【問】生活保護の申請が却下されるのは,どのような場合ですか?

 「土地や家,自動車などを所有しているときは,それを処分した後でなければ,生活保護を受けることはできない。」ということを聞きますが,それは本当ですか。

 また,生活保護の申請が却下されるのは,どのような場合ですか。

 

 

 

【答】

 「土地や家を所有しているときは,それを処分した後でなければ,生活保護を受けることはできない。」,

 「自動車を所有しているときは,それを処分した後でなければ,生活保護を受けることはできない。」,

 「稼働能力があるときは,生活保護を受けることはできない。」

などの話を聞くことがありますが,これらは,すべてウソです。

 

 土地や家を所有している場合であっても,その家に住んでおり(活用している場合),資産価値がそれほど大きくないときは,その家に住みながら,生活保護を受けることはできます(ただし,当然,家賃(=住宅扶助費)は支給されません。)

 また,所有している土地や家の資産価値が高い場合であっても,生活に困窮しているときは,まず生活保護が適用され,その後で 土地と家の処分指導を受け,その売却金抵当権が付いている場合は、その分を差し引いた額)の中から,保護開始日から不動産売却金受領日までに受給した生活保護費を,生活保護法第63条により返還し,残金があるときは,それを生活費に充てることになります。 なお,残金を生活費等に充てた場合に,6か月を超えて保護を必要としない状態が継続すると見込まれるときは,生活保護は廃止になります。

 

 ただし,生活保護法第63条により,受給した生活保護費を返還する場合は,医療費も含まれ,医療費は3割でなく,10割を返還しなければならないため,生活保護を受けた方が不利になることもありますので,十分に注意してください。

 

 次に,自動車を所有しており,自動車の保有要件を満たさない場合であっても,生活に困窮しているときは,まず生活保護が適用され,その後で自動車の処分指導を受け,その売却金の中から,保護開始日から自動車売却金受領日までに受給した生活保護費を,生活保護法第63条により返還し,残金があるときは,それを生活費に充てることになります。

 

 次に,稼働能力がある場合であっても,真面目に求職活動を行っても就職できず,生活に困窮しているときは,まず生活保護が適用され,その後で就労指導を受け,数か月後に就職が決まり,給与(交通費や社会保険料,基礎控除等を差し引いた額)が 最低生活費を上回ったときは,生活保護は廃止になります。

 

 したがって,不動産や自動車を所有していても,稼働能力があっても,実際に生活に困窮していて,不動産や自動車の処分,就職などに ある程度の時間を要するときは,まず 生活保護が適用され,その後で 処分指導や就労指導を受けることになります

 

 上記のことについては,このブログの6月4日の記事「生活保護の申請」や,6月5日の記事「生活保護と不動産の所有」,6月6日の記事「生活保護と自動車の所有」,1月2日の記事「生活保護と就労指導」などをご覧ください。

 

 そのため,私の経験では,生活保護の開始申請の却下処分をしたことは ほとんどありません。 生活保護の開始申請が却下される具体的な事例は,生活保護申請後に,多額の預貯金があることや,多額の解約返戻金がある生命保険を所有していることが判明したときなどでです。

 この場合でも,保護開始申請の却下処分を行うことは少なく,本人に説明し,本人の了承を得て,生活保護開始申請の取下書を提出してもらい,生活保護申請の取下げ処理を行うことがほとんどです。

 その理由は,福祉事務所としても,却下処分を行うよりも,取下げ処理の方が手間や時間がかかりませんし,生活保護の申請者も却下処分を受けるよりも,自ら申請を取り下げることを望むことが多いからです(なお,申請者にウソなどを付いて、生活保護の申請を取り下げさせたときは,その取り下げは無効になります。)。

 

 上記の生活保護申請の取り下げは,今後も 生活保護の申請を行わないという意味での取り下げではなく,預貯金が減少したときに,再度 保護の申請を行うことを前提とした取り下げとなります。

 つまり,預貯金を持っていて借金等があるときは,生活保護開始後は 預貯金から借金の返済は認められないため(預貯金は,原則として まず生活費に充ててもらうことになりますので,その分は保護費が減額されることになります。),その預貯金を借金等の返済に充てた後で 生活保護の申請をした方が,申請者にとって有利になるときなどは,私が所属していた福祉事務所では,そのようなアドバイスをすることがありました。

