【問】療育手帳に基づき 障害者加算は認定してもらえないのですか?

 私は 生活保護を受給しており,療育手帳B1を所持していますが,療育手帳に基づき障害者加算は認定してもらえないのですか?

 

 

【答】

 結論から言いますと,通常,療育手帳に基づき 障害者加算は認定できません。

 療育手帳は,知的障害者に都道府県知事(政令指定都市にあっては その長)が発行する障害者手帳であり,自治体によっては,バスや地下鉄,JR等の料金割引制度があります。

 身体障害者手帳については身体障害者福祉法に,精神障害者保健福祉手帳については精神保健及び精神障害者福祉に関する法律に,それぞれ手帳発行の条文があり,法的裏づけがありますが,療育手帳に関しては,知的障害者福祉法にその記述はなく,昭和48年9月27日に当時の厚生省が出した通知「療育手帳制度について」(厚生省発児第156号厚生事務次官通知)及び「療育手帳制度の実施について」(児発第725号)に基づき,各都道府県知事(又は 政令指定都市の長)が知的障害と判定した人に発行されています。

 

 このため,障害の程度の区分は,各自治体により少し異なっており,18歳未満は児童相談所,18歳以上は知的障害者更生相談所が判定を行っています。

 また,平成11年の地方自治法の改正(平成12年4月1日施行)により,機関委任事務が廃止され,国が 通知・通達により 地方自治体の事務に関与することはできなくなりました。 このため,改正の施行日以降,上記通知は法的効力を失っており,療育手帳制度は,各自治体独自の施策となっています。

 

 このように 療育手帳については,各自治体で認定基準に少し差異があるため,厚生労働省通知では,療育手帳に基づき 障害者加算を認定することはできず20未満の場合は 特別児童扶養手当の障害等級に基づき,20歳以上の場合は 障害年金の障害等級に基づき,障害者加算の認定の可否を判断することになります。

 

 しかし,鹿児島県は,独自ルールにより 療育手帳の障害等級に基づき 障害者加算を認定していたところ,令和元年度に会計査検院により誤りを指摘され,過去に遡って保護費(障害者加算分)の法第63条返還処分を行いましたが,返還処分の取消しを求める審査請求が提起され,令和2年12月の鹿児島県知事裁決において,法第63条返還処分が取り消されました

 返還処分の取消理由は,「費用返還額の決定に当たっては,自立更生費の控除について調査・検討の必要性が高いとされているが,処分庁は,法第63条返還処分を行うに当たり,自立更生費の控除について必要な調査·検討を尽くしていないことから,返還処分は不当な処分である。」というものです。

 

 福祉事務所のミスによる保護費の過払分に係る法第63条返還処分の取消訴訟において,福岡県 大野城市や 東京都が 敗訴(確定)して以後,この件に係る審査請求件数が増加し,全額返還の場合は,市が敗訴する都道府県知事裁決が増えています。

 したがって,独自ルール(厚生労働省通知に基づかないもの)により,生活保護の運用を行っている場合は,厚生労働省の監査や 会計検査院の検査で指摘を受け,是正を求められる可能性があります。

 

 なお,東京都や横浜市では,「療育手帳」ではなく,「愛の手帳」という名称であり,この「愛の手帳」の障害等級に基づき 障害者加算を認定しているそうですが,これについては,厚生労働省と協議済みであるのかもしれません。

 

 知的障害や 精神遅滞の方の場合は,他の疾病とは異なり,先天性 又は出生後の早い時期に何らかの原因で生じる障害ですので,初診日が何時であるかに関わらず,「20歳前傷病」として取り扱われ,障害年金を申請するための初診日証明は必要なく生まれた日(誕生日)が初診日とされています

 

 稀に精神遅滞などの場合は,小中学校は普通学校に通っており,20歳を過ぎてから社会生活などに問題があると言われて 病院に行った結果,知的障害と診断されることもあります。

 このような場合も,他の疾病のように初診日から1年6か月経過した後でなければ 障害年金は申請できないというわけではなく,知的障害は 先天性のものとされていますので,1年6か月を経過するまで待つ必要はなく,すぐに障害年金を申請することができます。

