【問】ケースワーカーから就労指導を受け,求職活動を行っていますが,なかなか就職できません。このままでは,就労指導違反により 生活保護が停止又は廃止になるのではないかと心配しています。

 

 私は,病気で働くことができなかったので,生活保護を受けていますが,ケースワーカーから,病気は治ってきており,主治医は 稼働可能と言っているので,求職活動を行い,その活動状況を報告するように言われています。

 しかし,稼働可能と言われても,私は人間関係が苦手であり,また,面接のときに緊張しやすいので,面接に失敗することが多く,未だ就職できていません。

 ケースワーカーからは,就労指導を始めて,1年以上が経過するので,そろそろ就職してほしいと何度も言われていますので,就労指導違反により生活保護が停止又は廃止になるのではないかと心配しています。 何かアドバイスがありありましたら,お願いします。

 

 

【答】

 ケースワーカーが就労指導を行う場合は,まず主治医に稼働可能かどうかを問い合わせます。 主治医も忙しく,なかなか時間が取れないため,通常は,「外来患者調査票」のような書類を病院に送り,主治医に記入してもらい返送を依頼します。 

 「外来患者調査票」などの項目は,病名や病状,稼働能力などで,「稼働能力」については,通常,「① 現状のまま稼働可能, ② 通院しながら稼働可能, ③ 稼働可能な仕事は 重労働・中程度作業・軽作業(事務的な仕事), ④ 現状では稼働不能, ⑤ あと○か月で稼働可能など」に分かれており,いずれか該当するものに○印を付け,コメントがあれば書いてもらいます。

 

 その結果,主治医が稼働可能と判断した場合は,就労指導を行うことになります。 就労指導を行う場合は,近年は 福祉事務所内に ハローワークの出先事務所(職員2名程度:名称は「就労支援コーナー」など)が設置されていますので,そこに行ってもらい,担当のハローワーク職員と協議しながら,希望する職種や勤務条件等に合致する事業所を紹介してもらい,面接に行くことになります。

 また,就労指導を行ったり 就労先を紹介したりする民間会社に就労指導等を委託することもあります。 

 

 つまり,ケースワーカーが就労指導を行うと言っても,福祉事務所が具体的な就労先の情報を持っているわけではないので,就労支援コーナーやハローワークなどで求職活動を行ってくださいと指導することになり,福祉事務所内の就労支援コーナーで,担当者1名が付いて 求職活動を行った方が,早く就職が決まることが多いと思います(通常,一般のハローワークでは,毎回,担当者が代わるため)。

 

 主治医が「稼働可能」という判断を示さない限り,ケースワーカーは就労指導を行うことができないため,就労指導については,主治医が 病状が回復し 稼働可能と判断するかどうかにかかっていることになります。

 また,求職活動を行っても,すぐに就職が決まるわけではないので,きちんと求職活動を行っても,会社に採用されなければ,就労できず 収入はないわけですから,通常は 就職が決まり,最低生活費を超える稼働収入を得てからでないと,生活保護の廃止はできません。

 さらに,稼働を開始しても,仕事に慣れるまでの間は,勤務時間や勤務日数が少なく,給与も少ない場合は,稼働しながら,生活保護を受け,給与だけでは最低生活費に足りない分を 保護費として支給を受けることも可能です。

 

 ケースワーカーが就労指導を行うということは,主治医が稼働可能との判断した ということになりますので,そのときは,主治医に対して,具体的な稼働能力について尋ねてください。 主治医は 忙しく時間が取れないことが多いため,ケースワーカーは,直接 主治医から病状や稼働能力等を聴取することは少なく,主治医が記入した「外来患者調査票」などの書類を見て,病状や稼働能力等を把握します。

 したがって,主治医に「① どの程度(重労働・中程度作業・軽作業)の仕事であれば,稼働可能であるのか。 ② 1日当たり何時間の稼働が可能であるのか。 ③ 就労にあたって,どうような点(通院しながら稼働可能など)に気を付ければよいのか。」などを詳しく聞いて,それをケースワーカーに説明し,稼働可能な範囲の仕事を探せばよいと思います。

 

 まず治療に専念し,病状が回復すれば,主治医が 稼働可能という判断を出しますので,それから,ケースワーカーによる就労指導という段階に移っていきます。 求職活動を行い,再び病状が悪化した場合は,主治医にそのことを説明すれば,再び稼働不能という判断が示されると思います。

 主治医は,病状が回復してないにもかかわらず,稼働可能との判断は出すことはありませんので,まず治療に専念し 病気を治すことに努めてください。 その際に 真面目に通院していないときは,治療専念の指導指示が行われ,改善されないときは,治療専念の指導指示違反で保護の停止・廃止が検討されることもありますので,気を付けてください。