 

 ここで 注意しなければならないことは,生活保護の開始申請を取り下げた場合は,保護開始申請自体が存在しないものとなるため,却下処分通知書も送付されないことになりますので,(却下処分に対する)審査請求は行うことができません。

 

 生活保護申請の却下処分を行う場合は,申請者に生活保護を申請しても却下になることを説明したときに,申請者が,生活保護の申請が却下になっても,それでも申請したいと希望するときくらいです。

 

 例えば,「最低生活費が月額12万円(家賃(=住宅扶助費)3.6万円を含む),保護申請時の手持金が8万円,,保護申請日が11月11日,11月分家賃は支払済」しますと,11月分最低生活費= (12万円-3.6万円(11月分家賃は支払い済みのため)÷30日×20日(11/11~30)=5.6万円。 手持金認定額=2万円(=8万円-12万円÷2)。 11月分支給保護費=5.6万円-手持金認定額2万円=3.6万円 となります。

 つまり,保護申請時に11月分家賃を支払済のときは,11月家賃は支払う必要はないため,11月分最低生活費から11月分家賃は差し引かれ,また,保護申請時の手持金は,最低生活費(家賃を含む)の2分の1を超える額が,手持金として収入認定されますので,上記の金額となります。

 

 そのため,申請者に対して,保護申請時の手持金が6万円以下であれば,手持金認定額は0円になること(上記の事例の場合)等を説明し,申請者の方が,手持金が6万円以下になって申請した方が有利と判断すれば,必要な支払いを行い 手持金が6万円以下になった後で,保護の申請に来られる人もいます。

 また,福祉事務所によっては,生活保護の申請者にとって,どちらが有利になるかの選択肢を示し,そのときに保護の申請をしてもらった方がよいのか,又は 後で保護の申請をしてもらった方がよいのかについて,申請者に判断してもらうこともあります。

 

 しかし,中には,いろいろな理由を付けて,生活保護の申請をさせないようにする福祉事務所もありますので,ケースワーカーの説明に疑問があるときは,ケースワーカーとの会話を録音し,そのケースワーカーの説明が正しいか否かについて,生活困窮者支援団体などに相談するか,又は このブログのコメント欄や メッセージ機能を使って,私に質問・相談してください。

 

 また,ケースワーカーの説明や対応に納得できないため,生活保護開始申請の却下について 福祉事務所と争うときは,必ず生活保護の開始申請を行い,生活保護開始申請 却下処分通知書を受け取り,都道府県知事へ 生活保護開始申請 却下処分の取り消しを求める審査請求を行ってください。

 

 

 

 

(参考)

生活保護手帳

○厚生労働省 保護課長通知

問(第9の1)

 生活保護の面接相談においては,保護の申請意思はいかなる場合にも確認しなくてはならないのか。

 

 相談者の保護の申請意思は,例えば,多額の預貯金を保有していることが確認されるなど生活保護に該当しないことが明らかな場合や,相談者が要保護者の知人であるなど保護の申請権を有していない場合等を除き確認すべきものである。

 なお,保護に該当しないことが明らかな場合であっても,申請権を有する者から申請の意思が表明された場合には申請書を交付すること。

 

 

 

○厚生労働省 社会・援護局長通知

 第3-1 土地

(1)宅地

 次に掲げるものは,保有を認めること。ただし,処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるものは,この限りでない。

 また,要保護世帯向け不動産担保型生活資金(生活福祉資金貸付制度要綱に基づく「要保護世帯向け不動産担保型生活資金」をいう。以下同じ。)の利用が可能なものについては,当該貸付資金の利用によってこれを活用させること。

 ア 当該世帯の居住の用に供される家屋に付属した土地で,建築基準法第52条及び第53条に規定する必要な面積のもの

 イ 農業その他の事業の用に供される土地で,事業遂行上必要最小限度の面積のもの

 

2 家屋

(1)当該世帯の居住の用に供される家屋

 保有を認めること。 ただし,処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるものは,この限りでない。