 

 私の経験では,療育手帳 A1,A2の場合の多くは 障害年金1級に該当し, B1の場合は その8~9割程度障害年金2級, B2の場合は その1~2割程障害年金2級に該当することが多いと思われます。

 

 

 

 

(参考)

○厚生労働省 社会・援護局長通知

第7-2-(2)-エ 障害者加算

(ア)障害の程度の判定は,原則として身体障害者手帳,国民年金証書,特別児童扶養手当証書又は福祉手当認定通知書により行うこと

(イ)身体障害者手帳,国民年金証書,特別児童扶養手当証書 又は 福祉手当認定通知書を所持していない者については,障害の程度の判定は,保護の実施機関の指定する医師の診断書その他障害の程度が確認できる書類に基づき行うこと。

(ウ)保護受給中の者について,月の中途で新たに障害者加算を認定し,又は その認定を変更し若しくはやめるべき事由が生じたときは,それらの事由の生じた翌月から加算に関する最低生活費の認定変更を行なうこと。 ただし,保護の基準別表第1第2章の2の(5)にいう障害者加算を行なうべき者については,その事由の生じた日から日割計算により加算の認定変更を行なって差しつかえないこと。

 

 

 

〇厚生労働省 保護課長通知

問(第7の65)

 局長通知第7の2の(2)のエの(イ)にいう「障害の程度が確認できる書類」には,精神障害者保健福祉手帳が含まれるものと解して差し支えないか。

 

 精神障害者保健福祉手帳の交付年月日又は更新年月日が,障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過している場合に限り,お見込みのとおり取り扱って差し支えない。この場合において,同手帳の1級に該当する障害は 国民年金法施行令(昭和34年政令第184号)別表に定める1級の障害と,同手帳の2級に該当する障害は同別表に定める2級の障害とそれぞれ認定するものとする。

 なお,当該傷病について初めて医師の診療を受けた日の確認は,都道府県精神保健福祉主管部局において保管する当該手帳を発行した際の医師の診断書(写しを含む。以下同じ。)を確認することにより行うものとする。

 おって,市町村において当該手帳を発行した際の医師の診断書を保管する場合は,当該診断書を確認することにより行うこととして差し支えない。

 

 

 

〇東京都生活保護運用事例集

(問6-20)愛の手帳と障害者加算の認定

 愛の手帳の障害程度と障害者加算の適用について,示されたい。

 

(答)

 愛の手帳は,知的障害者(児)が各種の援護を受けるために必要な手帳として,東京都が独自に実施している制度である。

 なお,国1度(最重度): 知能指数及びの制度としては「療育手帳」があり,「愛の手帳」は,この制度の適用を受けている。

 愛の手帳所持者に係る障害者加算の認定については,次のとおり取り扱う

 なお,他県から転入した者がこれらと異なる手帳を所持している場合には,同程度の加算を計上して差し支えない。

 

 ① 1度(最重度): 知能指数及びそれに該当する指数が おおむね 0~19のもの

告示別表第1第2章-4(2)のア及び(3),身障手帳1級・国民年金1級と同等,重重度障害者加算計上

 ② 2度(重度): 知能指数及びそれに該当する指数が おおむね 20~34のもの

告示別表第1第2章-4(2)のア,身障手帳2級と同等

 ③ 3度(中度): 知能指数及びそれに該当する指数が おおむね 35~49のもの

告示別表第1第2章-4(2)のイ,身障手帳3級・国民年金2級と同等

 ④ 4度(軽度): 知能指数及びそれに該当する指数が おおむね 50~75のもの

障害者加算 非該当

 

 

 

○鹿児島県知事裁決

                      社福第27-34号

 

裁 決 書

 

 

    審査請求人 ○○○○○○○○○     

 

 上記代理人 ○○○○○○○○○     

 

                   処 分 庁 ○○○○○○○○○

 

 

 審査請求人(代理人 ○○○○)が令和2年6月25日に提起した上記処分庁による生活保護法(以下「法」という。)第63条の規定に基づく費用返還決定処分(以下「本件処分」という。)に係る審査請求(以下「本件審査請求」という。)について,次のとおり裁決する。

 

 

