【問】
入院給付金の資力発生日は,「給付の対象となる日以降」ですか,それとも「受領日」ですか。
(「コメント欄」に質問がありましたので、掲載します。)
入院給付金の資力発生日は,いつになるのですか?
「東京都生活保護運用事例集」を見ると,「入院給付金の資力発生日は,給付の対象となる日以降」と書かれていますが,私の担当ケースワーカーは,「本市では 受領日としている。」と言っています。
どちらが正しいのですか?
【答】
難しい質問です。 私も正解は分かりません。
確かに「東京都生活保護運用事例集」には,「入院給付金の資力発生日は,『給付の対象となる日以降』」と書かれています。
つまり,東京都や さいたま市,横浜市,神戸市などいくつかの自治体では,「入院給付金の資力発生日は,給付の対象となる日以降」(=入院給付金の請求権発生日=入院日から請求できる保険の場合は 入院日,入院5日目から請求できる保険の場合は 入院5日目)とされています。
しかし,自治体によっては,「受領日」としているところもあります。
その理由は,「別冊問答集」の「問3-25 保護受給中に受領した生命保険の解約返戻金,保険金等の取扱い」において,「入院給付金等の保険給付金は,次第8の3の(2)のエの(イ)により,8,000円を超える額について 収入認定を行うこととなる。」とされているためであると思われます(つまり,資力発生日が「受領日」の場合は、受領月に収入認定を行うことになります。)。
厚生労働省は,入院給付金の資力発生日がいつになるのか ということについては,「生活保護手帳」や「別冊問答集」,通知等には,明確には書いていませんが, 私は,東京都などと同様に,入院給付金の資力発生日は,「給付の対象となる日以降」(=入院給付金の請求権発生日)が妥当ではないかと考えています。
その理由は,「障害基礎年金の資力発生日が,年金受給権発生日」とされているからです。
「別冊問答集」の「問13-6 費用返還と資力の発生時点」において,「障害基礎年金の資力発生日については,国民年金法第18条によると,年金給付の支給は『支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から』支給されることとなっているが,被保険者の裁定請求が遅れたり,又は裁定に日時を要した場合,既往分の年金が一括して支給されることになる。 つまり,年金受給権は,裁定請求の有無にかかわらず,年金支給事由が生じた日に当然に発生していたものとされている。 したがって,この場合,年金受給権が生じた日から法第63条の返還額決定の対象となる資力が発生したものとして取り扱うこととなる。 このように,日本年金機構へ裁定請求した日 又は 裁定があった日を資力の発生時点として取り扱わないので,受給権が発生しているにもかかわらず,本人が裁定請求を遅らせる等悪意的要素によって資力の発生時点を変えることはできないこととなる。」とされています。
つまり,障害基礎年金よりも入院給付金の方が 受給できる可能性が高いので,「障害基礎年金の資力発生日が 年金受給権発生日」であるならば,当然,「入院給付金の資力発生日は 給付の対象となる日以降(=入院給付金の請求権発生日)」になると思われます。
「障害基礎年金の資力発生日が 年金受給権発生日」であるにもかかわらず,「入院給付金の資力発生日が 受領日」になるという理屈が,私には分かりません。。
そこで,「入院給付金の資力発生日が,給付の対象となる日以降(=入院給付金の請求権発生日)」の場合と,「受領日」の場合との違いは,例えば,単身世帯の保護受給者が,入院中に死亡したときにおいて,「入院給付金の資力発生日が,給付の対象となる日以降(=入院給付金の請求権発生日)」の場合は,「入院給付金の請求権発生日」に遡って,入院給付金に相当する保護費が,法第63条の返還対象になることになります(本人は亡くなっているので,遺族が 法第63条返還義務を相続し,遺族が受領した入院給付金の範囲内で,入院給付金の請求権発生日(入院日など)以降に支給した保護費を 福祉事務所に返還することになります。)。
一方,「入院給付金の資力発生日が 受領日」の場合は,入院給付金は,保護受給者死亡後に遺族が受け取ることになりますので,収入認定や 法第63条の返還対象にならないということになり,資力発生日の考え方により,このように 取扱いには大きな違いが生じます。
私が調べた限りでは,平成30年3月19日の大阪府知事裁決や,令和4年の東京都行政不服審査会の答申などにおいて,「東京都生活保護運用事例集」の「入院給付金の資力発生日は,給付の対象となる日以降」という考え方を採用していると読めるものがありますが,現時点では,私にも正解は分かりません。
果たして,厚生労働省は,どのように考えているのでしょうか。 そして,そのように考える理由は何でしょうか。
厚生労働省は,「別冊問答集」等により,入院給付金の資力発生日を明確にすべきだと思います。 そうでないと,自治体により取り扱いが異なり,不都合な事態が生じています。
なお,このブログの10月18日の記事「生活保護と入院給付金」も,合わせてお読みください。
(参考)
別冊問答集
問3-25 保護受給中に受領した生命保険の解約返戻金,保険金等の取扱い
(問)
保護開始時に保有の認められた生命保険について,保護受給中に解約返戻会 や死亡保険金,入院給付金等を受領した場合の取扱いを示されたい。
(答)
次のとおり取り扱われたい。
(1)~(2)
(3)入院給付金等の保険給付金
(2)と同様,保険契約は継続されており未だ資産としての保険を保有している状態にあることから,解約返戻金相当額について考慮する必要はない。 しかしながら,保険事故に対する給付は,「保護費のやりくりによって生じた預貯金等」にはあたらないものである。
よって,次第8の3の(2)のエの(イ)により,8,000円を超える額について 収入認定を行うこととなる。
なお,入院給付金は,通常 契約者ではなく,被保険者に対して支払われるので留意が必要である。
問13-6 費用返還と資力の発生時点
(問)
次の場合,法第63条に基づく費用返還請求の対象となる資力の発生時点は,いつと考えるべきか。
(1)障害基礎年金等が裁定請求の遅れや障害認定の遅れ等によって遡及して支給されることとなった場合
(答)
(1)国民年金法第18条によると,年金給付の支給は『支給すべき事由が生じた日の属する月の翌月から』支給されることとなっているが,被保険者の裁定請求が遅れたり,又は 裁定に日時を要した場合,既往分の年金が一括して支給されることになる。 つまり,年金受給権は,裁定請求の有無にかかわらず,年金支給事由が生じた日に当然に発生していたものとされている。 したがって,この場合,年金受給権が生じた日から法第63条の返還額決定の対象となる資力が発生したものとして取り扱うこととなる。
このように,日本年金機構へ裁定請求した日,又は 裁定があった日を資力の発生時点として取り扱わないので,受給権が発生しているにもかかわらず,本人が裁定請求を遅らせる等悪意的要素によって資力の発生時点を変えることはできないこととなる。
なお,上記により資力の発生時点が保護の開始前となる場合でも,返還額決定の対象を 開始時以降の支払月と対応する遡及分の年金額に限定することのないよう留意すること。