 

 また,ケースワーカーが口頭で就労指導を行っても,真面目に求職活動を行わないときは,福祉事務所は,文書による指導指示(就労指導)を行います。 文書による指導指示(就労指導)に従わないときは,指導指示違反により,保護の停止・廃止処分が行われることがありますが,通常では,真面目に求職活動を行っても,面接で失敗し,なかなか就職が決まらないこともあります。

 就職というのは,本人がいくら努力しても,必ずしも実現するものではなく,会社等が雇用しないと,どうしようもありません。 例えば,社交性があまりなく,あがり症で,就職の面接に失敗し,就職までに時間がかかる人がいます。

 また,折角 就職しても,人間関係が苦手で,職場に馴染めず,すぐに仕事を辞めてしまう人もいます。 そいう人に対して,就労指導に従わなかったという理由で,生活保護を廃止することが可能でしょうか。

 

 例えば,平成21年3月18日の厚生労働省社会・援護局保護課長通知職や住まいを失った方々への支援の徹底について」(「参考資料」を参照には、「稼働能力の活用の判断に当たっては,保護の実施要領の規定に従い, ① 稼働能力があるか否か, ② その稼働能力を前提として,その能力を活用する意思があるか否か, ③ 実際に稼働能力を活用する就労の場を得ることができるか否か,により判断することとなる。

 したがって,単に稼働能力があることをもって保護の要件を欠くものではないが,‥‥‥‥」とされています。

 

 通常は,きちんと真面目に求職活動を行い,ハローワークの紹介で面接に行っても,就職できない場合は,「就労指導違反」により生活保護を廃止しすることはできないのですが,無理やり 生活保護を廃止する福祉事務所があるかもしれません。

 仮に生活保護を廃止された場合は,弁護士に依頼し,都道府県知事へ保護廃止処分の取り消しを求める審査請求を行うとともに,保護廃止処分の執行停止の申立てを行い,裁判所が認めた場合は,生活保護が再開され,保護費が支給されます。

 

 しかし,保護廃止処分の執行停止の申立てから執行停止の決定まで,1か月半~2か月はかかり,その間は生活保護が適用されないという問題があります(なお,審査請求の結果,保護廃止処分の取り消しが認められたときは,保護廃止処分の執行停止の申立てから執行停止の決定までの間の保護費も支給されます。)。

 生活保護の廃止により,直ちに生活に困窮する場合は,裁判所は,通常,廃止処分の執行停止の申立てを認める可能性は高いと思います。

 

 次に,保護廃止になった後,保護申請を行った場合は,当該福祉事務所は,保護開始申請書は受理するかもしれませんが,保護廃止時点と状況が改善されてないという理由で,申請を却下するかもしれません。

 

 稼働能力があり,求職活動を行っても 就職できず,生活に困窮している場合は,就職し 稼働収入が入るまでの間は,保護を適用しなければならないのですが,それを無視して,保護申請を却下する福祉事務所も,現実には存在します。

 この場合,保護申請却下処分の取り消しを求める審査請求を行っても,大阪府県知事の裁決が出るまで,1年近くかかることがありますので,注意する必要があります。

 

 上記のとおり 保護の停止・廃止処分が行われた後で,福祉事務所と戦う方法はいくつかありますが,いずれの方法も 一定の時間がかかりますので,できるだけ保護の停止・廃止処分が行われる前に,福祉事務所と戦った方がよいと思います。

 仮に福祉事務所が不適切な就労指導等を行ったときは,ケースワーカーとのやり取りを録音するとともに,個人情報保護条例に基づき,「ケース記録」や「保護開始時の記録」などの個人情報の開示請求を行い,事実関係を確認しましょう。

 そして,生活困窮者支援団体や 法テラスを通じて 弁護士・司法書士などの生活保護制度の専門家に相談し,その録音を聞いてもらいましょう。 福祉事務所が不適切な就労指導等を行ったときは,生活困窮者支援団体や 弁護士・司法書士などの生活保護制度の専門家に副事務所への同行を依頼しましょう。

 一人で福祉事務所とは戦わないでください。 生活保護制度の専門家でない者が福祉事務所と戦おうとしても,ケースワーカーや査察指導員などは,適当なことを言って,逃げようとします。 そのため,必ず生活保護制度の専門家の支援を受けて,福祉事務所と戦ってください。

 

 なお,「就労指導」については,このブログの10月1日の記事「生活保護と指導指示」についても,併せてご覧ください。

 

 

 

(参考)       

                            社援保発第0318001号

     平成21年3月18日 

 

  都道府県

各 指定都市 民生主管部(局)長 殿

  中 核 市

 

 

                    厚生労働省社会・援護局保護課長

 