主  文

 本件処分を取り消す

 

 

事 案 の 概 要

 

 審査請求書,処分庁の提出資料,弁明書などに基づく本件処分に至る経緯

1 平成○年○月○日

    査請求人世帯が生活保護受給開始

2 同年○月○日

    査請求人の療育手帳(障害程度区分:B1(中度))に基づき,障害者加算(区分イ)を認定

3 平成○年○月○日

    審査請求人の療育手帳の障害程度区分がB1(中度)からA2(重度)に変更になったことを受けて,障害者加算の認定を変更(区分ア)

4 平成○年○月○日

    審査請求人が障害基礎年金(障害の程度:2級)を受給(障害者加算の認定変更はなし)

5 令和○年○月○日

   同年○月に行われた令和元年度 会計実地検査の検査講評において,障害者加算の認定事務が不適切である旨の指摘があり,鹿児島県が処分庁に自主的内部点検及び法第63条による費用返還等の処理を依頼

6 同年○月○日

     処分庁が審査請求人世帯の障害者加算の認定を変更(区分イ)

7 同年○月○日

       審査請求人世帯に係る平成○年○月から令和○年○月までの障害者加算の過支給分について,処分庁が本件処分を実施

8 令和2年6月25日

     審査請求人が鹿児島県知事に審査請求書を提出

 

 

審理関係人の主張の要旨

 

1 審査請求書の内容

(1)審査請求の趣旨

   「本件処分を取り消す」との裁決を求める。

 

(2)審査請求の理由

  ア 処分庁は生活保護の障害者加算の誤りを○年間放置していた。

  イ 処分庁の生活保護関係者のミスで障害者加算を過支給されているのに,審査請求人だけに返還義務を課せられるのか。

  ウ 障害者加算が過支給になっていたケースが複数あると聞くが,何故ミスに気づかず過ちを認めず,生活保護受給者に返還させるのか。

 

2 弁明書の内容

(1)弁明の趣旨

   「本件審査請求を棄却する」との裁決を求める。

(2)本件審査請求に対する意見

   本件審査請求の事実上の争点は,審査請求人の主張する当所の事務処理上のミスで生じた返還金について遡って請求できるかという点にあるが,次の理由によって本件処分は適法である。

  ア 療育手帳による障害者加算の認定については,鹿児島県が示す基準に基づき,当該手帳の障害の程度が「A1」又は「A2」の場合,国民年金法施行令別表(以下「年金別表」という。)に定める障害の程度の1 級に該当する者として取り扱うことになっており,これを準用し国民年金証書(2級)を所持している者についても療育手帳の障害の程度が「A1」又は「A2」の場合,年金別表に定める障害の程度の1級に該当する者として取り扱うことと し,障害者加算(区分ア)を計上していた。

  このような当所の処理については,鹿児島県の指導に基づいて県下全市町村で統一的に行われていたものであり,決して当所の事務処理上のミスではないと解釈している。

  イ 返還金請求権の消滅時効は5年間(地方自治法第236条)であり,実際に当該請求権を行使する日(法第63条に基づき返還額の決定をする日)前5年間を超える保護費については,消滅時効が完成したものとして取り扱って差し支えないものとされている。

  今回の返還金については,平成○年○月以降の生活保護費の過支給分の請求となっているため,消滅時効は成立していないものとなる。

なお,令和○年○月の会計実地検査での指摘を受けての過去5年間に遡っての返還請求権の行使については,鹿児島県の指導に沿って,県内の他市町村においても同様の対応がとられているものと承知している。

  よって,平成○年○月に遡っての返還については,妥当であると考える。

また,返還金については,生活に支障のないよう分割での返還も可能であることも説明している。

  以上のことから,審査請求人に対する法第63条による当所の返還処理については,鹿児島県からの令和2年3月6日付け「障害者加算の認定にかかる事務の適正化について(依頼)」を受け,同条に基づき,適切に処理しており違法不当な点はなく,本件処分の取り消しを求める審査請求人の請求理由は認められないものであり,本件審査請求は棄却すべきものと考える。

 