 

 

第3-5

 1の(1)の当該世帯の居住の用に供される家屋に付属した土地,及び2の(1)の当該世帯の居住の用に供される家屋であって,当該ただし書きにいう処分価値が利用価値に比して著しく大きいと認められるか否かの判断が困難な場合は,原則として各実施機関が設置するケース診断会議等において,総合的に検討を行うこと。

 

 

 

○厚生労働省 保護課長通知

問(第3の15)

(問)

 3の5にいうケース診断会議等の検討に付する目安を示されたい。

 

(答)

 ケース診断会議等における検討対象ケースの選定に当たっては,当該実施機関における最上位級地の標準3人世帯の生活扶助基準額に同住宅扶助特別基準額を加えた値におおよそ10年を乗じ,土地・家屋保有に係る一般低所得世帯,周辺地域住民の意識,持ち家状況等を勘案した所要の補正を行う方法,またはその他地域の事情に応じた適切な方法により算出した額をもってケース診断会議等選定の目安額とする。

 なお,当該目安額は,あくまでも当該検討会等の検討に付するか否かの判断のための基準であり,保護の要否の決定基準ではないものである。

 

 

問(第3の9)

(問)

 次のいずれかに該当する場合であって,自動車による以外に通勤する方法が全くないか,又は通勤することがきわめて困難であり,かつ,その保有が社会的に適当と認められるときは,次官通知第3の5にいう「社会通念上処分させることを適当としないもの」として通勤用自動車の保有を認めてよいか。

1 障害者が自動車により通勤する場合

2 公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者等が自動車により通勤する場合

3 公共交通機関の利用が著しく困難な地域にある勤務先に自動車により通勤する場合

4 深夜勤務等の業務に従事している者が自動車により通勤する場合

 

(答)

 お見込みのとおりである。

 なお,2,3及び4については,次のいずれにも該当する場合に限るものとする。

(1)世帯状況からみて,自動車による通勤がやむを得ないものであり,かつ,当該勤務が当該世帯の自立の助長に役立っていると認められること。

(2)当該地域の自動車の普及率を勘案して,自動車を保有しない低所得世帯との均衡を失しないものであること。

(3)自動車の処分価値が小さく((注) H元年度までは,「おおむね10万円以下」と記載されていた。),通勤に必要な範囲の自動車と認められるものであること。

(4)当該勤務に伴う収入が自動車の維持費を大きく上回ること。

 

 

問(第3の9の2)

(問)

 通勤用自動車については,現に就労中の者にしか認められていないが,保護の開始申請時においては失業や傷病により就労を中断しているが,就労を再開する際には通勤に自動車を利用することが見込まれる場合であっても,保有している自動車は処分させなくてはならないのか。

 

(答)

 概ね6か月以内に就労により保護から脱却することが確実に見込まれる者であって,保有する自動車の処分価値が小さいと判断されるものについては,次官通知第3の2「現在活用されてはいないが,近い将来において活用されることがほぼ確実であって,かつ,処分するよりも保有している方が生活維持に実効があがると認められるもの」に該当するものとして,処分指導を行わないものとして差し支えない。ただし,維持費の捻出が困難な場合についてはこの限りではない。

 また,概ね6か月経過後,保護から脱却していない場合においても,保護の実施機関の判断により,その者に就労阻害要因がなく,自立支援プログラム又は自立活動確認書により具体的に就労による自立に向けた活動が行われている者については,保護開始から概ね1年の範囲内において,処分指導を行わないものとして差し支えない。

 なお,処分指導はあくまで保留されているものであり,当該求職活動期間中に車の使用を認める趣旨ではないので,予め文書により「自動車の使用は認められない」旨を通知するなど,対象者には十分な説明・指導を行うこと。 ただし,公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住している者については,求職活動に必要な場合に限り,当該自動車の使用を認めて差し支えない。

 また,期限到来後自立に至らなかった場合については,通勤用の自動車の保有要件を満たす者が通勤用に使用している場合を除き,速やかに処分指導を行うこと。

 

 

 

○生活保護手帳・別冊問答集

問3-14 自動車の保有

(問)