 

        職や住まいを失った方々への支援の徹底について

 

 雇用失業情勢が厳しい中,全国的に生活保護受給者の増加傾向が続いており,昨年12月の被保護実人員は約160万人となっている。 今後,景気がさらに後退すれば,職や住まいを失い,生活に困窮する方がさらに増加すると考えられる。

 政府では,昨年末以降,職や住まいを失った方々の住居の確保や生計の維持等のための支援に全力で取り組んでいるところであるが,これらの施策を講じてもなお生活に困窮する方は,生活保護の開始の申請に至ることが考えられる。

 各実施機関においては,生活に困窮する方々を早期に発見し,本人の事情や状況に応じた支援を関係機関と連携して迅速に実施することが必要である。 このため,今般,下記のとおり,特に支援に当たって徹底していただきたい事項をとりまとめたので,各自治体におかれては,ホームレス対策担当部局等と連携の上,これらの施策の充実に努められたい。

 

 

1 今後の生活困窮者の増加に対応するために実施すべき事項

 (1) 福祉事務所の体制整備

 各自治体においては,今後の生活困窮者の増加に適切に対応するため,福祉事務所の人員体制の強化を検討されたい。 特に,ケースワーカーの増員を図るだけでなく,事務補助員,就労支援専門員等の体制を充実することも併せて検討されたい。

 厚生労働省においては,人員体制の整備について,セーフティネット支援対策等事業費補助金により10分の10の国庫補助による支援を実施しているところである。 また,別添のとおり,政府全体の取組として雇用機会の緊急確保のため緊急雇用創出事業等が実施されており,この事業の取組例の1つとして「生活保護制度円滑実施支援事業」をお示ししているところである。これらの施策により,福祉事務所の人員体制の整備について財政的支援を受けることも可能であることから,その活用を積極的に検討されたい。

 また,各自治体においては,生活保護の申請の急増時などに臨機応変に適切な人員体制がとれるよう,あらかじめ応援体制等について検討されたい。

 

(2)他法他施策等の情報提供の徹底

 ハローワーク等の関係機関においては,離職者に対する支援の充実が図られている。 具体的には,ハローワークにおいては,社員寮等の退去を余儀なくされた方々への住宅確保等のための相談支援(雇用促進住宅への入居あっせん並びに住宅入居初期費用,家賃補助費及び生活・就職活動費の資金の貸付に関する相談)を実施している。 また,入居可能な公営住宅及び独立行政法人都市再生機構の賃貸住宅(UR住宅)の情報も提供している。

 このため,保護の実施機関においては,ハローワーク等と日ごろから「顔の見える関係」を構築し,相談者のニーズに応じて,ハローワーク等の窓口に相談者を確実につなぐとともに,就職安定資金などの他施策についての情報の提供を行うなど必要な支援を行われたい。

 

(3)都道府県等によるホームレス自立支援センターやホームレス緊急一時宿泊事業(シェルター)の実施の強化

 ホームレスに対して地域の実情に応じ,ホームレス自立支援センターやホームレス緊急一時宿泊事業(シェルター)の実施などの対策がとられており,直ちに借家等で自活することは困難であるが 就労意欲と能力のある者については,ホームレス自立支援センター等において支援を行う必要がある。

 これらの施設は既存建築物等を活用し,又は借り上げて設置することについてもセーフティネット支援対策事業費補助金の補助対象としたところである。 各自治体においては,今後の生活困窮者の増加に備えて,早急にこれらの施設の整備に取り組まれたい。

 

(4)現在地保護の徹底

 生活保護法(以下「法」という。)第19条第1項第2号は,「居住地がないか,又は明らかでない要保護者であって,その管理に属する福祉事務所の所管区域内に現在地を有するもの」について,その福祉事務所が保護を決定し,実施するものと定めている。

 このため,「住まい」のない者については,その現在地を所管する保護の実施機関が生活保護の申請を受け付けることとなる。 なお,申請の後,保護を決定するに当たっては,法第30条において「生活扶助は,被保護者の居宅において行うものとする。ただし,これによることが適当でないとき,(中略)被保護者を救護施設,更生施設若しくはその他の適当な施設に入所(後略)」とされていることから,アパートや施設などに居住していただくこととなる。

 また,保護の実施機関においては,相談者の意に反して他の自治体への移動を勧める行為は認められないものであり,相談を受けた現在地の実施機関が必要な支援を行われたい

 

(5)生活困窮者の早期発見

 生活困窮者の中には,極度に困窮した状態になるまで行政機関等に相談することがなく,結果として労働施策や福祉施策等による支援を受ける時間的余裕がない者もいる。 このような方については,本来,その前段階で,行政機関等が生活相談を実施し,必要な公的支援を紹介又は実施することが必要である。

