6【問】精神障害者保健福祉手帳の障害等級に基づき,今まで障害者加算を支給されていました。 しかし,担当ケースワーカーから,それは誤りであったので,過去5年以内にさかのぼって,障害者加算分の生活保護費を返還するように言われましたが,返還しなければならないのでしょうか。

 

 私は,精神障害者保健福祉手帳2級で,障害厚生年金3級を受給していますが,これまで 精神障害者保健福祉手帳2級に基づき 障害者加算を支給されていました。

 しかし,先日,A市福祉事務所において,会計検査院により 障害者加算の認定方法について指摘がありました。 その内容は,障害者加算については,障害年金の障害等級の方が,精神障害者保健福祉手帳の障害等級に優先するため,精神障害者保健福祉手帳2級で,障害厚生年金3級の場合は,障害厚生年金3級の方が優先するので,障害者加算を支給することはできないというものでした。

 そのため,私の担当のB市福祉事務所でも,障害者加算の認定の見直しが行われ,その結果,福祉事務所から,障害者加算を認定された2年前にさかのぼって,障害者加算に相当する金額の生活保護費を返還するように言われました。

 しかし,障害者加算の認定を間違っていたのは,福祉事務所であり,私は何もミスをしてないにもかかわらず,過去2年分の障害者加算に相当する生活保護費35万円を返還しなければならないのは,おかしいと思います。 どうにかならないのでしょうか。

 

 

【答】

 「精神障害者保健福祉手帳」について,少し説明させていただきます。

 精神障害者保健福祉手帳とは,平成7年に改正された精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)第45条に規定された精神障害者に対する手帳であり,身体障害者手帳や療育手帳よりもにできたものです。

 身体障害者手帳や療育手帳と異なり,精神障害者保健福祉手帳には2年間の有効期限があり,2年毎に医師の診断書を付けて 更新手続きを行う必要があります(診断書料は,ケースワーカーに連絡すれば,福祉事務所から病院へ支払われ,原則として 自己負担はありません。 また,手帳の更新手続きは,有効期限の3か月前から可能ですので,手続きを忘れないようにしてください。)。

 

 精神障害者保健福祉手帳の障害等級の認定基準は,障害年金の障害等級の認定基準をもとにつくられたものですから,精神障害者保健福祉手帳の障害等級と 障害年金の障害等級は,基本的に同じであるはずですが, 実態としては,精神障害者保健福祉手帳の障害等級よりも 障害年金の障害等級の方が,厳しく認定されています

 これは,精神障害者保健福祉手帳の障害等級の認定が,金銭の支給に直結しないことに対して,障害年金の障害等級の認定が,障害年金という金銭の支給に直結するためではないかと思われます。

 

 また,精神障害者保健福祉手帳の障害等級と 障害年金の障害等級が異なる場合は,障害年金の障害等級が,精神障害者保健福祉手帳の障害等級優先することとされています。

 この理由は,局長通知第7-2-(2)-エ-(ア)において,

障害の程度の判定は,原則として身体障害者手帳,国民年金証書,特別児童扶養手当証書 又は 福祉手当認定通知書により行うこと。 身体障害者手帳,国民年金証書,特別児童扶養手当証書 又は 福祉手当認定通知書を所持していない者については,障害の程度の判定は,保護の実施機関の指定する医師の診断書 その他障害の程度が確認できる書類に基づき行うこと。」

とされており,また,厚生労働省 保護課長通知 問第7の65において,

(問)局長通知第7の2の(2)のエの(イ)にいう「障害の程度が確認できる書類」には,精神障害者保健福祉手帳が含まれるものと解して差し支えないか。 

(答)精神障害者保健福祉手帳交付年月日 又は 更新年月日が,障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた=初診日)後,1年6月を経過している場合に限り,お見込みのとおり取り扱って差し支えない。 この場合において,同手帳の1級に該当する障害は国民年金法施行令別表に定める1級の障害と,同手帳の2級に該当する障害は同別表に定める2級の障害とそれぞれ認定するものとする。