 課第3の9及び12以外に被保護者が自動車を保有することが認められる場合は,どのような場合か。

 

(答)

 生活用品としての自動車は,単に日常生活の便利に用いられるのみであるならば,地域の普及率の如何にかかわらず,自動車の保有を認める段階には至っていない。 事業用品としての自動車は,当該事業が事業の種別,地理的条件等から判断して,当該地域の低所得世帯との均衡を失することにならないと認められる場合には,保有を認めて差し支えない。

 なお,生活用品としての自動車については,原則的に保有は認められないが,なかには,保有を容認しなければならない事情がある場合もあると思われる。 かかる場合は,実施機関は,県本庁及び厚生労働省に情報提供の上,判断していく必要がある。

 

 

問3-15 自動車による以外の方法で通勤することがきわめて困難な身体障害の程度

(問)

 通勤用自動車の保有が認められる身体障害者の範囲を示されたい。

 

(答)

 自動車による以外の方法で通勤することがきわめて困難な身体障害者の判断は,その身体障害者のおかれた身体機能(特に歩行機能)の程度によるので,一概に等級をもって決めることはできないが,自動車税等が減免される障害者(下肢・体幹の機能障害者又は内部障害者で身体障害者手帳を所持する者については,自動車税,取得税が減免される。)を標準とし,障害の程度,種類及び地域の交通事情,世帯構成等を総合的に検討して,個別に判断することとされたい。

 

 

問3-16 公共交通機関の利用が著しく困難な地域

(問)

 課第3の9中の2及び3にいう「公共交通機関の利用が著しく困難な地域」とは,具体的にはどのような地域か。

 

(答)

 「公共交通機関の利用が著しく困難」であるか否かについては,一律の基準を示すことは困難であるが,例えば,駅やバス停までの所要時間や,公共交通機関の1日あたりの運行本数,さらには当該地域の低所得者世帯の通勤実態等を勘案したうえで,自動車によらずに通勤することが現実に可能かどうかという観点から,実施機関で総合的に判断されたい。

 

 

問3-17 保育所等の送迎のための通勤用自動車の保有

(問)

 自宅から勤務先までは公共交通機関等での通勤が可能であるが,子の託児のために保育所等を利用しており,保育所等へ送迎して勤務するためには自動車による以外に通勤する方法が全くないか,又は通勤することがきわめて困難である場合には,課第3の9中の3に該当するものとして,通勤用自動車の保有を認めて差し支えないか。

 

(答)

 自宅から勤務先までの交通手段が確保されている場合には,まず公共交通機関等の利用が可能な保育所等への転入所を検討すべきである。

 しかしながら,課第3の9の答に示された要件に加え,当該自治体の状況等により公共交通機関の利用が可能な保育所等が全くない場合 若しくは あっても転入所が極めて困難である場合,又は転入所することが適当ではないと福祉事務所が判断する場合においては,お見込みのとおり取り扱って差し支えない。

 

 

問3-18 公共交通機関の利用が著しく困難な障害の程度

(問)

 課第3の12にいう「障害の状況により,利用し得る公共交通機関が全くないか又は公共交通機関を利用することが著しく困難」とは,具体的にどのような者が対象となるのか。

 

(答)

 例えば,身体障害にあっては下肢,体幹の機能障害,内部障害等により歩行に著しい障害を有する場合,知的障害にあっては多動,精神障害にあってはてんかんが該当すると考えられる。

 なお,身体障害の場合に限り,現時点では障害の程度の判定がされていないが,近い将来,身体障害者手帳等により障害の程度の判定を受けることが確実に見込まれる者について保有を認めて差し支えない。ただし,障害認定を受けることができなかった場合には,速やかに処分指導を行うこと。

 

 

問3-19 障害者の通院等の用途の自動車の維持費

(問)

 障害者の通院等の用途の自動車保有に際し,維持費について援助が可能な扶養義務者等がいない場合,障害者加算の範囲で維持費を賄うことは認められるか。

 

(答)

 維持費について確認のうえ,障害者加算(他人介護料を除く)の範囲で賄われる場合については,課第3の12の(4)の他法他施策の活用等の等に含まれるものとして,お見込みのとおり取り扱って差し支えない。