 このため,保護の実施機関においては,保健福祉部局及び社会保険・水道・住宅担当部局,ハローワーク,求職者総合支援センター等の関係機関並びに民生委員・児童委員との連携を図り,生活困窮者の情報が福祉事務所の窓口につながるような仕組みづくりを推進されたい。

 

 

2 保護の申請から保護の適用までの対応

(1)居宅生活の可否についての判断

 住居を喪失した者に対して生活保護を適用するに当たっては,申請者の状況に応じた保護を行うため,まず申請者がどのような問題(身体的・精神的状況のほか,日常生活管理能力,金銭管理能力,稼働能力等)を抱えているのか十分に把握する必要がある。

 特に,保護を適用する際に,居宅生活が適当であるのか,福祉的な援助等が必要であるため,保護施設等又は自立支援センターヘの入所が適当であるのかを判断するために,アセスメントを十分に行われたい。 なお,住宅扶助費として敷金等を受給できる者は,居宅生活ができると認められる者に限られるので留意されたい。

 

(2)住居の確保等についての情報提供及び関係機関との連携

 居宅生活が可能と認められる者による住居の確保を支援するため,各自治体においては,例えば,不動産関係団体と連携し,住居を喪失した者や保証人が得られない者に対してアパート等をあっせんする不動産業者の情報を収集するなど,必要に応じて,住居に関する情報を提供できるよう,その仕組みづくりに努められたい。

 また,「直ちに居宅生活を送ることが困難である」と判断された者や,居宅生活が可能か否かの判断ができない者については,施設等における支援が,一定の期間 必要である。 このため,各自治体においては,ホームレス自立支援センターやホームレス緊急一時宿泊事業(シェルター)等の必要な施設の確保を図るとともに,関係部局と連携を図られたい。

 

(3)適切な審査の実施

 生活保護の決定に当たっては,急迫の場合を除き,通常の手順に従って必要な審査を行った上で,法定期間内での適切な処理に努める必要がある。

 特に,稼働能力の活用の判断に当たっては,保護の実施要領の規定に従い, ① 稼働能力があるか否か, ② その稼働能力を前提として,その能力を活用する意思があるか否か,③ 実際に稼働能力を活用する就労の場を得ることができるか否か,により判断することとなる。

 したがって,単に稼働能力があることをもって保護の要件を欠くものではないが,一方で,実際に稼働能力を活用する就労の場を得られるにもかかわらず職に就くことを拒んでいる場合は,保護の要件を欠くこととなる。 このため,本人の生活歴・職歴等を聴取し,本人の稼働能力に見合った就労の場が得られるかどうかについて十分見極め,必要な支援を行われたい

 

(4)保護の開始決定における留意点

 保護の開始決定に当たっては,特に次の点に留意されたい。

 

  ア 保護の開始決定は,申請者の住居が確保されたとき(アパート等に入居したとき,又は入居できることが確実になったとき)以降,又は施設等に入所したとき以降に行うこと。 なお,住居が確保されていないことを理由として,保護申請を却下することはできないものであること

 

  イ 保護の開始日は,申請日以降であって,要保護状態にあると判定された日とすることとしている。 したがって,申請日以降に他の支援等により一定期間 要保護状態になかったことが明らかである場合等を除き,通常,その申請日が保護の開始日となることに留意すること。 その際,生活扶助費については,第1類及び第2類の表に掲げる額並びに加算額等を合算した額を計上すること。

 

  ウ アパート等の住居を確保するまでの間に,一時的にカプセルホテル,簡易宿泊所等に 宿泊した場合,これらの宿泊料については,当該月のアパート等の家賃に要する額と合算して,1か月の住宅扶助費の基準額の範囲内で支給して差し支えないものであること。

 

 

3 保護の適用後の就労支援の実施

 生活保護制度への国民の信頼を確保するためには,被保護者の就労支援を徹底 し,自立を助長することが不可欠である。

 とりわけ,離職者の大多数は「就労の能力」や「就労の意思」を有していると考えられる。このため,離職者である生活保護受給者が「就労の場」を得ることができるよう,就労支援専門員等による就労支援をきめ細かく実施するとともに,ハローワーク等と連携し,生活保護受給者等就労支援事業や自立支援プログラムなどを活用されたい。 その際,各自治体においては,就労支援専門員等の配置を推進されたい。

 なお,就労支援専門員等の支援を拒み,かつ積極的に「就労の場」を得る努力をしない者については,保 護の要件を欠くものであり,法第27条に基づく指導指示を徹底することが必要である。 さらに,指導指示に違反する場合は,保護の停廃止を含めた厳格な対応を検討されたい。