【問】障害者加算が支給されている場合は、おむつ代などの生活一時扶助については,障害者加算を含めた経常的最低生活費で賄う必要があるのですか。

 

 生活保護に関する書籍を読むと,「障害者加算が支給されている場合は、おむつ代などの生活一時扶助については,障害者加算を含めた経常的最低生活費で賄う必要があるが、 火災保険料などの住宅一時扶助や、通院移送費などの医療一時扶助については、生活一時扶助ではないので、障害者加算を含めた経常的最低生活費で賄う必要はない。」と書かれていました。

 本当に、そのように考えてよいのですか。

 

 

【答】

 その書籍に書かれているとおり、「障害者加算が支給されている場合は、おむつ代などの生活一時扶助については,障害者加算を含めた経常的最低生活費で賄う必要があるが、 通院移送費などの医療一時扶助や、火災保険料などの住宅一時扶助については、生活一時扶助ではないので、障害者加算を含めた経常的最低生活費で賄う必要はない。」と考えてよいと思います。

 

 上記の前段のおむつ代などの生活一時扶助については,障害者加算を含めた経常的最低生活費で賄う必要があるという理由は、「生活保護手帳」「別冊問答集」には、次のような記述があるからです。

 

被服(おむつ代を含む)や 家具什器の更新 その他 通常予測される生活需要については,経常的最低生活費(基準生活費,加算等)の範囲内で賄われるべきものであること。

 

一時扶助は,最低生活に必要不可欠な物資を欠いていると認められる場合であって,それらの物資を支給しなければならない緊急やむを得ない場合に限り臨時的に認定するものであること。

 

一時扶助は,予想外の事由により臨時多額の需要が生じた場合等(火災により 家財道具を焼失した場合や,単身の長期入院患者が退院して 新たに居を構える場合など)特定条件下における臨時特別の需要に対応するものであること。

 

被服費(おむつ代を含む)等の一時扶助は,経常的最低生活費のやり繰りで賄うことが期待できないような臨時的特別の状態に着目して 現物給付等により支給するものであること。

 

 一方、通院移送費などの医療一時扶助や、火災保険料などの住宅一時扶助については、「生活保護手帳」や「別冊問答集」には,おむつ代などの生活一時扶助のように,原則として経常的最低生活費(基準生活費,加算等)の範囲内で賄うことなどの記述は見当たりませんし,生活保護制度に係る書籍(「生活保護の争点」や「生活保護申請マニュアル」)には,「通院移送費は,医療扶助の一部として,医療へのアクセスを保障するものであり,生活扶助とは全く別のものです。」と記載されています。

 

 また、「生活保護手帳」の中の「医療扶助実施要領」には,一時期,通院移送費は,少額なものについては支給しなくてよいと解釈できるような記述がありましたが, 弁護士や学者等の強い批判があったため,厚労省は,数年後に この記述を削除する改正を行いました。

 そのため,その後は 通院移送費は,たとえ 障害者加算が支給されていたとしても,医療扶助の一部あり,経常的最低生活費(基準生活費,加算等)には含まれないとして,少額であっても支給せざるを得ないと解釈し 運用している自治体が多いと思います。

 

 さらに,ある自治体では,「障害者加算が計上されている場合は,通院移送費が障害者加算の額を超える場合に,その超えた分の通院移送費のみを支給する」という運用を行っていましたが,審査請求が行われた結果,この福祉事務所自らが,通院移送費の不支給処分を取り消した事例もあります。

 

 障害者加算が認定されていた事例ではありませんが,通院移送費に係る却下処分の取消訴訟において,次のとおり,通院移送費を認めるべきとの判決があります。

 

 なお、通院移送費については、このブログの6月13日の記事「生活保護と通院交通費」も 参考にしてください。

 

 

 

(参考)

○姫路市に120万円支払い命令  生活保護交通費

神戸新聞 平成25年3月22日

 

 医療移送費(通院交通費)の受給資格があったのに兵庫県姫路市職員の誤った説明(補足: 通院交通費は生活扶助費に含まれているので支給できないなど)で受け取れなかったとして,同市の生活保護受給者の男性(60歳)が同市に対し,未支給の交通費と慰謝料計480万円などを求めた訴訟の判決が平成25年3月22日神戸地裁であり,栂村明剛裁判長は同市に約120万円を支払うよう命じた。

 判決によると,男性は平成13年3月から生活保護を受給。持病の治療のため神戸市や大阪府内の病院に通っていたが,姫路市のケースワーカー3人に交通費分の保護費を受給できないか相談したところ,「すでに支給された保護費で賄うように」と言われて断念した。

 しかし,平成19年11月,報道(補足:北海道滝川市の通院移送費不正受給事件)で交通費の受給制度を知り,抗議後,受け取れるようになった。

 同市側は「男性からの問い合わせはなかった」と主張したが,栂村裁判長は「男性の供述は自然で信用できる」と認定。 その上でケースワーカーの対応について,「支給される可能性があったのに,誤った認識で漫然と回答を繰り返しており,違法と言わざるを得ない」とし補足: 通院移送費申請(平成13年3月19日(保護開始日)~平成19年10月分)却下処分の取消請求については棄却したが,国家賠償法により) 未支給の6年半分(平成13年3月19日(保護開始日)~平成19年10月分)の交通費113万円)に加え,慰謝料(10万円)の請求も認めた(補足: 成19年11月分以降の通院移送費については,姫路市及び兵庫県は支給を認めた。)

 判決後,原告弁護団は「行政には国民が生活保護を受ける権利について,正しく伝える義務がある。保護費抑制に走る行政の姿勢に歯止めをかけられれば」と話した。

 一方,同市生活援護室は「判決を精査してから対応を検討する」とした。