームレスの場合は施設に案内する」などと誤った説明をして申請を受け付けなかった。 区は事実関係を認め,女性に謝罪した。