3 反論書の内容

  (処分庁が)障害者加算の認定誤りの経緯と会計検査院による会計検査の期間を教示してほしい。

   ケースワーカーを信用して生活保護費を受給しており,過支給について依頼していないことから,返済をしたくない。

  (障害者加算の)過支給分は,ケースワーカーの上司もいるのに何故間違っているのか。

   障害者加算の認定誤りを認め,せめて半分ずつの返済としてほしい。 全額返済することはできない。

   弁明書に書かれている不適切な事務処理をした担当者の名前を教示してほしい。 事務処理をした関係者で返済すべきである。

   処分庁を信用して生活保護を受給しており,過支給について知ることができないにもかかわらず生活保護受給者のみに返済をさせるのは間違っている。 逆の立場であれば返済するのか。

 

4 再弁明書の内容

(1)障害者加算の認定誤りの内容

   障害者加算とは,障害の程度により生活保護費に区分ア又はイの額を加算するものである。

   審査請求人については,保護開始時の療育手帳の障害程度区分がA2(重度)であったため,区分アの障害者加算を計上していた。

   審査請求人は,平成○年○月に障害基礎年金(障害の程度:2級)が裁定されたが,療育手帳の障害程度区分に基づき引き続き加算額の多い区分アの障害者加算を計上していた。

   しかし,今回障害程度区分がA2の療育手帳の所持者であっても障害基礎年金(障害の程度:2級)を受給したものについては,それを優先し区分イの障害者加算を計上すべきであると会計検査院から鹿児島県に指摘があり,県下の全市町村がそれを受け,返還処理を行った次第である。

 

(2)会計検査院による会計検査の期間

    鹿児島県:令和○年○月○日から同月○日

    ○○○○○:令和○年○月○日

 

(3)返還金額を半額免除することの可否

   今回の法第63条による返還処理については,実施するかどうかの検討を行ったところであるが,鹿児島県からの通知文書,令和2年3月6日付け「障害者加算の認定にかかる事務の適正化について(依頼)」を受け,実施することとした。

   返還金額の決定において,返還金の全額,一部免除及び自立更生経費については,資力が当所の過支給であることを踏まえ,法第63条及び「東京都生活保護運用事例集(2017年度版)」(東京都福祉保健局。以下「東京都事例集」という。)の「第11 保護費の返還,徴収『問11-9 法第63条返還に係る免除の考え方』」により,該当しないものと判断した。

 

(4)本件処分の事務処理を行った担当者の名前

   本件処分については,担当者個人の判断で行ったものではなく,鹿児島県の「生活保護事務の手引き(事例  問答集)」(平成17年4月鹿児島県保健福祉部社会福祉課。以下「県手引」という。)の問7-7に基づき処分庁名で処分を決定したものであるため,担当者個人名の回答については差し控えたい。

 

5 再反論書の内容

(1)処分庁の担当者のミスで障害者加算が過支給となっているにもかかわらず,審査請求人だけに返還義務が課されるのはなぜか。

(2)県の指示に基づいて各市町村で均一に行われるべきものが,国の指摘を県が受け,県の指摘を市が受けたが,市がその内容を理解していなかったのではないのか。

(3)指摘を受けるまで誤りが分からないということは断じて許されない。

(4)市職員が統一的に指導されることを守っていなかったのではないのか。

 

6 審理員の質問に対する処分庁の回答

 (質問)

   障害者加算の認定における県の指導内容について

 (回答)

   弁明書にも添付した,県手引の問7-7が「鹿児島県の指導」の具体的内容を示すものであると認識している。

   なお,今回に限らず,療育手帳所持者の障害者加算の計上については,これまでも鹿児島県の担当者にも口頭で確認しており(ただし,この口頭確認の記録は取っていない。),県内市町村で統一された処理であると理解していた。

   また,平成29年3月以降又はそれ以前に行われた,毎年実施される鹿児島県の生活保護法施行事務監査でも,この加算処理が不適切であるとの指摘は一切受けたことはない。

 

 

理  由

1 本件に係る法令等の規定

(1)保護の目的・原理等について

   法第1条によると,「日本国憲法第25条に規定する理念に基づき,国が生活に困窮するすべての国民に対し,その困窮の程度に応じ,必要な保護を行い,その最低限度の生活を保障するとともに,その自立を助長することを目的とする。」とされている。

