【問】先日,精神福祉手帳2級の交付を受けましたが,初診日から1年6か月を経過した後に 手帳の交付を受けた場合でなければ,障害者加算は支給されないのですか?

 

 この【問】は,このブログの閲覧者の方からの質問を参考に作成したものです。

 

 私は 生活保護受給中で,うつ病により約1年間 通院しており,先日,精神障害者保健福祉手帳2級の交付を受けました。 そのとき,精神障害者保健福祉手帳の担当者から,「初診日から1年6か月が経過すると,障害者加算が支給されると思われるので,担当ケースワーカーに伝えてください。」と言われました。

 そこで,担当ケースワーカーに そのことを伝えたところ,担当ケースワーカーから,「あと6か月を経過したとしても,障害者加算は支給できません。 次の精神障害者保健福祉手帳の更新により,再び障害等級が2級になったときは,障害者加算を支給できます。」と言われたのですが,どちらの説明が正しいのか,教えてください。

 

 

【答】

 まず,あなたは,障害年金の納付要件を満たしていますか?

 障害者加算の認定にあたっては,障害年金の障害等級の方が,精神障害者保健福祉手帳の障害等級よりも優先します。

 そのため,「あなたが 障害年金の納付要件を満たしている場合」は,まず障害年金の裁定請求手続きを行い,裁定請求日から障害年金の裁定結果が出るまでの間は,精神障害者保健福祉手帳2級に基づき,障害者加算が支給されますが,障害年金が却下されたときは,却下された日の翌月から障害者加算は削除されます。

 

 次に,「あなたが 障害年金の納付要件を満たしてないため,障害年金の受給権がない場合」は,参考資料の厚生労働省の保護課長通知(問 第7の65)により,精神障害者保健福祉手帳の交付年月日 又は更新年月日が,初診日から1年6か月を経過している場合に限り,精神障害者保健福祉手帳の障害等級に基づき,障害者加算が支給されます

 

 したがって,あなたが所持している精神障害者保健福祉手帳は,初診日から1年6か月を経過する前に 交付されたものですので,現在の精神障害者保健福祉手帳に基づいては,障害者加算は支給されないことになります。

 そして,精神障害者保健福祉手帳の次の更新日は,初診日から1年6か月を経過していますので,更新後も 障害等級が2級のときは,精神障害者保健福祉手帳2級に基づき,更新月から障害者加算が支給されることになります(ただし,障害年金の納付要件を満たしてないなど,障害年金の受給権がない場合に限ります。)

 

 あなたの担当ケースワーカーの説明は,上記の保護課長通知に基づいており,正しいものです。

 おそらく精神障害者保健福祉手帳の担当者は,生活保護業務を担当しているわけではないので,上記の保護課長通知をあまり知らなかったのだと思います。

 

 あなたは,精神障害者保健福祉手帳の交付申請時期が,少し早かったと思います。

 初診日から1年6か月経過後に,精神障害者保健福祉手帳の交付申請を行い,2級に該当した場合は,精神障害者保健福祉手帳の交付日の翌月から障害者加算が支給されます(ただし,精神障害者保健福祉手帳の交付日の翌月ではなく,精神障害者保健福祉手帳の福祉事務所への届出日の翌月から障害者加算を支給している福祉事務所があるかもしれません。)

 

 この保護課長通知については,時々,解釈を間違える福祉事務所があり,数年前に,ある市の福祉事務所では,精神障害者保健福祉手帳の交付日が,初診日から1年6か月を経過していないにも関わらず,初診日から1年6か月を経過した日の翌月から,障害者加算を認定してよいと勘違いして 運用していました。 そのため,会計検査院の指摘を受け,5年を限度にさかのぼって,障害者加算相当額の保護費を返還しなければならなくなったと聞いています(その結果,返還処分の取消しを求める審査請求が 数件 出されたようです。)。

 

 「精神障害者保健福祉手帳の交付年月日 又は更新年月日が,初診日から1年6か月を経過している場合」とした理由は,「障害年金の障害認定日が,初診日から1年6か月を経過した日」とされていますので,それに合わせて,初診日から1年6か月を経過した日を 症状が固定した日とし,この症状固定日以降に,症状が固定した状態における診断書を添付して,精神障害者保健福祉手帳の交付 又は更新申請を行い,当該手帳の交付 又は更新を受けた場合に限り,精神障害者保健福祉手帳の障害等級に基づき 障害者加算を支給するとしたものであると考えられます。

 

 しかし,初診日から1年6か月を経過する前に,精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた場合は,次の更新日までの2年間を待って 更新手続きを行い,再び障害等級2級に該当しなければ,障害者加算が支給されないという問題がありますが, 生活保護事務は 法定受託事務であり,本来は 国の事務となっていますので,県や市の福祉事務所としては,国の通知(上記の厚生労働省保護課長通知)が 明らかに誤りでない限り,それに従わなければならないということになっています。

