【問】生活保護を受けながら,大学に進学することが認められてない理由は何ですか。

 

 生活保護制度では,生活保護を受けながら,大学に進学することが認められてないと聞きますが, 大学に進学した方が,いわゆる良い会社に就職できる可能性が高く,給与も多くなり,社会保険制度等も充実していますので,将来,病気や怪我で一時的に働くことができなくなっても,傷病手当金や 雇用保険の失業給付金,障害厚生年金等を受給することができるため,生活保護を受けなくてすむ可能性が高くなると思います。

 そこで,生活保護を受けながら,大学に進学することが認められてない理由について,教えてください。

 

 

【答】

 内閣府の「子どもの貧困対策に関する有識者会議」によると,「平成28年度 子どもの大学等進学率の内訳」は,大学に進学した割合は 全世帯で 52.1%であるにもかかわらず,生活保護世帯は 19.0%と非常に低くなっていますが, 現在のところ,生活保護制度では,生活保護を受けながら,大学に進学することは認められていません。

 

 生活保護受給世帯の世帯員が,大学に進学する場合は,大学の授業料等については,減免又は奨学金・貸付金を受け,生活費はアルバイト代等で賄うことが条件となっています。 つまり,それらの条件を満たす場合は,大学進学者は世帯分離され(生活保護の対象から外れ),残りの世帯員は 生活保護を受け続けることができることとなっています。

 

 生活保護は,原則として世帯単位で適用されますので,稼働能力があるにもかかわらず,稼働しない世帯員がいる場合は,原則は その世帯全体の生活保護が廃止されることになりますが, そうすると,他の世帯員は,病気や高齢等により働くことができないにもかかわらず,生活保護を受けることができなくなり,生活に困窮することになります。 そのため,例外的に,稼働能力があるにもかかわらず 稼働しない世帯員だけを世帯分離し(生活保護の対象から外し),その他の稼働できない世帯員だけに生活保護を適用するという措置がとられることがあります(事例としては,それほど多くはありません。)。

 

 例外的に 世帯分離が認められるためには,いくつかの条件があり,その一つとして,大学に進学する世帯員が,大学の授業料等について,減免又は奨学金・貸付金を受け,生活費はアルバイト代等で賄うことが世帯分離の条件となっています。

 大学に進学する世帯員が,大学の授業料等について,減免又は奨学金・貸付金を受け,生活費はアルバイト代等で賄うことが世帯分離の条件となっている理由は,その条件を満たさない場合は,他の世帯員の生活のための生活保護費を,大学進学者の大学授業料や生活費に回さざるを得なくなり,他の世帯員の最低生活の維持ができなくなるからです。

 

 大学進学者の生涯収入と 大学に進学しなかった人の生涯収入を比較すると,前者の方が後者より多く,その結果として,生活保護を受けずにすむ人が多くなるため,生活保護世帯にも,生活保護を受けながら 大学に進学することを認めるべきであるという専門家の意見がありますが, 生活保護を受けずに 奨学金・貸付金を受け,アルバイトをして 大学に進学する人も 多くいますので,現在のところ,生活保護制度では,生活保護を受けながら,大学に進学することは認められていません。

 

 そこで,平成30年度から 生活保護法が改正され,生活保護受給世帯で 大学進学者がいる場合は,世帯から転出せずに 実家から大学に通学するときは 10万円,世帯から転出して大学に進学するときは 30万円が,大学進学準備給付金として支給されるようになりました。,

 

 また,例えば,親と子の2人世帯で,子が大学に進学し 世帯分離されたときは,親のみの単身世帯扱いとなり,親のみの生活費や医療費しか支給されないため,子の生活費や医療費(子は国民健康保険に加入)は,自分でアルバイトをして捻出する必要があります。 しかし,それだけでなく,以前は,住宅扶助費も単身世帯扱いとなり,単身世帯分の住宅扶助費しか支給されず,住宅扶助費は減額されていましたが,その後,平成30年度から,この住宅扶助費の減額措置はなくなりました。

 

 さらに,高校生で大学進学希望の場合は,その高校生のアルバイト収入から,大学の入学金や 前期授業料,学習塾代,模試試験代などの費用も除外され,収入から除外された金額は,大学進学に備えて 別途 積み立て,それらの費用に充てることが認められるようになりました。

 

 このように,生活保護制度においても,大学進学者に対する支援制度ができましたが, 生活保護を受けずに 奨学金・貸付金を受け,アルバイトをして 大学に進学する人も 多くいますので,生活保護を受けながら,大学に進学することは認められていない状況です。

 

 

 

(参考)

厚生労働省 社会・援護局長通知  第1

4 次の各要件のいずれにも該当する者については,夜間大学等で就学しながら,保護を受けることができるものとして差しつかえないこと。

(1)その者の能力,経歴,健康状態,世帯の事情等を総合的に勘案の上,稼働能力を有する場合には十分それを活用していると認められること。

(2)就学が世帯の自立助長に効果的であること。

 

5 次のいずれかに該当する場合は,世帯分離して差しつかえないこと。

(1)保護開始時において,現に大学で就学している者が,その課程を修了するまでの間であって,その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合

(2)次の貸与金,給付金等を受けて大学で就学する場合

  ア 大学等における修学の支援に関する法律に基づく学資支給及び授業料等減免

  イ 独立行政法人日本学生支援機構法による貸与金,給付金

  ウ 国の補助を受けて行われる就学資金貸与事業による貸与金であってイに準ずるもの

  エ 地方公共団体が実施する就学資金貸与事業による貸与金,給付金(ウに該当するものを除く。)であってイに準ずるもの

  オ 大学が実施する貸与金,給付金等であって,保護の実施機関が適当と認めるもの

(3)生業扶助の対象とならない専修学校又は各種学校で就学する場合であって,その就学が特に世帯の自立助長に効果的であると認められる場合