   法第4条第1項によると,「保護は,生活に困窮する者が,その利用し得る資産,能力その他あらゆるものをその最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる。」とされている。

   法第5条によると,「法第1条から第4条の規定は,この法律の基本原理であり,この法律の解釈及び運用は,すべてこの原理に基づいてされなければならない」とされている。

   法第8条第1項によると,「保護は,厚生労働大臣の定める基準により測定した要保護者の需要を基としそのうち,その者の金銭又は物品で満たすことのできない不足分を補う程度において行うものとする。」とされており,これを受けて,厚生労働大臣は,「生活保護法による保護の基準」(以下「保護基準」という。)を定めている。

   保護の実施に際しては,「生活保護法による保護の実施要領について」(厚生省社会局長通知。以下「局長通知」という。)や,「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」(厚生省社会局保護課長通知。以下「課長通知」という。)といった処理基準が国から示されており,このほかに,鹿児島県からは県手引において考え方が示されている。

 

(2)障害者加算について

  ア 対象について

    保護基準によると,障害者加算は次に掲げる者について行うこととされている。(保護基準別表第1第2章2(2))

  (ア)身体障害者福祉法施行規則 別表第5号に掲げる身体障害者障害程度等級表(以下「障害等級表」という。)の1級若しくは2級又は年金別表に定める1級のいずれかに該当する障害のある者(省略)(区 分ア)

  (イ)障害等級表の3級又は年金別表に定める2級のいずれかに該当する障害のある者(省略)。ただし,(ア)に該当する者を除く。(区分イ)

 

  イ  障害の程度の確認について

障害者加算を認定する際の障害の程度の確認等については,局長通知の第7の2の(2)のエにおいて,次のとおり定められている。

  (ア)障害の程度の判定は,原則として身体障害者手帳,国民年金証書,特別児童扶養手当証書又は福祉手当認定通知書により行うこと。

  (イ)身体障害者手帳,国民年金証書,特別児童扶養手当証書又は福祉手当認定通知書を所持していない者については,障害の程度の判定は,保護の実施機関の 指定する医師の診断書その他障害の程度が確認できる書類に基づき行うこと。

  (ウ)保護受給中の者について,月の途中で新たに障害者加算を認定し,又はその認定を変更し若しくはやめるべき事由が生じたときは,それらの事由の生じた翌月から加算に関する最低生活費の認定変更を行うこと。

   上記(イ)の「障害の程度が確認できる書類」については,精神障害者保健福祉手帳(課長通知第7の問65)のほか,療育手帳も含まれるものと解されている(県手引の問7-7「療育手帳所持者の障害者加算」)。

   療育手帳については,県手引によると,特別児童扶養手当の受給資格認定に係る判定に当たって,障害程度が重度の知的障害者(本県においては療育手帳の障害程度がA1,A2と記載されている者)は,療育手帳の提示があれば診断書を省略して差し支えないものとしている。 また,障害者加算については,特別児童扶養手当において重度の知的障害者は,同手当の1級に該当するとされていることから,年金別表に定める1級に該当する者とされている。

 

(3)費用返還義務について

   法第63条によると,「被保護者が,急迫の場合等において資力があるにもかかわらず,保護を受けたときは,保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して,すみやかに,その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実 施機関の定める額を返還しなければならない。」とされている。

   なお,同条にいう「急迫の場合等」の「等」とは,「調査不十分のため資力があるにもかかわらず資力なしと誤認した場合或いは保護の実施機関が保護の程度の決定を誤って,不当に高額の決定をした場合等である」(小山進次郎「生活保護法の解釈と運用」(中央社会福祉協議会1979年)649頁)と解されている。

 

(4)費用返還額の決定について

   法第63条に基づく費用返還の取扱いについては,「生活保護費の費用返還及び費用徴収決定の取扱いについて」(厚生労働省 社会・援護局保護課長通知。以下「平成24年課長通知」という。)の1において示 されている。