 

 また,精神障害者保健福祉手帳が交付されたときの手帳交付日は,手帳交付申請日となります(手帳交付日は,手帳交付申請日までさかのぼります。)。

 さらに,精神障害者保健福祉手帳の更新手続きは,有効期限の3か月前から可能ですので,手続きを忘れないようにしてください(診断書料は,ケースワーカーに連絡すれば,福祉事務所から病院へ支払われ,原則として 自己負担はありません。)。

 

 なお,あなたの担当ケースワーカーは,あなたに上記のようなことや 保護課長通知の内容などを,きちんと説明すべきであったと思います。

 

 最後に,このブログの6月30日の記事「生活保護と障害者加算」と 12月14日の記事「生活保護と精神障害者保健福祉手帳」も合わせて,ご覧ください。

 

 

 

(参考)

○厚生労働省 保護課長通知

〔「障害の程度が確認できる書類」〕

問(第7の65)

 局長通知第7の2の(2)のエの(イ)にいう「障害の程度が確認できる書類」には,精神障害者保健福祉手帳が含まれるものとして解して差し支えないか。

 

 精神障害者保健福祉手帳の交付年月日 又は 更新年月日が,障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた(注:初診日)後,1年6月を経過している場合に限,お見込みのとおり取り扱って差し支えない。 この場合において,同手帳の1級に該当する障害は国民年金法施行令別表に定める1級の障害と,同手帳の2級に該当する障害は同別表に定める2級の障害とそれぞれ認定するものとする。

 

 なお,当該傷病について初めて医師の診療を受けた日の確認は,都道府県精神保健福祉主管部局において保管する当該手帳を発行した際の医師の診断書(写しを含む)を確認することにより行うものとする。

 おって,市町村において当該手帳を発行した際の医師の診断書を保管する場合は,当該診断書を確認することにより行うこととして差し支えない。

 

 

精神障害者保健福祉手帳による障害者加算の障害の程度の判定について

 (平成7年9月27日,社援保第218号)(各都道府県・各指定都市・各中核市民 生主管部(局)長あて厚生省社会・援護局保護課長通知)

 

 今般,精神保健法の一部を改正する法律(平成7年法律第94号)による改正後の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)第45条の規定により創設された「精神障害者保健福祉手帳」の制度が平成7年10月1日から実施されることに伴い,昭和38年4月1日社保第34号当職通知「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」及び 昭和40年5月14日社保第284号当職通知「生活保護法による保護における障害者加算等の認定について」を別添のとおり改正したが,その要点は左記のとおりであるので,了知の上,保護の実施に遺憾のなきを期されたい。

 

 

 精神障害者の障害者加算の認定に係る障害の程度の判定は,次のとおり行うことができるものとしたこと。

 

1 障害基礎年金の受給権を有する者の場合

(1)障害の程度の判定は,原則として障害基礎年金(以下「年金」という。)に係る国民年金証書により行うが, 精神障害者保健福祉手帳(以下「手帳」という。)を所持している者年金の裁定を申請中である場合には,手帳の交付年月日又は更新年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過している場合に限り,年金の裁定が行われるまでの間は 手帳に記載する障害の程度により障害者加算に係る障害の程度を判定できるものとしたこと

 

(2)年金の裁定が却下された後,手帳の交付又は更新を受けた者については,年金の裁定の再申請を指示するとともに,再申請に係る年金の裁定が行われるまでの間は,当該手帳に記載する障害の程度により障害者加算に係る障害の程度の判定を行うことができるものとしたこと。

 

(3)障害の程度は,手帳の1級に該当する障害は国民年金法施行令(昭和34年政令第184号)別表に定める1級の障害と,同手帳の2級に該当する障害は同別表に定める2級の障害と,それぞれ認定するものとしたこと。

 

(4)手帳の交付年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過していることの確認は,都道府県精神保健福祉主管部局において保管する当該手帳を発行した際の医師の診断書(写しを含む。以下同じ。)を確認することにより行うものとしたこと。

 また,保健所において当該手帳を発行した際の医師の診断書を保管する場合は,当該診断書を確認することにより行うこととしたこと。

 

2 障害年金の受給権を有する者以外の場合

(1)手帳の交付年月日又は更新年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過している者については,手帳に記載する障害の程度により障害者加算に係る障害の程度を判定できるものとしたこと。

 

(2)障害の程度は,手帳の1級に該当する障害は国民年金法施行令(昭和34年政令第184号)別表に定める1級の障害と,同手帳の2級に該当する障害は同別表に定める2級の障害と,それぞれ認定するものとしたこと。

 

(3)手帳の交付年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過していることの確認は,都道府県精神保健福祉主管部局において保管する当該手帳を発行した際の医師の診断書を確認することにより行うものとしたこと。

 また,保健所において当該手帳を発行した際の医師の診断書を保管する場合は,当該診断書を確認することにより行うこととしたこと。