 なお,当該傷病について初めて医師の診療を受けた日の確認は,都道府県精神保健福祉主管部局において保管する当該手帳を発行した際の医師の診断書を確認することにより行うものとする。

 おって,市町村において当該手帳を発行した際の医師の診断書を保管する場合は,当該診断書を確認することにより行うこととして差し支えない。」

とされているからです。

 

 つまり,障害の程度の判定は,原則として身体障害者手帳,国民年金証書,特別児童扶養手当証書 又は 福祉手当認定通知書により行うこと, また,身体障害者手帳,国民年金証書,特別児童扶養手当証書 又は 福祉手当認定通知書を所持していない者については,障害の程度の判定は,保護の実施機関の指定する医師の診断書 その他障害の程度が確認できる書類に基づき行うこととされており, 精神障害者保健福祉手帳は,この「その他障害の程度が確認できる書類」に該当し,障害の程度を判定する資料としては,精神障害者保健福祉手帳は,国民年金証書よりも低位に位置づけられているためです。

(なお,身障手帳の障害等級と障害年金の障害等級は,同列ですので,どちらか高い方の障害等級に基づいて障害者加算を認定しても差し支えありません。)

 

 しかし,障害年金の納付要件を満たしてないなど 障害年金の受給権がない場合は,障害年金の裁定請求手続きを行うことができないため,精神障害者保健福祉手帳の障害等級に基づき 障害者加算を認定することができることとなっています。

 

 

 ところで,上記の【問】のような問題は,毎年,各地の福祉事務所で発生しています(最近では,秋田市や 岩手県盛岡市で発生。)。 この理由は,「精神障害者保健福祉手帳による障害者加算の障害の程度の判定について」という平成7年9月27日付の重要な保護課長通知(次の「参考資料」をご覧ください。)が,生活保護手帳や 別冊問答集に掲載されておらず,この通知の内容を知らないケースワーカーが多いためです。

 そのため,毎年,どこかの自治体で,厚生労働省監査や 会計検査院の検査により 誤りが指摘され,生活保護法第63条に基づき,過去5年以内にさかのぼって,障害者加算に相当する生活保護費の返還が求められることになります。

 

 そんな重要な通知ならば,生活保護手帳や 別冊問答集に載せればよいのに と思うのですが,毎年,厚生労働省監査や 会計検査院の検査により,同じ誤りが指摘されているにもかかわらず,厚生労働省は,その通知を 生活保護手帳や 別冊問答集に載せようとしませんし,私には,その通知を載せない理由が分かりません。

 

 また,福祉事務所の運用の誤りにより,生活保護法第63条に基づき,過去5年以内にさかのぼって 生活保護費の返還を求められたとしても,福祉事務所の運用の誤りによる生活保護費の過払金については,返還しなくても,生活保護費から天引きされることはありませんし(生活保護法の規定により,天引きができません。),何ら罰則規定はありませんので,返還しないでおくか,又は,返還するにしても,返還額は 月額500円~1,000円程度にしましょう。

 

 さらに,福祉事務所の説明や 返還処分に納得できないときは,都道府県知事に返還処分の取消しを求める審査請求を行う方法もあります。

 

 なお,福祉事務所のミスによる生活保護費の過払金の返還問題については,このブログの6月29日の記事「生活保護と 担当員のミスによる保護費の返還(№1)」と,7月16日の記事「生活保護と 担当員のミスによる保護費の返還(№2)」も ご覧ください。

 残念ながら,福祉事務所のミスによる生活保護費の返還件数は,毎月,毎年,かなりの数に上ります。 同じ公務員として,本当に恥ずかしく,もっと勉強しろ と言いたくなります。

 

 

 

参考)

○厚生労働省 保護課長通知

〔「障害の程度が確認できる書類」〕

問(第7の65)

 局長通知第7の2の(2)のエの(イ)にいう「障害の程度が確認できる書類」には,精神障害者保健福祉手帳が含まれるものとして解して差し支えないか。

 