   平成24年課長通知の1(1)によると,「法第63条に基づく費用返還については,原則,全額を返還対象とすること。 ただし,全額を返還対象とすることによって当該被保護世帯の自立が著しく阻害されると認められる場合は,次に定める範囲の額 を返還額から控除して差し支えない。」とされており,この「次に定める範囲の額」として,「④ 当該世帯の自立更生のためのやむを得ない用途に充てられたものであって,地域住民との均衡を考慮し,社会通念上容認される程度として保護の実施機関が認めた額。」など自立更生費の控除が認められるものが①から⑥まで挙げられている。

   また,「生活保護問答集について」(厚生労働省 社会・援護局 保護課長事務連絡。以下「問答集」という。)問13-5(3)によると,返還額の決定は,担当職員の判断で安易に行うことなく,そのような決定を適当とする事情を具体的かつ明確にした上で,実施機関の意思決定として行うこととされている。

 

2 上記規定に照らした本件処分に関する考え方

(1)障害者加算の認定変更について

   処分庁は,審査請求人世帯の障害者加算について,平成○年○月に障害基礎年金(障害の程度:2級)を受給した後の同年○月以降においても療育手帳の障害程度区分(A2)に基づいて区分アを認定していたところ,こうした認定事務が不適切である旨の会計実地検査における指摘を踏まえた鹿児島県からの通知を受けて,年金別表に定める障害の程度(2級)に基づき令和○年○月○日付けで区分イに変更していることが弁明書,弁明書添付資料及び処分庁が審理員に提出した資料によって確認できる。

   当該障害者加算の認定変更は,保護基準及び局長通知に基づき適正に行われていることが認められる。

 

(2)法第63条の適用について

   処分庁は,審査請求人の障害基礎年金の受給から上記(1)の障害者加算の認定変更までの間に発生した保護費の過支給額(平成○年○月から令和○年○月までの合計○○円)について,法第63条にいう「資力」が発生したと認定し,審査請求人に対し本件処分を行っていることが弁明書及びその添付資料によって確認できる。

   本件における保護費の過支給額は,上記(1)のとおり処分庁の障害者加算の認定誤りによって生じているところ,上記1(3)のとおり,法第63条にいう「急迫の場合等」には,保護の実施機関が保護費を不当に高額に決定した場合等も含まれると解されていることから,本件処分における法第63条の適用に違法・不当な点は認められない。

 

(3)費用返還額の決定について

   処分庁は,上記(2)において資力として認定した保護費の過支給額のうち,その全額に相当する○○円を審査請求人世帯の費用返還額として決定していることが,処分通知書,弁明書及びその添付資料によって確認できる。

   一方,上記1(4)のとおり,平成24年課長通知は,原則として全額を返還対象とするものとされているが,全額を返還対象とすることによって当該被保護世帯の自立が著しく阻害されると認められる場合は,返還額から自立更生費を控除することを認めている。

   また,問答集によると,費用返還額の決定は,担当職員の判断で安易に行うことなく,そのような決定を適当とする事情を具体的かつ明確にした上で実施機関の意思決定として行うこととされている。

   本件処分における費用返還対象額は○○円と高額であるとも考えられることから,費用返還額の決定に当たっては,自立更生費の控除について調査・検討の必要性が高いと認められるところ,審理員が処分庁に行った質問への回答によると,処分庁は,東京都事例集の問11-9で示されている,返還額を決定する際の免除の範囲及び額の認定について,誤って加算を計上した場合等は,本来支給すべきでなかったもので返還を求めるべきであり,自立更生免除の考慮の幅は狭いと考えることが妥当との考え方を踏まえ,該当しないものと判断した旨回答し,提出された資料では,検討の前提となる審査請求人の資産,収入の状況及び生活実態等の調査を実施した形跡が確認できなかった。

   このことを踏まえると,処分庁は,本件処分を行うに当たり,審査請求人に対し,自立更生費の控除について必要な調査·検討を尽くしていないことから,本件処分は不当な処分であると言わざるを得ない

 

3 結論

  以上のとおり,本件審査請求には理由があることから,行政不服審査法(平成26年法律第68号)第46条第1項の規定に基づき,主文のとおり裁決する。

 

 

  令和2年12月17日

                     鹿児島県知事  塩 田  康 一