【問】先日,生活保護を受けていた兄が亡くなりましたが,ケースワーカーから,あなたが住んでいる市の福祉事務所で葬祭扶助の申請をしてくださいと言われました。
先日,生活保護を受けていた兄が亡くなり,兄の葬祭費の捻出が難しかったので,兄を担当していたケースワーカーに葬祭扶助について相談したところ,そのケースワーカーから,あなたが住んでいる市の福祉事務所で 葬祭扶助の相談・申請をしてくださいと言われました。
どうして 兄が生活保護を受けていた福祉事務所が,兄の葬祭扶助費を支給してくれないのでしょうか。
【答】
あなたが疑問に思うのも分かりますが,生活保護を受けていた単身者が亡くなったときは,その生活保護受給者は 既に亡くなっており,扶養義務者が葬祭を行うものですから,葬祭の執行や葬祭費の捻出については,亡くなった生活保護受給者の問題ではなく,葬祭を行う扶養義務者の問題となります。
つまり,生活保護を受けていた あなたの兄は,既に亡くなっており,葬祭扶助の申請を行うことはできないため,葬祭を行うあなた自身が,兄の葬祭費の捻出に困窮している場合は,あなたの居住地を所管する福祉事務所で 生活保護の葬祭扶助の申請を行い,あなたに生活保護の葬祭扶助(約24~26万円:地域によって異なる)を行うだけの収入や資産等がないときは,葬祭扶助を申請したあなたに対して,葬祭扶助費が支給されることになります。
要するに,亡くなった あなたの兄については,亡くなった日の翌日付で生活保護が廃止され,あなたの兄が,自分自身の葬祭を行うものではないので(兄は亡くなっているので,当然,自分で 自分の葬祭を行うことができない),兄の葬祭を行う あなた自身の問題となるわけです。
また,亡くなった兄を担当していた福祉事務所は,兄が亡くなった日の翌日付で生活保護を廃止しますので,兄の葬祭を行う扶養義務者がいるときは,兄の葬祭に関しては,その福祉事務所は 何ら関与するところではありません(葬祭を行う扶養義務者がいないときのみ,その福祉事務所は,葬祭を行う民生委員や友人等に対して 葬祭扶助費を支給します。)。
扶養義務者は,そのことが理解できず,生活保護を受けていた者が亡くなったのであるから,当然,その葬祭扶助費も生活保護で支給されるものと思い込んでいる人が多くいますし,ケースワーカーの中にも,そのように勘違いしている人が 時々います。
重ねて言いますと,葬祭扶助は,亡くなった生活保護受給者ではなく,葬祭を行う者が申請し,葬祭を行う者に支給するものですから,生活保護上は,次のような取扱いになります。
<① 葬祭を行う扶養義務者がいて,葬祭費の捻出に困窮している場合>
生活保護法第18条第1項により,扶養義務者が,その居住地を所管する福祉事務所に葬祭扶助を申請し,収入や資産等の要否判定の結果,葬祭費の捻出に困窮していると認められるときは,葬祭を行う扶養義務者に対して 葬祭扶助費が支給されます。
亡くなった生活保護受給者と交流がある扶養義務者が,葬祭扶助を行うことができないという理由のほとんどは,葬祭費の捻出に困窮している場合であり,この①に該当します。
<② 葬祭を行う扶養義務者がない場合>
(扶養義務者がいない場合だけでなく,扶養義務者がいても,交流が全くない等ため 葬祭の執行を拒否する場合や,病気・高齢等で葬祭の執行ができない場合を含む。)
生活保護法第18条第2項第1号により,扶養義務者以外の葬祭を行う者(民生委員や友人等)が,亡くなった生活保護受給者を担当していた福祉事務所で 葬祭扶助を申請し,葬祭を行う者(民生委員や友人等)に対して 葬祭扶助費が支給されます(この場合,上記①のような,葬祭を行う人の収入や資産等の要否判定は行われません。)。
亡くなった生活保護受給者と交流が全くない扶養義務者が,葬祭の執行を拒否する場合は,この②に該当し,民生委員や友人等が 葬祭を行うことになります。
したがって,福祉事務所が,単身者の死亡に伴い その葬祭扶助費を支給するのは,葬祭を行う扶養義務者がいない場合(扶養義務者がいない場合だけでなく,扶養義務者がいても,交流が全くない等ため 葬祭の執行を拒否する場合や,病気・高齢等で葬祭の執行ができない場合を含む。)【= 生活保護法第18条第2項第1号を適用する場合】であり, 葬祭を行う扶養義務者がいて,その区域外に住んでいるときは,あなたが質問で書いているとおり,担当のケースワーカーは,扶養義務者に対して,その居住地を所管する福祉事務所で 葬祭扶助の相談・申請を行ってくださいと説明することになります。
(参考)
生活保護法(抜粋)
(葬祭扶助)
第18条 葬祭扶助は,困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して,左に掲げる事項の範囲内において行われる。
(略)
2 左に掲げる場合において,その葬祭を行う者があるときは,その者に対して,前項各号の葬祭扶助を行うことができる。
一 被保護者が死亡した場合において,その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき
二 死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において,その遺留した金品で,葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき
(遺留金品の処分)
第76条 第18条第2項の規定により葬祭扶助を行う場合においては,保護の実施機関は,その死者の遺留の金銭及び有価証券を保護費に充て,なお足りないときは,遺留の物品を売却してその代金にこれを充てることができる。
2 都道府県又は市町村は,前項の費用について,その遺留の物品の上に他の債権者の先取特権に対して優先権を有する。