 障害者保健福祉手精神帳の交付年月日 又は 更新年月日が,障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた(注:初診日)後,1年6月を経過している場合に限り,お見込みのとおり取り扱って差し支えない。この場合において,同手帳の1級に該当する障害は国民年金法施行令別表に定める1級の障害と,同手帳の2級に該当する障害は同別表に定める2級の障害とそれぞれ認定するものとする。

 なお,当該傷病について初めて医師の診療を受けた日の確認は,都道府県精神保健福祉主管部局において保管する当該手帳を発行した際の医師の診断書(写しを含む。以下同じ。)を確認することにより行うものとする。

  おって,市町村において当該手帳を発行した際の医師の診断書を保管する場合は,当該診断書を確認することにより行うこととして差し支えない。

 

 

精神障害者保健福祉手帳による障害者加算の障害の程度の判定について

 (平成7年9月27日,社援保第218号)(各都道府県・各指定都市・各中核市民 生主管部(局)長あて厚生省社会・援護局保護課長通知)

 

 今般,精神保健法の一部を改正する法律(平成7年法律第94号)による改正後の精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)第45条の規定により創設された「精神障害者保健福祉手帳」の制度が平成7年10月1日から実施されることに伴い,昭和38年4月1日社保第34号当職通知「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」及び 昭和40年5月14日社保第284号当職通知「生活保護法による保護における障害者加算等の認定について」を別添のとおり改正したが,その要点は左記のとおりであるので,了知の上,保護の実施に遺憾のなきを期されたい。

 

 

 精神障害者の障害者加算の認定に係る障害の程度の判定は,次のとおり行うことができるものとしたこと。

 

1 障害基礎年金の受給権を有する者の場合

(1)障害の程度の判定は,原則として障害基礎年金(以下「年金」という。)に係る国民年金証書により行うが, 精神障害者保健福祉手帳(以下「手帳」という。)を所持している者年金の裁定を申請中である場合には,手帳の交付年月日又は更新年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過している場合に限り,年金の裁定が行われるまでの間は 手帳に記載する障害の程度により障害者加算に係る障害の程度を判定できるものとしたこと

 

(2)年金の裁定が却下された後,手帳の交付又は更新を受けた者については,年金の裁定の再申請を指示するとともに,再申請に係る年金の裁定が行われるまでの間は,当該手帳に記載する障害の程度により障害者加算に係る障害の程度の判定を行うことができるものとしたこと。

 

(3)障害の程度は,手帳の1級に該当する障害は国民年金法施行令(昭和34年政令第184号)別表に定める1級の障害と,同手帳の2級に該当する障害は同別表に定める2級の障害と,それぞれ認定するものとしたこと。

 

(4)手帳の交付年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過していることの確認は,都道府県精神保健福祉主管部局において保管する当該手帳を発行した際の医師の診断書(写しを含む。以下同じ。)を確認することにより行うものとしたこと。

 また,保健所において当該手帳を発行した際の医師の診断書を保管する場合は,当該診断書を確認することにより行うこととしたこと。

 

2 障害年金の受給権を有する者以外の場合

(1)手帳の交付年月日又は更新年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過している者については,手帳に記載する障害の程度により障害者加算に係る障害の程度を判定できるものとしたこと。

 

(2)障害の程度は,手帳の1級に該当する障害は国民年金法施行令(昭和34年政令第184号)別表に定める1級の障害と,同手帳の2級に該当する障害は同別表に定める2級の障害と,それぞれ認定するものとしたこと。

 

(3)手帳の交付年月日が当該障害の原因となる傷病について初めて医師の診療を受けた後1年6月を経過していることの確認は,都道府県精神保健福祉主管部局において保管する当該手帳を発行した際の医師の診断書を確認することにより行うものとしたこと。

 また,保健所において当該手帳を発行した際の医師の診断書を保管する場合は,当該診断書を確認することにより行うこととしたこと。